エピローグ
本日二話目の投稿、最終話です。
あれからすぐ、王妃様は体調が快復し一週間後には公務に戻ったという。
本当は三日ほどで治っていたらしいが、過保護な陛下が一週間は休まないといけない!と言って側近達を泣かせたと聞いた。
まあね、大切な人を亡くすかもしれないと不安だっただろうから、陛下の気持ちも分からなくもない。
そして今、私はフリード様と一緒にアルストロメリア領へと向かっている。
薬師として覚醒した私だが、これからもダイアンサス領で勤めていきたいと、家族から了承をもらうために。
「そういえば、結局王妃様はどうしてアメリアのお茶を飲み続けてたんだろう?」
「ああ、それだがな……」
馬車の向かいに座るフリード様が、つらつらと私の疑問に答えてくれた。
それによると、どうやらアメリアの花には女性を妊娠しやすくさせる作用があるのだという。
仲睦まじくすでに王子を三人産んでいる王妃様だが、どうしても姫がほしい!と常々思っていたのだという。
「まあ男ばっかり産むと女の子が欲しくなるっていうもんね。それにしてもラブラブだなぁ……」
どうしても女の子が欲しくて何人も産んじゃうって、前世でも良く聞いた話だものね。
あの美男美女から生まれる絶世の美少女、見たい気はする。
それで多少体調が悪くなっても無理して飲んでしまったってことか。
一国の王妃としては少し迂闊な気もするが、女性としての気持ちは分かる気がする。
「……おまえは、どっちが良いとかあるのか?」
「は、はっ!?いや、私は別にこだわりは……。っていうか、私まだ二十歳だし、そんな話まだ早いでしょうよ!」
「き、聞いてみただけだろうが!」
冷静になろうと思って馬車の窓から外の景色を見たのだが、目的地が近づいてきて少し億劫な気持ちになる。
正直、めんどくさいことになりそうだとしか思えない。
「日が落ちてきましたね。今日はあの街で一泊しましょう」
「喧嘩はそのくらいにしなよね」
すっかりお馴染みとなった、同乗していたグレイさんとルークのため息に、私達は小さくなる。
そうして少し先に見えてきた街に着くと、私達は適当に選んだ宿屋に泊まることにした。
「あ、フリード様」
「マリアンナも外の空気にあたりに来たのか?」
夕食を済ませたお風呂上り、涼もうと思って外に出ると、先客がいた。
せっかくだし、ゆっくりふたりで話したいな。
そんな思いは一致したようで、近くにあったベンチにふたり並んで座った。
あ、月が出てる。
綺麗な満月だなぁ。
「月が綺麗だな」
ぽつりとこぼしたフリード様に、ぽかんと口を開けて一時停止する。
「?なんだ、変なことを言ったか?」
「い、いや、なんでもアリマセン」
まさか前世でその台詞は有名な「I Love You」と翻訳される文節だなんて、説明できるわけがない。
フリード様に他意がないことは分かっている。
ただ単に満月が綺麗だなって思って言っただけだ。
とりあえず落ち着こうと深呼吸する。
動悸を抑えようと胸に手をあてていると、フリード様が空を仰いだ。
「俺と、おまえみたいだな」
「は?なんですかソレ、自信過剰ですか?」
そういえば前世の歴史で「望月の~」と昔の偉い人が詠んだ和歌があった。
自身の栄華を詠んだものだったはず。
まさかフリード様もその気が……?とちょっと引き気味で聞き返すと、ものすごく変な顔をされた。
「そんなわけがないだろう!確かに俺は自分を月に例えたが、おまえという太陽がいないと光れなかったという意味だ!」
は?とまた呆然とする。
「月があれだけ輝けるのは、太陽の光を受けているからだろう。今までスキルのことで腐っていた俺を光らせてくれたのは、おまえだと言っているんだ!くそ、こんなこっぱずかしいこと言わせるなよな……」
暗がりでもフリード様が真っ赤になっているのが分かる。
そんなことを言うなんて、意外過ぎて返しに困る。
『月はえらいなぁ。自分ひとりでも、あんなに輝けるのだから』
ふと、前世で事故に遭う前にそんなことを思って月を眺めていたことを思い出す。
『一緒に支え合える人がいたらなぁ。足りないものを補い合って、励まし合って、素直な気持ちを言葉に出して、時には怒って、笑って、泣いて』
……それって。
ちらりと隣で茹ダコみたいになって黙っているフリード様を見る。
そっか、私ってばいつの間にか。
「フリード様、あの……」
意を決して想いを伝えようとすると、バタバタと宿の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「ウィルフリード様、大変です!町長が原因不明の病に罹ったとのことです!」
「腕の良い医師か薬師がいないかって言ってるよ。君達の出番なんじゃない?」
グレイさんとルークがやって来て、事情を説明してくれる。
確かにこれは私達が行くべきかもね。
「マリアンナ、行くぞ。何日か滞在しなくてはいけなくなるかもしれんが」
「構いませんよ。ウチの家族も、病気の人を放っておいて帰省するような薬師の娘を、一人前と認めてくれないと思いますからね」
「……そうだな」
頷き合って、走り出す。
宿屋の店主にダイアンサスから来た薬師だと告げると、今一番医療の発達している領地の薬師だと!?と喜ばれた。
そうして案内してもらいながら患者の待つ家へと駆けていく途中、フリード様が隣でふっと笑った。
「実は、おまえの家族に申し込もうと思っていることがあるんだ」
「へ?だから、アルストロメリア領に戻らずにこれからもダイアンサス領の薬師として働けるよう、お願いしに行くんでしょう?」
そのために遥々アルストロメリア領まで馬車を走らせてきたのだ。
なにを今更、こんな時に。
「それもだが、婚約もな」
「ああ、そうこんや……婚約!?」
思ってもみなかった単語が出てきて、足は止めずとも驚き叫ぶ。
「だ、誰が誰に?」
「俺がおまえにに決まっているだろう。馬鹿かおまえは」
「な、なんで……」
「なんで?さっきの俺の話を聞いていなかったのかおまえは!?」
二度も言わんぞ!!と今度はフリード様が叫ぶ。
「あんな、月が綺麗だなんて告白、恥ずかしくてもうやらないからな!」
え、それって。
「ああ、有名な小説の一節ですね。そんなこっぱずかしい告白したんですかウィルフリード様。しかもマリアンナ嬢にはちっとも伝わってないじゃないですか。これは笑い話ですね」
「へえ、人間って面白いことするんだね」
並走するグレイさんとルークがにやにや顔でからかってくる。
フリード様が口を滑らせたからとはいえ、このいたたまれない空気どうすんのよ!?
「この旅の間におまえに返事をもらわなくてはと思っていたのだが、こんな時に、すまない」
はあっとフリード様がため息をついた。
確かに、こんな緊急事態に巻き込まれるなんて思ってもみなかったものね。
「……そうですね、とりあえずこれだけは言っておきますね。私にとっては、月は前からずっと綺麗でしたよ」
「は? それは、一体どういう意味……」
「あ、ほらもう着きましたよ!その話は、患者さんを助けた後で!」
町長の家に着き、急いでベッドで横になっている町長の鑑定をフリード様に促す。
役立たずだと思っていた鑑定スキル。
それでも自分にできることをと努力を惜しまなかった彼を、私はずっとすごいなって思っていた。
自分のことを月だと言ったフリード様。
私のおかげで輝くことができたと、彼はそう言うけれど。
私ひとりではできなかったことを、いつも彼が支えてくれていた。
私だってきっと、ずっと前からあなたに惹かれていた。
月だって、応えてくれようという気持ちがないと輝けないのだから。
これからも一緒に輝いていけるように、私も努力していきたい。
「マリアンナ、薬、作れそうか?」
「任せて下さい!すぐに元気になりますから、頑張って下さい」
そう言って患者の町長を安心させる。
ねえ、フリード様。
私達もずっと。
ふたりで足りないものを補い合って、泣いて、笑って、これからも。
ずっと、私の隣で笑っていて下さいね。
*Fin*
ということで最終話でした。
最後までお付き合い頂けました皆様、ブクマや評価、誤字報告を下さいました皆様、本当にありがとうございました(*^^*)
また書籍については詳細を活動報告に載せられたらなと思っております。
そして発売日あたりに番外編も投稿できるといいな、と。
もしよろしければそちらも覗きに来て下さい♡
最後まで本当にありがとうございました。