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相棒は真っ白なもふもふ!?1

「さて、まずはどこの領地に行くか考えないとね」


きっちり働いた分のお給金をゲットした私は、とりあえず借家に戻って地図を広げた。


思い付きで決めるのはあまり良くない、今までの貯金もあるし、ここは時間をかけて慎重に決めたい。


「どうせなら薬の研究ができるような職場が良いわね。あとは、室長みたいな偉そうな人がいないところ」


どうせあの陰険眼鏡は、王都や栄えている都市の薬屋やポーション屋に、私のことを“上司の指示に従えない問題児”と言って触れ回るつもりだろう。


すごく嫌な笑顔で、新しい職場が見つかると良いなと言われたもの。


だから、できるだけ王都から離れていて、室長が当たりをつけないようなところ。


そして、薬草採取のしやすい森が近くにあった方が良いわね。


今は情勢的に隣国との関係悪化もないから、国境付近でも問題はない。


「うーん、となると、条件に合うのはこことここと……」


目ぼしい領地に丸印をつけていく。


あとはギルドの求人を見て、良いものがないか探そうか。


この国にはギルドという職業組合が各地に存在しており、そこでは国内の求人募集を知ることができる。


前世で通っていた大学の就職課にもたくさんバイトや就職の求人が貼ってあったけれど、イメージとしてはあんな感じ。


ギルドは独立した機関だから、もしも室長が圧力をかけようとしても、聞き入れないはずだ。


「毎日通えば、そのうち条件に合うものが見つかるでしょ。とりあえず当面は職探しにギルドに通うことと、薬草採取をして薬の研究をすること。このふたつが中心ね」


なにせブラック企業から抜け出せたのだ、時間はたっぷりある。


今日のところは日も暮れてきたし、ギルドへ行くのは明日からにして、夕食にしよう。


野菜たっぷりのスープを作るべく、玉ねぎっぽい野菜や人参っぽい野菜の皮をむいていく。


名前こそ違うが、異世界とはいえこの世界の野菜や果物などの食物は見た目は前世とほとんど変わらないため、記憶が戻ってからもなんの違和感なく食事ができている。


そしてマリアンナは貴族の令嬢の割には料理が得意で、この借家には食材も道具も豊富にある。


前世では忙しすぎてなかなか作る時間がなかったが、杏奈も料理は嫌いじゃなかった。


「ん?よく考えたら、料理もある意味調合よね。料理が得意なのも、ひょっとしたらスキルのおかげかもね」


なにせ調合のスキルレベルは最高の一歩手前だ。


調味料の配分を感覚で作っても美味しく出来上がるのは、スキルの力なのかもしれない。


なんとなくこれくらいかな?の感じで混ぜ合わせても、十分美味しいのだ。


前世ではスマホのアプリでレシピ片手に作っていたけれど、今世はずいぶんと楽なものだ。


「ちょっと待って。とすると、ひょっとして薬を作る時の配分も感覚で分かったりなんかして……」


包丁で野菜を切る手をぴたりと止めて、よく考えてみる。


今まではポーションばかり作っていたから気付かなかったけど、もしかして……。


「これは確かめてみる価値がありそうね」


鍋に食材を入れて煮込みながら、私は明日からの薬作りの計画を練るのだった。






翌日、私は手早く朝食を終えると、魔物の出る危険性がほとんどない町外れの小さな森へ薬草採取に出かけた。


もちろん薬作りの実験を行うためだ。


それに、地方に行くとなると色んな種類の薬を持っていた方がいい。


ひとり旅で頼れる人もいないので、道中で体調を崩すと大変だし、いざとなったらそれを売ってお金を得ることもできるのだから。


実は今朝も、借家の庭に生えている草の中に前世で見知った薬草があったので、試しに傷薬を作ってみた。


まだ実際に使っていないので効果の程は分からないけれど、傷薬ってかなり需要あるものね。


だから、採取の際に転んだり棘などで指を切ったりした時に使って検証してみようと思い、小さな容器に入れて持って来てみた。


「このスキルも今まで活用したことなかったけれど……」


私ってば、薬草採取のスキルが最高レベルなのよね。


何度も言うが、ポーションばかり作ってきたので、これまではいまいちスキルを活かしきれてなかったんだと思うのよ。


薬草採取なんてほとんど初めてだし。


「さて、薬に使えそうなものは……」


この世界特有の薬草に関して少しばかりの知識はあるが、どうせなら調味料の配分が感覚で分かるように、スキルが発動して薬草のことを教えてくれたりはしないだろうかと考えながら周囲に目を凝らす。


……が、特になにも変わらない。


「まあドラマや漫画の世界じゃあるまいし、そうそう上手くなんていかないわよね。あ、これも薬草よね」


前世でもその辺によく生えていたヨモギらしき草を見つけ、触れようとした、その時。


ステータスを開示した時のような、小さなウィンドウが現れた。


*****

ミドリソウ

薬効:止血、抗菌、抗炎症作用

*****


「……これが薬草採取のスキル?」


初めて見た。


なにこれ超便利じゃない。


でも、なぜ今まで使えなかったのだろう。


今朝作った薬の材料の草を採った時もなにも起こらなかった。


「あ、スキルが発動するように念じなかったからとか?」


四六時中こんなウィンドウが出てきたら、それはそれで見にくいもの。


じゃあ別の草でもう一度と、近くに生えていたツユクサらしき草をじっと見つめてスキル発動を念じてみる。


すると、先程と同じようなウィンドウが現れた。


*****

アオツユソウ

薬効:解熱、止瀉(ししゃ)

*****


おお……!出てきた……!


「しかもこの薬草、風邪薬や下痢止めの薬を作るのに使えそうね。さっきのミドリソウも血止めに使えるし、なんて素敵なスキルなの!」


ほくほく顔でミドリソウとアオツユソウを摘んでいく。


調合の実験もしたいし、多めに持って帰ろう。


同じようにして周りの植物を見渡すと、薬草として使えるものにだけウィンドウは現れるようで、中にはじっと目を凝らしてもなんの変化のない植物もあった。


その記述を見ていくと、“毒性が強いため口に入れることは厳禁。汁を塗布して使用すること”や、“妊婦は摂取不可”など、取り扱いに注意の必要なものには、詳しい説明までついている。


「これはちょっとすごいんじゃない?今まで使わなかったのは勿体なかったわね」


この調子なら薬作りの実験もはかどりそうだ。


幸先が良くて思わず顔も緩んでしまう。


目ぼしい薬草をあらかた摘み終えると、お腹がくうっと鳴った。


熱中していたら、結構時間が経ってしまっていたみたい。


木蔭でひと休みすることにしよう。

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