ダイアンサス領地改革、はじめました1
ブルーノさん達を見送ってひと月。
方方の診療所や薬局で働く皆さんは、すぐにここで身につけたことを広めてくれた。
まず、薬を処方する際は一回分ずつ渡す、これはあっという間に広まった。
フリード様が包み紙を手配してくれたこともあり、また手軽に始めることができたためだ。
新薬についてはレシピ通りに作れば良く、それほど難しい作り方でないということで、割とすんなり受け入れられた。
どうやらヨーゼフ先生のお墨付きということで領民達から信用されたらしい。
ヨーゼフ先生ってやっぱりすごい人なのね。
そしてそれに伴い、薬草畑で薬草を育てることも盛んに行われているらしい。
薬を作るのに薬草は絶対必要だもんね。
もし他の領地でも新薬が広まったら、後々薬草の輸出的なことができたら良いですねって零したら、それは良いですね!とオーナーとグレイさんが目を輝かせた。
ということで、大きな薬草園を作る計画が立てられたようだ。
それにはルークの力を借りると良いかもなぁと思いつつ、精霊であることを誰にも話していないので悩み中だ。
お薬手帳と調剤についてはまだまだってところかな。
手帳の保管についても考えないといけないし、そんなに急に色々はじめられない。
それに調剤は薬によって量が異なるから一朝一夕にはいかないもの。
少しずつ医師や薬師が覚えていかなくては。
だが、この一ヶ月で随分領民の健康度が上がったと報告を受けている。
診療所との信頼関係も深まったと。
ブルーノさんからも昨日手紙が来て、良い意味で毎日忙しいって書いてあった。
仕事にやりがいを感じているのだろう。
別れる際にも“薬師というジョブに誇りが持てた”って言ってたもの。
今は忘れがちだったが、そもそも薬師というジョブの地位は低い。
今まで苦労してもがいてきた人なのかもしれない。
「私も負けていられないわね」
「マリアンナ、良い顔してる。今日も頑張って!」
ルークの声に頑張るわよー!と応え、気合を入れて借家の玄関のドアを開くのであった。
午前中は診療所、午後からはポーション屋、今日も忙しくなりそうだ。
「おはようございまーす」
「おお、待っておったぞ。この患者なのじゃが……昨夜から腹痛が酷いらしくての。下痢や嘔吐もあるとのことじゃから、恐らくウイルスによる胃腸炎じゃな。ウイルスを殺すものと、下痢止め、それに吐き気止めも頼むぞい」
診療所に行くと、早速お腹を押さえて蹲る男性がいた。
横には奥さんが心配そうに寄り添っている。
「それは大変でしたね。すぐに薬を調剤しますので、お待ち下さい」
今日も出勤してすぐこれとは、やっぱり忙しいわね。
薬剤室で準備を済ませると、患者のお薬手帳を片手に調剤のスキル画面を開く。
そして患者の病名“感染性胃腸炎”と記入していく。
うんうん、この人にはこっちの薬は効きにくそうだから、ブルーグラスとグリーンバームを使ったこちらの薬が効きそうね。
あとは下痢止めと吐き気止め、っと。
ヨーゼフ先生の指示に従い、お薬手帳と照らし合わせながら調剤する薬を確認し、製薬検索の画面に移行する。
作り方と量を確認し、丁寧かつ素早く薬草をすり鉢ですっていく。
出来上がったものを魔法で乾燥させ、粉末状にすれば出来上がりだ。
「これを一回分ずつ包んで……三日分あれば十分ね。下痢止めと吐き気止めは三回分で良いかしら」
分かりやすいように色分けしたテープを貼り、薬をまとめて入れる袋に詰めていく。
これも前世の知識を生かして患者の名前、薬の効果、飲み方を入れられるようにした。
すぐに待合室に戻り、とりあえずその場で一回分ずつ飲んでもらう。
良かった、ちゃんと飲み込めた。
「薬が効いてくると楽になりますからね。お大事にして下さい」
ありがとうございましたと奥さんからお礼の言葉を頂き、そのまま診察室に戻る。
「おお、お疲れ様。次の患者なんじゃが……」
一息つく間もないとはこのことである。
ヨーゼフ先生から診察の結果を聞き、必要な薬を考えて患者に声をかける。
「了解です。もうしばらくお待ち下さいね」
でもこれが、私が望んでいた患者と医師と薬師が繋がる仕事だ。




