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【書籍化・コミカライズ】万能薬師はざまぁを企てない 〜辺境の地で新薬作りに励んでいるので、あなたたちを相手にする暇などありません!〜  作者: 沙夜
本編

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森の精霊1

辺境伯との薬草採取から二週間、さすがに彼は自分の屋敷へと帰って行った。


どうやらあの日の翌日にこの街を離れたみたい。


なによ、それなら明日帰るって薬草採取の時に言ってくれれば良かったのに。


……と思ってはみたが、急な呼び出しを受けたのかもしれないし、そもそも次の約束をしていたわけでもないのだから、別に報告なんていらないけどさ。


ちょっぴりもやもやした気持ちを抱えながらも、私の薬師としての仕事はまあまあ順調だ。


作れる薬の種類も増えたし、少し前に導入した薬を一包ずつ渡すことやお薬手帳への記録は、すっかり診療所に浸透したらしく、患者からの評判も良いとヨーゼフ先生が教えてくれた。


「すごいわねマリアンナ。大活躍じゃない」


「お客さんの話を聞いて思い付いただけだから。たまたまよ」


ポーションを作りながらアーニャが隣ですごいすごいと連呼するのを、気恥ずかしく聞いている。


薬が一包ずつ渡されるのは、どうやらかなり喜ばれているみたいね。ちょっとした面倒事が解消されるのって嬉しいものよね。


前世でも便利グッズが売れるのは、日常のちょっとした面倒を減らすことができるからだと言われていた。


結局人間って、みんな面倒くさがりな生き物なのだと思う。


「そんなこと言って、さっき来てたおばあちゃんからもお礼を言われてたじゃない」


「ああ。この前診療所に行った時に診察に来ていた方で、話を聞いて薬を作ってあげたの」


あのおばあちゃんは、これまでなかなか薬が効かず、風邪をひくと長引いていたのだとか。


そこでヨーゼフ先生の診断結果を基に、今までと違う薬を渡してみた。それがバッチリ効いたそうで、こんなに早く回復するのは初めてだと大喜びしていた。


早速今度おばあちゃんのお薬手帳に書いておかなければと思っている。


「ポーションも相変わらずすごい量作ってるし……。それ、何本目?」


「うーん、百十本目くらいかな?」


容器に出来立てのポーションを詰めながら答える。


うわぁ……とアーニャが胡乱な目をしているが、無視だ。


ポーションはある程度の魔力とスキルがあれば、わりかし簡単に作れるといっても良いほど手軽な回復薬だ。


でも、魔力の消費はそれなりにある。


でもそれに見合うだけの回復量があるかと言えば、そうでもない。


簡単に言えば燃費の悪い回復魔法のようなものだ。


結構な魔力を使っても少ししか回復しない上に効果期限まであるというのは、正直不便さがある。


でも、この世界で回復魔法はとても高度な魔法なのだ。


使うことができるのは、かなり高位の魔術師くらいなものだろう。


それゆえ、回復量が少なくてもポーションの需要は高い。


けれど作りたがる、つまり薬師になりたがる人間は少ない。


難しいところよね。


作れる人はあまり選ばない、でも燃費が悪いから別のことに魔力を使いたいしみんな作ることよりも買うことを選ぶ。


それゆえ薬師の立場はそう高くない。


でもいなくなると困る。


うーん、ややこしい。


「でも需要があるんだから、作って損はないのよね」


「そうね。ああ、オーナーもご機嫌よ。マリアンナが来てから在庫不足の日がないって。討伐隊からの急な依頼にも応えることができるからすごく喜ばれてるし、お客様も増えたみたい。結構なお金が入ったと思うわよぉ」


おお、それは喜ばしいことだ。


販売業をやるのは初めてだが、やはり売り上げというのはちょっと気になるものよね。


ちょっぴり口の端を持ち上げながら次の鍋に材料となる薬草を入れる。


すると、アーニャがぎょっとした顔をした。


「まだ作るの⁉っていうか作れるの⁉はぁ……本当、化け物ね。ついていけないわ」


はぁぁと深いため息をつきながらアーニャが席を立つ。


どうやら休憩に入るつもりのようだ。


「ほどほどにね。私から見たら働きすぎ。それ終わったら休憩すること」


「はーい。了解しました、先輩!」


私の返事にくすくすと笑って、アーニャが作業場から出て行く。


アーニャはああ言ったが、前世の病院勤務と前職場を経験している私からすれば、これくらい激務でもなんでもない。


それに勤務時間はきっちりしているし、休憩もちゃんとある。


時々残業することもあるけれど、その分のお給金はちゃんとつけてくれている。


理想的なホワイト企業だ。


さすがオーナー。


雇用主がしっかりしているって大事だわとしみじみ感じながら、百二十本めとなるポーションを容器に入れ始めたのだった。






「あ、それうちの領主様の方針ですよ」


「わうっ!?」


「ええっ!?領主様……って、ダイアンサス辺境伯のことですか?」


ルークと私が驚くと、他に誰がいるんですかとラムザさんが笑う。


今日は午後からルークと一緒に診療所に来ているのだが、ちょうどラムザさんが手伝いに来ていた。


敷地内で薬草を育ててはどうだろうかというヨーゼフ先生の提案で、こうして薬草の花壇作りをしているところだ。


ちなみにルークも土を掘り返して手伝ってくれている。


何気ない世間話のつもりで、ポーション屋がすごく働きやすい職場だとオーナーを褒めていたら、なんとこの地域でポーションを確保できる場所があると良いという辺境伯の考えで建てられた店だったらしい。


実際に店長的な働きをしているのはオーナーだが、開店前に職場環境を整えたのは辺境伯なのだとか。


「討伐隊にとっても、領民にとっても重要な店になるだろうから、しっかりとした待遇を用意したいって言っていたらしいですよ。だからあの店の薬師はみんな生き生きしているでしょう?あそこだけじゃなくて、いずれは領内の全ての店にそうなってもらいたいんですって」


い、意外だ……。


いやでもよく考えたらそうでもないのか。


領民の生活を見て回ってるって言ってたし、討伐隊の編成をしたり自分も参加したりして、領民に寄り添ってるもんね。


そう考えると、彼は結構理想的な領主様なのだろう。


「まあ先代と先々代の領主様みたいな武力でガンガンいく系じゃないから、幼い頃は随分大変だったみたいですけど」


「大変だったって……?」


ラムザさんの言葉に耳を傾けると、辺境伯の意外な生い立ちに驚くことになった。


代々この国境を治めているダイアンサス辺境伯爵家は、隣国と接していることから、領地を受け継いでいくこととなる後継者たちには知力よりも武力を求める傾向にあった。


今でこそ隣国とは良い関係を築いているが、昔は戦争したこともあるし、冷戦状態だった時もあるもんね。


武力だけじゃ駄目でしょと思わなくもないが、それを重視してしまうのは仕方のないことだ。


そのため、今の辺境伯が生まれた時にも色々とあったらしい。


主に、武術系のスキルを持っていなかったという点で。


そう、彼は期待されていた、スキルという名の先天的な武術センスを持っていなかった。


「でも辺境伯、すっごく強いんですよ!スキル持ってないなんて信じられないくらい」


「そうなんですか?……きっと、たくさん努力されたんでしょうね」


この前の、あの少しだけ辛そうな笑顔の理由が分かった気がした。

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