ざまぁ?そんなこと、いちいち企みませんから!1
本日二話目の投稿です(^^)
前のお話をまだ読んでない方、ひとつお戻り下さい。
ラストまであと少し、最後までどうぞよろしくお願いします☆彡
フリード様からの要請を受け、私とヨーゼフ先生は、荷物を纏めてすぐに街を出た。
そしてフリード様のいる辺境伯爵家へと向かい、合流。
すぐに王都へと立ったのだった。
「すごい……!五日間乗っているけれど、お尻があんまり痛くならない!」
その道中、もうすぐで王都に到着するという頃に、私はそんなくだらないことに感動していた。
「ああ、討伐隊との遠征の時は、こんなスプリングの利いた豪奢な馬車じゃなかったからな。しかし女とは俺達男よりも尻に肉があるくせに馬車に乗ったくらいで……」
「セクハラ禁止!」
デリカシーのないフリード様の発言に、思わず座席のクッションを顔面に投げつけてしまった。
ヨーゼフ先生もほっほっと笑っているし、セーフだとしよう。
「なにをするんだこの暴力女!おまえ、そんなだから討伐隊員からも恐れられるんだぞ!?」
「あぁら、こんな小娘に叱られて縮こまるような軟弱な男ばかり集めるからでしょう!?だいたいちゃんと全員回復魔法で治してあげたんだから、文句言うな!」
ぎゃーぎゃーと言い合う私達の隣では、ヨーゼフ先生とグレイさんがまたはじまったと呆れ顔をしている。
ちなみにルークは私の膝の上で同じような顔をしている。
っていうか、今はこんな喧嘩をしている場合ではない。
それに瀕死状態を救った時の、あの空気はどこへ行ったんだ。
こんな調子で気持ちがどうとか、そんな話ができるのだろうか。
そんなことにやっと気が付いて、こほんと咳払いをして居住まいを正す。
「それで、患者は王族なんですか?」
「ああ、やはり機密事項らしく、俺への伝達も患者が誰かは伏せてあった。しかし、恐らく王族、もしくはそれに連なる高貴な身分の者だろう」
だとすると、やはり王宮薬剤室も絡んできそうだ。
薬師の同僚達はともかく、あの陰険眼鏡と上司だった男には会いたくない。
まあ、それはきっと無理な話なんだろうけど。
覚悟していたこととはいえ、憂鬱だ。
どうせおまえなんかに治せるものかとイチャモンをつけられるに決まっている。
あーなんか容易に想像できちゃうわぁ。
あの腹立つ眼鏡を直す仕草も相変わらずなんだろうなぁ。
そんなやさぐれた気持ちが顔に出ていたのか、ヨーゼフ先生に閣下の前じゃぞと窘められる。
すみません、フリード様の説明中でしたね。
「とにかく王宮専属の医師たちも匙を投げたらしく、もう頼れるところがないと、俺に通達が来たんだ。とても優秀な薬師がいて、この一年で医学で勝る領地はないと言われるようになったダイアンサス領地になら、この病を治せるのではないかと」
確かにフリード様が病名を鑑定してくれれば、私が特効薬を作ることは可能だ。
ただし、それが精神的な病気でなければの話だが。
あとはもう手遅れな状況でないと良いのだけれど。
苦しんでいる人を見捨てられないからと即決したものの、治せなかったらフリード様にもなにか罰が下るのではないだろうか。
今更ながらにそんなことを思い、責任の重さを感じる。
「なに、そう硬くならんでも良い。いざとなればワシがなんとかするからの」
「ヨーゼフ先生……。でも、どうやって……?」
ただ私を安心させるために言ったわけではなさそう。
どういう意味なのだろうか。
「ああ、マリアンナ嬢はご存じないのでしたね。実はこのヨーゼフ医師は、十年程前まで王族筆頭専属医師として王宮勤めをされていたんですよ」
「へ……?」
「ほっほっ、もう昔のことじゃ。それにあの頃よりも余程、マリアンナちゃんと過ごしたこの一年の方が医師として密度が濃かったぞい。あの時辞めずに続けていたら、きっとワシは後悔していたじゃろうな」
なんでもないことのようにヨーゼフ先生は話すが、私は衝撃の事実に口をあんぐりと開けてしばらく固まってしまった。
なんてことだ、ヨーゼフ先生もまた、あのブラックな職場の犠牲者だったのか!
どういう経緯でお辞めになったのかは分からないが、この言い方だと私と同じように思うところがあったのだと思う。
「さて……あの頃と変わらないのか、それとも変わったのか。わざわざワシまで名指しで呼んでくれたのじゃ、古巣の見学もしていかねばの」
そして先生はふっと笑った。
温かい眼差しではなく、厳しい表情で。
きっと色々あったのだろう。
ちょっぴり寒気を感じながら話を聞いていると、そろそろ着きますよと御者から声がかかった。
馬車の窓を開けて外を覗くと、一年ぶりの懐かしい景色が見えてきた。
「わぁ……久しぶり」
懐かしいとは思うが、感慨深いかと言われるとそうでもない。
職場がブラックだったからといって、良い思い出がないわけではないのだが。
ああ、でも。
今のダイアンサス領での暮らしがとても良いからかも。
薬のことを教えにしばらく離れた場所に行った時も、あの街に戻るとああ帰ってきたんだなって思うもの。
たった一年足らずだけれど、私にとっての大切な場所になっていたのね。
「……そんな穏やかな表情で外の景色を見つめて。王都に戻りたくなったのか?」
「いえ、全然。早く役目をこなして、帰りましょうね」
眉間に皺を寄せるフリード様に、くすっと笑って答える。
“帰りましょうね”と自然と口にできる場所があることが、こんなにも温かな気持ちにさせてくれるなんて思わなかった。
今まで帰る場所といえば、アルストロメリア領だったのに。
「……ああ。終わったら、一緒に帰ろう」
“一緒に”。
そう言ってくれるフリード様の言葉が嬉しくて、私はそっと馬車の窓を閉めて微笑んだ。
「……あのさ、ふたりだけで帰らないでよ?僕たち三人のことも忘れないでよね」
「わ、分かってるわよ!なに言ってるのルーク!」
犬の姿なのににやにやしているのが分かるくらい顔を緩ませたルークを、私はぺちっとはたいてそっぽを向くのであった。




