表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/62

力を合わせたら、最強。3

それからは一日一日、患者の容体を気にかけながら薬を作り、また症状の変化を見守るということを繰り返していった。


簡易版のお薬手帳を作って、誰がどの薬が効くのかもちゃんと記録している。


自分たちも倒れるのではと心配の声が上がったが、感染力が高いとはいえ、マスクや手洗い、消毒など基本的な対策をとればそう恐れることはない。


さすがにこの世界にマスクなんてものはないが、布で口や鼻を覆うことで多少はウイルスや細菌を通しにくくなる。そして水魔法で布と口元の間に薄い膜も張った。


私と一緒に来た人達には、街に入る前にそうした感染対策の大切さを伝えている。


皆きちんと守ってくれているようで、罹患した人はほとんどいない。


患者と最も接触し、高齢のヨーゼフ先生には必ず一回一回体に清浄魔法をかけるように伝えておいた。


菌はともかく、もしウイルスだったらそれにも効くのかは分からなかったが、ヨーゼフ先生が元気なところを見るとあながち間違ってはいないと思う。


街の人達にも到着後に対策を伝えたところ、戸惑いながらも実行してくれる人がほとんどだ。


患者を宿屋に隔離したことと相まって、一日の感染者は減少しつつある。


ブルーノさんと一緒に作っている薬も、効果に個人差はあるがとてもありがたがられている。


発熱など症状の重かった患者の中には後遺症もなく、すっかり回復したという人もいるし、少しずつ収まりを見せつつあるのではないだろうか。


そう、皆がほっとひと息ついた。


そんな時に、事件は起こった。


「急変したって、本当ですか?」


「うむ。昨日までは他の患者と同じように、症状は発熱と時折出る咳だけ、しかも少しずつ回復傾向にあったはずなのじゃが……。今朝になって熱が上がり、身体中に蕁麻疹のような発疹が現れたのじゃ」


街に滞在して八日目の昼前、ヨーゼフ先生から、午前中の回診で急変した患者を見つけたとの知らせをもらった。


急いでブルーノさんと共に重症患者のいる宿屋へと向かうと、五十代くらいの男性が苦しそうな様子でベッドに横たわっていた。


「これは……なにか別の病気でしょうか?」


「うむ……発熱と発疹だけなら思いつく病気はいくつかあるが、この患者は今回の原因不明の病にもかかっている。じゃから特定することが難しい」


ブルーノさんとヨーゼフ先生が難しい顔をして患者の容体を確認している。


他の人にはない症例……合併症だろうか。


もしくは、なにか持病があって、今回の病の原因物質を体内に取り込んだことで悪化したとか。


前世でも薬剤師として少しくらいは病気に詳しいつもりでいたが、ここは異世界。


前世にはなかった植物が存在しているように、病気だって特有のものがある。


この世界の病に詳しくない私では、診断ができない。


製薬検索のスキルを使っても良いが、発熱と発疹だけでは選択肢が多すぎる。


「とりあえず、これ以上体温を上げないよう、解熱剤を調合します。これまで飲んでいた薬をそのまま服用しながら、症状の変化を見ていきましょう」


「そうじゃな。下手に薬を変えるとなにが起こるか分からんからのぅ」


今できるのはこれが精一杯。


苦しそうな患者の表情に、胸が痛くなるのを感じながら、私は解熱剤の調合へと取り掛かるのであった。





次の日。


「熱は薬が切れるとまた上がり、発疹も昨日ほどではないにしろまだずいぶん出ていますね……」


「うむ。今は解熱剤が効いてなんとか眠れているが、食べ物もあまり口にできず、弱っているのは確かじゃの。このままでは、あまり良くないことになりそうじゃ」


午前中から昨夜の患者の容体を見に、重症者の宿屋へと足を運んでいたのだが、お世辞にも回復してきているとは言えない状況に、私もヨーゼフ先生も俯く。


昨夜、もしかしてルークならと思い、男性の症状に思い当たる病気を知らないかと聞いてみたのだが、植物のことには詳しいが人間の病のことまではと首を振られてしまった。


せっかく私にしかないスキルを持っているのに。こんなに役に立てないなんてと唇を噛む。


王宮を出てからこれまで、あまりに順調にきていたから。


フリード様に新薬のことを領地に広めてほしいと言われて、講師みたいな真似事をして。


ひょっとして図に乗っていたのかもしれない。


こんな時、私はちっぽけな存在なんだって、まざまざと思い知らされる。


「……念のため、もしもの時を考えて、ご家族に会わせてやった方が良いかもしれんのう」


“もしもの時”。


ヨーゼフ先生の言葉に、ドクンと胸が嫌な音を立てた。


現在感染者は宿屋で隔離状態、つまり私達のような医師や薬師以外は立入禁止となっている。


しかし、生死に関わるような状況下では、その限りではない。


“その時”までに、大切な人達と会わせてあげるのも必要なことだから。


「……ご家族に連絡してみます。午後にでも来て頂けるかと」


「うむ。……頼んだぞ、マリアンナちゃん」


ヨーゼフ先生とふたり、硬い表情で頷き合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ