講師デビューします!1
私が啖呵を切った二日後、辺境伯はすぐに目ぼしい人の名前を挙げてきた。
医療に力を入れようと思っていたみたいだし、きっと前々から目をつけていたのだと思う。
「だからって、集合、早くない?」
「すごいやる気だね……わぅん」
そして辺境伯はすぐに通達を出し、各地にいる方々に召集をかけた。
もちろん断っても良いし、しばらく考える時間がほしいと言っても良い。
私も本格的に始めるには時間がかかるだろうと思っていた。
のに。
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
「ほっほっ。よろしく頼むの」
通達を出して一週間。
まず手始めにと声をかけた五名全員が集まった。
手元に届くまでの時間や準備、移動時間を考えたら、ほぼ迷いなくこちらに向かったことが分かる。
さすがの私とルークも本気?と戸惑うというものだ。
「みな皆やる気に満ち溢れた様子でなりよりじゃ。さて、こちらが講師のマリアンナちゃんじゃ。年若い美人さんだからといって、手を出すんじゃないぞぃ」
「せ、先生、そんなわけないじゃないですか!すみません、ご紹介に預かりましたマリアンナと申します。これからどうぞ、よろしくお願い致します」
ヨーゼフ先生の冗談交じりの紹介を受けて挨拶をする。
うわぁ。
え、この子が?ヨーゼフ先生が講師じゃないの?と思っているのがありありと分かる。
まあそりゃそうよね、これは予想通りだ。
集まってくれたのはそれぞれ二十代半ばを過ぎた人から四十代の男性ばかり。
医師が二名、薬師が三名だ。
その全員が私のことをじろじろと値踏みしている。
とりあえずよろしくお願いしますと挨拶を返してくれる人、本当に大丈夫なのかと思っているのを隠さずに会釈だけする人、戸惑いつつも笑顔を浮かべる人と様々だ。
別に初めから受け入れてもらえるとは思っていなかった。
前世のある程度酸いも甘いも経験しました的外見の杏奈の姿ならともかく、二十歳そこそこの今の私が講師だと言われたら、これが普通の反応よねとこっそりため息をつく。
──まあ年を重ねたからってイコール優秀だとは限らないけどね!
「今日から私がお伝えすることは、恐らく今までにないことや、常識とは違ったところもあると思います。それを理解した上で皆さんに判断して頂き、私のやり方にご賛同頂けるならば、各地に戻られた際に広めてほしいと思います。もちろん、ご意見を頂いてより良いものにしていけたらとも思いますので、なにかあれば遠慮なくおっしゃって下さい」
変に緊張したり自信のない素振りを見せたりするのは良くないからね。
堂々とした態度で、ある程度下手に出ながらも意志をしっかりと伝える。
こういう時は最初の印象が大事、なめられたら終わりだ。
すると、ふぅんと一番年下の薬師が反応を見せた。
先程から不安感を隠さずにいた、ちょっとくせのある黒髪とグレーの瞳の青年。
確か名前はブルーノといったはず。
「それって、俺達の判断で広めるかどうか決めて良いってことですか?」
「ええ。あなた方が良くないと思ったことを無理矢理広めろと言っても、良い結果になるわけがありませんから。ですから、皆さんにもきちんと考えて頂きたいんです」
フリード様からは私に教わったことを各地で広めてほしいと通達が来たのだろうが、彼らにも意志がある。
私は彼ら自身がもっと広めていきたいと思ってもらえるように努力するだけだ。
「ところでそこのふわふわのかわいらしい犬は?」
「ああ、私の相棒のルークです。邪魔をしたり吠えたりしませんから、安心して下さい」
「わうっ!」
本当は犬じゃありませんけどね。
さすがに森の精霊ですとは言えまい。
なぜ一緒に来ているのかというと、森での薬草の採取にも参加してもらおうと思っているからだ。
診療所の外に薬草畑はあるが、彼らには森のどのような場所に薬草があるのかも知ってもらいたいからね。
今日の予定は、午前中に薬草採取、午後からはその薬草を使っての薬作りだ。
最終日に渡せるようにと、レシピ本もそれぞれの分用意してある。
「相棒は分かったんですけど。なんでここにいるんですか?」
「それはついて来て下されば分かると思います」
「わうん!」
私とルークの反応に、ブルーノさんは不思議そうに首を傾げた。
ふふ、ルークが薬草案内の名人だと知ったら、きっと驚くわね。
まるで悪戯を考える子どものように笑い、早速出発しましょうと声をかけたのだった。