ヒーローのピンチを救うのはヒロイン!?3
その後すぐに作業場に行くとブルーノさんがいたので、一緒にポーションを作り、なんとか追加で四十本を治安隊の方に渡すことができた。
「俺が十本作る間に三倍の量を……やっぱりマリアンナさんはすごいですね」
そんな褒め言葉も今は苦笑いでしか返せない。私にやれることって、これだけなんだろうか。
「念のため……もう少し作っておこうかな。もしも足りなくなった時、誰がが取りに来るかもしれないし」
「えっ!? まだ作るんですか? まあ、マリアンナさんなら魔力も残っているんでしょうけど……。でも、無理せず休める時は休んだ方がいいですよ」
ブルーノさんが心配してくれるのは分かるが、なにかしていないと落ち着かないのだ。
だから、もうちょっとだけ作ったら休むと約束をした。
ブルーノさんはもうすでにほとんどの魔力を使ってしまったとのことなので、休んでもらうことにした。
さすがに少しは残しておかないとね、空っぽになるまで使わせるわけにはいかない。
そうしてひとりになると、こっそりルークを呼び出してポーションを作りながら話し始める。
「ね、スタンピードって、どうして起こったんだろう。もしかして、最近ダイアンサス領が栄えているからって妬む誰かの陰謀、とか?」
「まあ、なくはない話だけどね。今回は違うよ。これもあのウイルスの影響みたいだよ」
「それってエプシロンウイルスのこと?」
鍋の中身をかき混ぜながらルークの話を聞くと、どうやらあのウイルスは、人間だけでなく魔物にまで影響を与えているようだ。
ただ、人間のように体を弱らせるわけではなく、狂暴化させてしまうらしい。
最初は街に近いところを縄張りとする魔物から、少しずつ奥深くの魔物へと感染していったのだとルークは言う。
「それで普段は森の奥でひっそりと眠る魔物も、今回出てきてしまったってこと? 厄介なウイルスね……」
人間に対する特効薬が見つかったから、病気としてはそう怖がらなくても良いかもしれないが、魔物を狂暴化させてしまうというのは軽視できない。
「ひょっとしてこの世界で起きるスタンピードのいくつかは、ウイルスが原因なのかもしれないね。僕にはそこまでのことは分からないけど」
魔物の集団感染ってことか。
そう考えると、魔物も気の毒よね……。
まあそれについては戻ってきたらフリード様にも伝えよう。
「さあ、マリアンナも少し休んだ方が良いよ。魔力はまだまだ残っているみたいだけど、疲れも残ってるからね。心配で落ち着かないのは分かるけど、体を壊したら元も子もない。それに、もしもの時は――――」
「うん?もしもの時?」
「いや、なんでもない。とにかく、そのポーションを作り終えたら、ちょっと休みなよ」
ブルーノさんと同じことを言うルークにくすっと笑う。
でも確かに、倒れたりなんかしたら迷惑になるものね。
「分かった。容器に詰めたら、少しだけ横になるわ」
絶対だよと念押しするルークに苦笑しながら約束する。
今頃は魔物と戦っているのだろうか。
ポーションは役に立っているのだろうか。
怪我はしていないだろうか。
そんな不安を抱えながら、できあがったポーションを容器に詰めていくのだった。
* * *
その頃、西の森にて。
「おい、大丈夫か!?」
「はい!マリアンナ殿の作ってくれたポーションのおかげで、負傷者三名、完治しました!」
先行部隊として森に入ったウィルフリード達は、襲ってくる魔物の群れと対峙していた。
その多くは中級の魔物で、楽勝とは言えないが経験豊富なダイアンサス討伐隊達は良く連携して戦っていた。
また、普通よりも効果の高いポーションを多く持って臨めていることも討伐隊達の心を軽くした。
不十分な量と質の悪いポーションに不安を感じるのは当然だ。
しかし、マリアンナの作るポーションの効果の高さは、自分達も良く知っている。
しかも自分達の後から来た治安隊に追加分まで持たせてくれたという。
心強くないわけがなかった。
「落ち着いて対応していけ。油断せず、隊ごとに分かれて複数人でかかるんだ。もし上位の魔物が現れたら、必ず報告しろ」
隊員達は慎重かつ丁寧な指示を飛ばすウィルフリードに、いつものことながら頼もしさを感じていた。
武術系のスキルを持たないということで最初は侮っていた者もいるが、彼の実力と努力を知っている者は誰も彼を馬鹿にしない。
むしろ苦しさを知っている分、自分達にも寄り添ってくれる優れた領主であり、高潔な騎士だと認めていた。
今回も厳しい戦いではあるが、この人についていけば大丈夫、そんな信頼を持ってこの突然のスタンピード対応にも当たっていたのだ。
「正直、この二週間大した仕事をしていなかったからな。これくらいさせてもらわないと、給金泥棒になっちまう!」
「全くだ!領主様はそのままうしろで指揮を取っていて下さい!」
遠征中はルークの加護により魔物と遭遇することはなかったし、ここしばらくの街の周辺警備もそう大変なものではなかった。
隊員達の体力はあり余っており、士気も高い。
悪くない状況と頼もしい彼らの言葉に、ウィルフリードはほっとする。
しかし、こんな時こそ油断が出るものだ。
自分だけは終わるまで一時も気を緩めてはいけない。
そう思っていた、その時。
「サ、サラマンダーとマンティコアが出たぞ!」
「!なんだと!?」
予想外の魔物の出現を知らせる声が響いた。
「戦力をそちらに集めろ!必ず隊で固まって動け!少数で対応しようとするな!」
上級魔物が二体同時に出現したことに、ウィルフリードは焦った。
そしてそれは他の隊員達も同じだった。
一体は火を吐く危険な魔物、そしてもう一体は人を喰らう獰猛な魔物。
どちらも相手にするのに相当な戦力を必要とする。
「俺も出る!グレイ、援護を頼む!」
「はっ!」
魔法剣を得意とする護衛騎士を伴い、自身もそちらへと向かう。
水魔法の上位置換、氷魔法を使うグレイならば、サラマンダーとの相性が良い。
火を吐き広範囲に被害をもたらすそちらからまずは仕留めようと、移動しながら考えた。
そうして隊員達が取り囲む二体の魔物の側まで来ると、グレイに合図を送った。
「氷よ、敵を射抜け!“氷弾”」
詠唱を合図に、無数の氷の弾丸がサラマンダーを襲う。
魔物も突然氷の礫が体に放たれ、唸り声を上げて怯んだ。
「今だ、一斉にサラマンダーを狙え!」
ここで集中攻撃して倒してしまえば、戦闘がかなり楽になる。
一個隊がマンティコアを抑えているうちに。
その少しの焦りが隊員達にも移ったのかもしれない、先走って数秒早くサラマンダーに斬りかかってしまった隊員がいた。
「!待て、」
まだだという声が出る前に、サラマンダーの大きな口がその隊員をとらえた。
火を吐くつもりだ、その場の全員がそう考えた。
「くっ!」
グレイの防御魔法の詠唱は間に合わない。
そう考えたウィルフリードの体が、勝手に動いた。
そして、サラマンダーの攻撃に合わせたかのように、マンティコアが動く。
「!ウィルフリード様!」
グレイの必死の声が、その場に響いた。
* * *




