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【書籍化・コミカライズ】万能薬師はざまぁを企てない 〜辺境の地で新薬作りに励んでいるので、あなたたちを相手にする暇などありません!〜  作者: 沙夜
本編

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ヒーローのピンチを救うのはヒロイン!?1

それから二日後。


「うむ。平熱じゃし、咳も収まり湿疹も綺麗になくなったの。もう安心じゃ。念のためもう一日様子を見て、明日には家に戻れるじゃろう」


「喘息の薬も症状が出た時のために数回分出しておきますね。この街の医師と薬師にも伝えておきましたから、なくなったら処方してもらって下さい」


「ありがとうございます!これで妻や子供、孫にまた元気な姿を見せることができます。それに、持病の薬まで……本当になんとお礼を言ったら良いのか……」


ヨーゼフ先生からの診察の結果は良好。


あんなに辛そうだった男性の顔には赤みが差し、すっかり元気になったようだ。


二日前、宿屋を飛び出してルークを呼んだ後、私達はこの街の薬草畑に行ってヒメオドリソウを大量に作った。


そして急いで特効薬の調合に取り掛かった。


薬草こそちょっと珍しいものを使わないといけなかったけれど、その作り方はそれほど難しくなかったため、割と早く調合し終えることができた。


それを持って、すぐに宿屋に飛んで行って男性に飲ませた。


即効性ではないため、しばらく症状の軽減はないだろうと思っていたのだが、これがなんとも良く効く薬だったようで、この通り、服用し始めて二日で全快に近い。


はじめは得体のしれない薬に少し不安そうだった男性の家族も、少しずつ発熱や咳が収まっていくのを見て、私のことを女神様だの聖女だの言って煽ててきた。


ただのしがない薬師です!って否定したけど。


その後他の患者のところも回ってフリード様に鑑定してもらい、やはりこの街で流行しているのはエプシロンウイルスだと確定し、私はヒメオドリソウなど畑の薬草を大量に使って特効薬を作った。


もちろんブルーノさんにも手伝ってもらって。


その結果、他の感染した人にも私達の作った特効薬を服用してもらうことができ、快復がかなり早まった。


エプシロンウイルスの流行もほぼ収束したと言える。


「ああ、もう大丈夫そうだな。それにこの重症患者の宿もずいぶん人が減ったな」


和やかな雰囲気の中、フリード様が顔を出した。


彼にもあの後私のスキルのことを説明したのだが、とても驚かれた。


私だって彼のスキルを知って驚いたのだから、おあいこだけどね。


「閣下。ええ、閣下とマリアンナちゃんのおかげですな」


ちなみにヨーゼフ先生はフリード様に嫉妬していた。


『病名だけとはいえ、ワシがずっと望んでいたスキルをお持ちだったとは……!状態異常が分かるとしか聞いておりませんでしたぞ!ま、まあ病気もある意味状態異常といえばそうなのですが!でもしかし……』と複雑そうにぶつぶつ言っていた。


まあ私も病名が分かれば薬が作れるってこと、そういえばフリード様には言ってなかったのよね。


言葉って難しいものね。伝えていたつもりでも、ちょっとしたものが抜けているだけで正確に伝わらないんだもの。


「あ、そういえばブルーノさんに薬草を採ってきてほしいって頼まれてたんだった。すみません、もう行きますね」


「では俺も手伝おう。今は時間に余裕があるんだ」


余裕があるからって、仮にも辺境伯爵ともあろう方がこんな小娘の手伝いをして良いのか。


そうは思いつつも、以前も薬草採取は手伝ってくれたわねと思い出し、お言葉に甘えることにした。


そうして男性とヨーゼフ先生に手を振り、フリード様とふたり、ならんで街を歩く。


「ずいぶんと活気が戻ってきたな。子ども達も外で遊んでいる」


「そうですね、やっぱり子どもが外で遊べる環境が一番ですよね。病気なんかに負けずに、元気に暮らしてほしいです」


街には、楽しそうに鬼ごっこやままごと遊びをする子ども達の声が響いている。


平和って良い。


穏やかな気持ちで歩いていると、フリード様が徐に口を開いた。


「その、今回は助かった。礼を言う、ありがとう」


思いがけない突然のお礼に、ぽかんと口を開ける。


「なんだその顔は。俺だって礼くらいは言うぞ」


フリード様が顔を顰めてむっとした。


あ、なんかちょっと拗ねた子どもみたいでかわいいかも。


「ご、ごめんなさい。でも、私こそありがとうございました。……私ひとりだったら、こんなに清々しい気持ちにはなれませんでした。みんなで力を合わせた結果です」


ヨーゼフ先生が冷静に対処してくれて、ブルーノさんと励まし合いながら薬を作って、ルークが薬草を用意してくれて、フリード様が鑑定して病名を教えてくれたから、できたこと。


「あの時、こんなスキル役に立たないじゃないって落ち込みそうになった私を救ってくれたのは、フリード様です。ふふ、私達ふたりのスキルを合わせたら、最強ですね。どんな病気も怖くありません!」


幼い頃に周囲から残念がられたという、状態異常に特化した鑑定スキル。


けれど、そのスキルは実はヨーゼフ先生が喉から手が出るほど欲しがっていたものでもあり、私のスキルとの相性も抜群だった。


「たとえ人からつまらないと言われたものだったとしても、それが特別素敵なものに感じる人だっているものです。ものの価値とは、見る人・感じる人によって違うものですから。フリード様はフリード様の良いところを生かせば良いんですよ。周りには、あなたを慕ってくれる人がたくさんいるんですから」


まあ確かに、貶されて多少性格がひねくれしまった感はあるけれど……。


だけど、それだけじゃない。


彼の努力と領地を想う心は、決して無駄ではなかった。


「今のこの景色は、武術スキルに特化したあなただったら見ることができなかった光景ですよ。ヨーゼフ先生もブルーノさんも私も、今のフリード様だからここについて来たんです。あの子ども達の笑顔を守ったのは、他でもない、今のあなたです」


胸を張って、自分自身を誇れば良いのだと伝えると、フリード様はくしゃりと笑った。


それは鼻で笑ったり、小馬鹿にしたりするようなものとは違う。


「おまえには負ける。……ありがとな」


優しくて、穏やかな笑みを浮かべながらぽすりと私の頭に手を乗せ、撫でた。


それがなんだか気恥ずかしくて、胸がどきっと鳴る。


「……おまえって呼ぶなって言ってるのに。ちっとも直らないじゃないですか」


だから私は、頬を染めながらも憎まれ口を叩くしかなかった。

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