ざまぁ?そんなこと、いちいち企みませんから!4
「こっ、ここに、マリアンナがいると伺って来たのですが!?」
やはり来てしまった、陰険眼鏡だ。
「陛下!なぜ国一番の知識を持つ我々でも原因の掴めなかった王妃様の治療を、こんな者に任せようとするのですか!?」
相変わらずのいけ好かない顔と眼鏡を直す仕草。
全然お変わりないみたいね。
それにしても国王陛下の御前だというのに、礼儀もなにもあったものじゃないわね。
「この者は以前薬剤室に勤めていたのですが、私達に反抗してばかりで、その上ポーション作りにしか能がなく……。王妃様の謎の病を治す力も、知識も、あるはずがありません!」
室長がはぁはぁと息を切らしながらあることないこと陛下に告げ口していく。
その様子をしばらく黙って見ていたが、苦しむ王妃様のために早く薬を作りに行きたい。
「そうやって私達の邪魔をして、王妃殿下の快復を妨げようという魂胆か?おまえ、ひょっとして反国王派なのか?」
そこへ、フリード様がそう言って室長を睨みつけた。
「な……!め、滅相もありません!私は陛下に忠実な家臣です!」
「ではすぐにそこを退け!私達は王妃殿下を助けるために召喚されたのだ。おまえなどにそれを邪魔する権利などない」
その迫力に、さすがの室長も怯んだ様子だ。
長身美形からの氷のような鋭い眼差しと厳しい言葉、普段のちょっと子どもっぽい喧嘩からは想像もつかないほどの威圧感がある。
それに、その内容も室長からしたら従わざるを得ないものだもの。
ここで拒否したら、王妃様が快復したら困ると思っているのではないかと勘違いされてしまう。
その実態は、ただ私が気に入らないってだけなんだけどね。
思った通り、顔を顰めながらも室長は私達に道を開けてくれた。
しかし私にすれ違いざま、こんなことを囁いた。
「ふん、貴様になにができる。せいぜい恥を晒すのだな」
むっかー!
なにそのしょうもない悪口!
フリード様以上の子どもじみた嫌味に、こちらはにっこりと余裕の笑みを見せる。
「ご心配なく、信用できる診察を頂いたので、きちんと薬を処方できますから。まあ職務怠慢を働くような方には、この病の原因が分からなかったかもしれませんけれど」
ご機嫌ようとお礼をしてその場を去る。
ふん、好きなだけ吠えてろってのよ。
言い返すことができてちょっとスッキリしたわぁと思っていると、フリード様達にじーっと見られていることに気付いた。
「知ってはいたが、俺の援護など必要なかったな」
「マリアンナつよい!さすが僕のご主人!」
「ほっほっ、わが領の聖女様は頼もしくていらっしゃるのぅ」
「実力も伴っておりますし、慎ましいだけのご令嬢よりも私は良いと思いますよ」
どことなく楽しそうなフリード様、ルーク、ヨーゼフ先生、グレイさんとは対照的に、ストック大臣はまるで恐ろしいものでも見るかのように私を見つめている。
恥ずかしい。
いや、皆の前で我慢できなかった私が悪いのだが、つい。
「あ、あの……こちらが薬剤室となっておりますぅ……ひいっ!な、なにか問題でもありましたか!?」
げんなりとした私の表情すら大臣には怖がられている。
お淑やかには無理だけれど、もうちょっとかわいらしくする努力をすべきかしら……?
そんなことを思いながら今は懐かしい薬剤室へと足を踏み入れた。
結局私は薬剤室を借りてメローアメリア病の特効薬を作った。
ルークが薬草を揃えてくれたし、ヨーゼフ先生も手伝ってくれたので、難なく調合することができた。
念のためヨーゼフ先生に出来上がった薬を鑑定してもらったのだが、ちゃんと出来ているとお墨付きを頂けた。
ちなみに薬剤室では久しぶりに元同僚達と会うことができた。
私が辞めてからも、それはもうブラック度が過ぎていたらしく、相変わらず薬師など底辺の扱いらしい。
しかし彼らは、ダイアンサス領での私の噂を少しだけ聞いたことがある、自分達も薬学について学びたいと言ってくれた。
実は戻って来てほしいと言われるのではとちょっと思っていたのだが、人に頼るのではなく、自身のスキルアップを望む姿に応援したくなった。
これから王宮の中も変わると良いなと思う。
さて、作りたての薬を持って王妃様の寝室へと戻って来たのだが、そこにはなんと陛下だけでなく、室長も待ち構えていた。
……暇なの?と思ったけれど、口にはしなかった。
王妃様は丁度起きていたのだが、体を起こすことは難しく、陛下が心配そうにベッドの脇で手を握り励ましていたようだ。
「お待たせいたしました。王妃様、こちらの薬を服用して頂けますか?」
おふたりの前に薬を差し出す。
王妃様はうつろな目で薬の入った瓶を見つめた後、陛下へと視線を移す。
陛下がそれにこくりと頷き、王妃様も分かったわと言ってくれた。
陛下が労わるようにして王妃様の体を少しだけ起こす。
うーんさすがの美男美女、絵になるわぁ。
そして陛下が瓶と王妃様の体を支えて薬を飲ませる。
それを私達は息を吞んで見守った。
「……意外と、苦くはないのね。それに、なんだか気だるさが抜けた気がするわ。ありがとう、かわいらしい薬師さん。それとヨーゼフも。久しぶりなのにこんな姿で、ごめんなさいね」
「良かったです。この薬を三日程飲み続けて静養されれば、体調も戻るかと思います」
「ワシもマリアンナちゃんの薬の効き目は保証しますぞ。しばらく薬を飲み続けて、ゆっくりお休み下さい」
薬を飲みほしてすぐ、そのほっそりとした頬に赤みが差した気がする。
言葉もしっかりしているし、すぐに効いてきたみたいで良かった。
私とヨーゼフ先生もほっとする。
「ああ、王妃!良かった、君がいなくては私は……」
「ふふ、大げさよ。でもありがとう、あなたがダイアンサス辺境伯に連絡を取ってくれたおかげだわ」
王妃様の様子に、陛下も涙を滲ませて喜ぶ。
良かった、優しくて有能なおふたりにはまだまだこの国のために頑張ってもらわないと。
不安そうにしていたストック大臣もほっとした顔をしている。
さあこれで一件落着ねと思っていた時に、ぶるぶると震える室長がダン!と足を鳴らした。
ラストまであと二話の予定です。
明日で終われるかなぁと思いますので、よろしくお願いします(*^^*)




