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【書籍化・コミカライズ】万能薬師はざまぁを企てない 〜辺境の地で新薬作りに励んでいるので、あなたたちを相手にする暇などありません!〜  作者: 沙夜
本編

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レベルアップした結果は、やっぱりチート!?4

そしてその夜。


「……なぜだ」


「なぜだと言われましても」


「ほっほっ、大勢の方が楽しいぞい」


エレナさんのお店の一角、私とフリード様、そしてヨーゼフ先生の座る席の隣では、呑みすぎて完全に出来上がった人達が盛り上がっていた。


「ありあとーございます辺境伯しゃくさま!あーにゃ、カンゲキです!」


「辺境はくしゃく様、ぼくまですみません!でもぼくだって、マリアンナさんを森までごえいしたり、薬草畑を作るおてつだいをしたり、がんばりました!」


「おやおや。ウィルフリード様、そんなに顔を顰めていては他のお客様が怖がりますよ」


「そうですよ。領民の前で、狭量なのがバレてしまってはまずいのでは?」


ベロベロのアーニャと陽気になったラムザさん。


そして恐らくザルなのだろう、涼しい顔をしてエール六杯目のオーナーとワイン五杯目をあおるグレイさんがそう言った。


ことのはじまりはポーション屋だ。


しばらく迷惑をかけていたからと、見送りを終えてすぐに出勤した。


するとアーニャが久しぶりに飲みに行きましょうと誘ってくれたのだ。


だがフリード様からの誘いがあるからと断ろうとした。


そこへオーナーがやって来てこう言った。


『ウィルフリード様には僕から言っておくから、アーニャちゃんもおいで』と。


本当に大丈夫なの!?と思いながらお店に来てみると、たまたま非番で診療所を訪ねていたラムザさんも、ヨーゼフ先生に連れて来られていた、というわけだ。


ちなみにさすがに飲食店なので、ルークはお留守番である。


「まあ、今日は辺境伯爵様がご馳走して下さるの?良かったわね、ジャンジャン頼んでちょうだいね」


この方は店主のエレナさん。居酒屋の優しいママという雰囲気で、だけど結構(したた)かなところもある素敵なおば様だ。


エレナさんがオーナーの前におかわりのエールを置く。


七杯目。


いつの間に。


エレナさんにお礼を言ってエールのグラスを手に取ると、オーナーはフリード様をちらりと見た。


「まさかウィルフリード様ともあろう方が、ひとりやふたり人数が増えたところで、不満をおっしゃるような器の小さい方ではありませんよね?」


「もう好きにしろよ……」


……前々から思っていたのだけれど、この力関係はなんなのだろう。


辺境伯爵といえば、貴族社会の中でも高位に位置する身分のはずなのだが……。


オーナーって何者?と思っていると、向かいに座っていたフリード様が口を開いた。


「はぁ。とりあえずマリアンナ、今回は良くやってくれた」


「へ?」


突然の褒め言葉に、なにを言われたのかすぐには理解できず、固まってしまった。


「ほっほっ、ありがとうとおっしゃったのじゃよ。感謝の言葉も口に出せばよろしいのに」


「う、うるさい!」


ヨーゼフ先生の通訳に、フリード様が顔を染めた。


え、そんな顔もするんだ。


「〜っ、しかも見送りの後もすぐにポーション屋の仕事に戻ったというしな。本当に良く働くな、おまえ」


あれ、これはひょっとして褒めて、労ってくれている?


「俺が派遣した五人のことも。あいつらは優秀だが、実力主義でもある。そう簡単にはいかないだろうと思っていたのだが、少し前に視察に行った時にはもうすっかりおまえを信頼していた。もちろんおまえならばと思ってはいたが、まさかこの短期間であれだけの絆を深めるとは、予想以上だったよ」


私こそ、あなたのその言葉は予想以上なんですけど。


そんなことを考えながら、呆気にとられる。


「マリアンナ嬢、驚いてますよ。視察も一回しか来なかったくせに、そんなに気にかけていたのかって。放っておかれていると思われていたんじゃないですか?」


そこへグレイさんの冷たいひと言が。


いや、正確にはひと言ではないが。


でも確かに私もそう思っていた。


「そ、それは! お薬手帳とやらのことも薬を一包ずつ渡すアイディアのことも聞いていたからな。そのノートや包み紙の手配をしていた。あとは各地に薬草畑を作るべきかと、その土地を用意していたり……。通常業務もあるから、普段よりも忙しかったんだ!」


だそうですよとグレイさんが微かに笑む。


そ、そうなんだ。


私が五人をきっちり教え込んでくれると信じて、先に動いてくれていたんだ。


「……ありがとうございます、フリード様。色々と、本当に色々と、感謝したいことばかりです」


素敵な同僚や上司に囲まれた素晴らしい職場を用意してくれたこと、新薬と調剤を広めるチャンスをくれたこと、仲間と喜び合う機会をくれたこと、そして私を信じてくれたこと。


「口は悪いし捻くれてるけど、良いところもたくさんあるんだって、分かりました」


「おい、前半は悪口じゃないか! ちょっと良い話風に言っても騙されんぞ!」


「あ、バレました?」


わははは!とみんなが笑う。


やっぱり素直に感謝を伝えるのは気恥ずかしくて。


冗談交じりにはなってしまったが、たぶんちゃんと伝わったと思う。


その後のフリード様の顔が、少しだけ柔らかくなったから。


「……それと、ご報告がありまして」


この人達は全員信用できる人達だ。


彼らになら、話しても良い。


「私の、新しいスキルについてです」


今後のダイアンサス領の医療に役に立つスキルであることは、間違いないのだから。

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