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講師デビューします!2

「うおっ、すげえ……」


「さあたくさんありますが、今日はこれらの十種類を主に集めて下さい」


一時間後。


私達は無事森の薬草が群生している場所に着いた。


もちろんルークのお手柄である。


見本の薬草を見せて採取を促すと、ブルーノさんがキラキラした目でルークを見つめた。


「おまえすごいなぁ!さんきゅーな!」


「わうっ!?」


そしてルークを抱き上げ、ぐりぐりとその頭を撫でた。


ちょっと痛そうだけど、ルークも嫌ではないみたいね。


微笑ましい光景に、胸がほっこりとして微笑む。


「あ、すみません。俺も採取してきます!」


他の医師や薬師達がさっさと採り始めているのに気付き、さっとルークを下ろした。


「はい、頑張って下さい。皆さん、よく似た薬草もありますので気を付けて下さいね」


ヨーゼフ先生も一緒だからか、今のところ文句は出ていない。


でも実は森に薬草採取に行くと告げた時、医師のひとりが眉を寄せたのよね。


薬師からしたら普通のことだけれど、医師はそうじゃないからね。


こんなことをなぜ自分がと思っているのかもしれない。


でも、気の緩みはミスを犯しやすくなる。


「種類も多いので、見本をよく見て採取して下さいね」


五人が採取する姿を見つめて笑顔でそう声をかけた。


そうして薬草採取を終え、診療所に戻る。


これからこの診療所の一室をお借りして、薬作りや講義を行っていく予定だ。


それぞれにシートを敷いて、全員に採取した薬草を種類ごとに並べてもらった。


なぜかヨーゼフ先生も一緒に。


「ワシもおさらいがてら、時間のある時は一緒に学ばせてもらおうと思っての。ほっほっ、気にせんでくれ」


いや、気になりますよ。


その場の全員のそんな心の声が聞こえたような気がした。


でも、先生なりに私への援護のつもりなのだろう。


先生の私への態度を見て、不安に思っていた人も少し態度を改めてくれた。


自分で乗り越えなければと思ってはいるが、正直ありがたい。


そんな先生の心を無駄にしちゃいけないと、気を引き締める。


「はい、全員終わりましたね。じゃあルーク、お願いできる?」


「わうっ!」


元気に返事をしたルークは各シートをまわり、いくつかの薬草を咥えてぺいっと横に放った。


「え?ちょっと、なにしてるんだ!?」


「おい!せっかく並べたのに、止めろよ!」


「ああっ!ちょっと……え?これって……」


ひとりの薬師があることに気付くと、最初は怒っていた医師のふたりもぴたりと動きを止めた。


「ほほぅ。ルークが横にどけたのは、全て同じ薬草じゃな。どれどれ。ふーむ、これはアサギリに似ているが、別の植物じゃの」


にんまりとヨーゼフ先生が指摘をする。


そう、ルークが選別したのは、とても良く似ているアサギリとユウギリの葉。


私が指定したのはアサギリ、しかし彼らの採取した中にはユウギリが混ざっていたのだ。


「そんなはずは……いや、よく見ると葉の裏が違うぞ」


焦ったような医師の言葉の通り、ふたつの葉はほぼ同じ形状をしているが、ユウギリの葉の裏には少しだけ毛状突起がある。


「そうなんです、このふたつの薬草はとてもよく似ていて、油断していると採り間違えてしまうことがあるんです。人の体に有害な成分があるわけではありませんが、薬を作る上で効能が全く違うので、気を付けてほしいのです」


前世でもニラと間違えて水仙の葉を食べてしまい死に至ったというケースがある。


植物とは食べ物にもなるし、薬にもなるが、毒にもなるのだ。


「患者さんは私達を信頼してお薬を飲んでいます。その信頼に応えられるよう、必ず確認を怠らないで下さい」


「そうじゃな。我ら医師も診察に間違いはないか、見落としはないか、しっかり確認しなくてはいけないのは同じじゃな」


うんうんと頷くヨーゼフ先生に、気まずそうにユウギリを採取していた医師達が下を向いた。


「ブルーノさんは……すごいですね、全部アサギリです」


「まあね。マリアンナさんが言ってたでしょ?“よく似た薬草がある、見本をよく見て”って。ヒントをくれていたから、ピンと来ましたよ」


ブルーノさんがにっと笑う。


そうか、私の言葉をちゃんと聞いてくれていたんだ。


「確かにはじめはこのお嬢さんが?って思ったけど。でもあの辺境伯爵様やヨーゼフ先生が認めているんだし、言動も振る舞いもきちんとしている。見た目や年だけで侮るにはまだ早いなと思ったんですよね」


ちらりと私を見る。


なるほど、一番若い彼だからこそそう思ったのかもしれない。


「別にまだ認めたわけじゃないですよ?まだまだこれからです。あなたがこれからどんなことを教えてくれるのか、楽しみにしていますからね」


その挑戦的に笑みに、ぞくりと鳥肌が立った。


──なるほど。


お手並み拝見ということね。


彼はフリード様と同い年だっけ?


全くこの年代は喧嘩を売るのが得意なのかしら?


いや、前世の私も同年代じゃないか。


そう思い出して口に出すのは控えた。


「ほっほっほ!若いもんはええのぅ。まあマリアンナちゃんについては、今からいくらでもその実力を知ることができるから心配せんで良いぞぃ」


ヨーゼフ先生も負けていない。


なに、みんな売られた喧嘩は買う性質(タチ)なの?


普段なら私も参戦する派なのだが、さすがに今朝会ったばかりの人達、しかも年上の受講者に囲まれてそんなことをするつもりはない。


……いやフリード様の時は別よ?


誰にでもなく心の中で言い訳をしていると、そろそろ薬作りを始めようかと先生が空気を変えた。


「それでは気を取り直して。これから皆さんに採取して頂いた薬草を使って、七種類の薬を作ります」


七種類……?と部屋がざわめいた。


さすが優秀だとフリード様に選ばれた方達だ、今までに知られている薬なら、これらの薬草では四種類までしか作ることができない。


普段薬作りを主な仕事としていない医師のおふたりも眉根を寄せている。


「ちなみに七種類と言いましたが、私が開発した薬のみで七種類という意味です。ああ、ユウギリの薬草も含めれば、三種類増えますね」


つまり今日は十種類の新薬を作ることができる。


そう私ははっきりと言葉にした。

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