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【書籍化・コミカライズ】万能薬師はざまぁを企てない 〜辺境の地で新薬作りに励んでいるので、あなたたちを相手にする暇などありません!〜  作者: 沙夜
本編

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再会--のち、挑戦4

どうやら辺境伯は、ここ十数年で戦争の気配もなくなり、隣国との国境の地とはいえ、武力を極めるだけで領地を守っていくことは困難だと考えたらしい。


これはごもっともだ。


確かにここがすぐに戦いの地となるような時勢ならば軍事力が領地の要となるだろうが、今の時代がそうかと言われれば、否だと答えるしかない。


国同士の関係も改善され、王族同士での婚姻も結ばれている。


今では自由に国を行き来できているし、この平和を守りたいと互いに思っているのだから、そうそう戦争となることはないだろう。


確かに防衛のためにある程度の軍事力を見せておく必要はあるものの、だからといってそれだけではいけない。


そこで辺境伯は考えた。


領内を、領民の生活を豊かなものするために、自分達も変わらなくてはいけない時だと。


そこで思いついたのが医療の充実だ。


戦争はなくとも魔物はいなくならないし、国の中央から離れているため、新しい病や最新の治療には疎くなりがちである。


ならば、自分達で研究・開発すれば良い。


早速、医師とともに新薬を開発することに意欲のある薬師を募集した。


ただ、薬師というジョブは下に見られがちで、消極的な者も多いため、それを全面に押し出した募集用紙だと敬遠されるかもしれないと思い、主な仕事内容はポーション製作とした。


それに見事に引っかかったのが私、というわけだ。


「ごめんね、驚かせて。でもマリアンナちゃんが期待以上の働きを見せてくれて、僕達も驚いてるんだよ。ヨーゼフ先生ともすっかり信頼関係ができているみたいだしね」


「あ、いえ。ちょっとびっくりしましたけど、大丈夫です」


申し訳なさそうにオーナーが眉を下げた。


「薬師のマリアンナちゃんからしたら、そんな領地経営のひとつみたいな扱いをされたら嫌かもしれないね。でも、この地をより良いものにするために、ウィルフリード様も必死なんだ。分かってあげてほしい」


確かにそう思わなくもないが、それだけじゃないだろうとも思う。


『それでひとりでも多くの苦しんでいる人が救えるかもしれないんですよ? 国の中心にある王宮に勤める私達だからこそ、挑戦してみるべきじゃないですか!?』


そう訴えても一蹴されてしまったあの時とは違う。


ちゃんと辺境伯の中には、領民達への想いがある。


ヨーゼフ先生と一緒に仕事をする中で、自分の想いと重なる部分を感じていた。


“苦しむ人をひとりでも減らしたい”という、その想い。


「私としては、領地に広めて頂けることを嬉しく思っています。それだけ認めて頂けたということですし、なによりもこれらの考えや薬を広めることで、病気で苦しむ方をひとりでも多く救えることになるのなら、薬師としてこの上ない喜びです」


それに、領主ならそういう考えを持つのは自然なことだ。


領地を盛り立て守ることが仕事なのだから。


「領内に広めていけば、私なんかよりも深い考えの方がたくさんいらっしゃるでしょうから、もっと良いやり方も見つかるかもしれませんし。そうやって、みんなで集まって議論する場があっても良いですよね」


前世でも、研修会や病院内での会議で意見を出し合って、良いアイデアが生まれることも多かった。


同じ信念を持つ人と話すのは、時には反発することもあるけれど、必ず実になる。


「そうよのぅ。まあいきなり各地の医師や薬師に教えてまわるわけにはいかんから、広めてくれる人材を探してこの地で教えてはどうじゃ?」


「そうですね。その者達に各地に散って、薬のレシピやお薬手帳とやらを広めてもらいましょう」


ヨーゼフ先生とオーナーがさくさくと話を進めていく。


確かにふたりの言う通り、そうするのが良いだろう。


でも、それって私が講師になるってこと?


うう……人に教えるなんて、私にできるかしら?


それに、こんな小娘に教わることなんてない!と跳ね除けられる可能性もある。


「ならば早速適した人物を各地から何人か見繕おう。最初に言っておくが、恐らくヨーゼフじいさんのようにプライドを持った者達だ。甘く見られないよう、気をつけるんだな」


まさに今不安になっていたことを辺境伯に指摘され、どきっと胸が鳴った。


なにそのおまえにできるか?と言いたげな挑戦的な顔。


──むかつく!


「やってやろうじゃないですか!元からそう簡単に認めてもらえるだなんて思ってないです!でも辺境伯、私にだってプライドがあるってこと、忘れないで下さい!」


しっかりと辺境伯の目を見つめてそう言い放つ。


逸らすことなくそのまま睨みつけていると、ほどなくして辺境伯がふっと笑みを零した。


「上等だ。おまえがどこまでやれるか、見せてもらう。途中で挫けたり逃げたりするなよ?」


「っ! そんなことしません!」


こちとら前世では狐のような看護婦長や、狸のようなベテラン医師とやり合ってきたのだ、そうそう潰れるようなタマじゃないってのよ!


「楽しみにしているぞ。──ああ、あとその“辺境伯”というのは堅苦しいからな。俺のことはフリードと呼べば良いぞ」


「はいはい、かしこまりました、フリード様!」


バチバチと火花を散らす中で、少しだけ辺境……いや、フリードの顔が嬉しそうに見えたのは、私の見間違いだったのだろうか

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