意外と良いやつ?いや、やっぱり嫌なやつ!4
「あ、美味い」
「本当ですか?たくさんありますから、遠慮なく食べて下さいね!」
「……おい、どうしてグレイが俺よりも先に食べているんだ」
「一応、毒味?あ、この肉巻き、俺好みの味付けです」
二時間後、私達は森の薬草が群生している場所に到着していた。
今日もルークの案内は素晴らしく、今まで使ったことのない新しい薬草もたくさん生えている。
少し遅くなってしまったが、まずは昼食をとシートを広げ、持ってもらっていたバッグからお弁当を取り出し広げた。
そして辺境伯が魔法で手を洗浄している間に、グレイさんがお弁当をつつき始めたというわけだ。
「そんな大口を開いて美味そうに頬張る毒味があるか!」
「まぁまぁ落ち着いて。ほら、主もなくならないうちに召し上がって下さい」
「おまえが遠慮すればなくならんわ!」
……なんだかコントを見ているようだ。
グレイさんってもっとクールな人かと思っていたのだが、おかしな人なのね。
でも、私はこっちのが好きかも。
意外な主従関係を目の当たりにして呆気にとられていたのだが、だんだん面白くなってきた。
そんな私が笑っていることに気付いたのか、辺境伯が咳払いをして改めて口を開いた。
「騒がしくてすまん。頂く」
「い、いえ……大した料理じゃありませんけど、どうぞ」
笑いを押し隠せずにそう答える。
彼のこういう偉ぶらないところは嫌いじゃないかも。
それから昼食の時間は和やかに過ぎていった。
グレイさんは戸惑いなく手を伸ばしていたが、西洋風のこの世界にお弁当という概念はないため、辺境伯はおかずやサンドイッチが箱に敷き詰められたのを物珍しそうに見ていた。
昼食には手軽なサンドイッチがこの世界では定番だが、毎日それじゃあ飽きちゃうし、男性なら特にもっとガッツリ食べたいだろうと思って、今日はお弁当にしたのだ。
まあ中身はこの世界でも親しみのある料理だからね、良い考えだなと言って辺境伯もぱくぱく口に運んでいた。
「わうわう!」
「ルークも美味しい?本当になんでもよく食べるのね」
ルークは犬用のご飯……は全く食べてくれないため、私達とほぼ同じものを食べている。
犬が食べても良いものを色々試したのだが、首を振って嫌がられた。
迷いながらも結局、こうして人間食と同じものを毎回用意している。
今のところお腹は壊していない。
その後は予定通り薬草採取。
今回は辺境伯も意識して薬草を丁寧に扱ってくれたように思う。
ちなみにグレイさんは「あ、俺は護衛の仕事中ですので遠慮します」と言って採取には不参加だ。
下手にやりたくない言い訳をされるより、いっそ清々しい。
まあ言っていることは間違ってないしね。
採取に夢中で魔物に気付くのが遅くなりました〜なんて言えないもの。
「今日はこれくらいにしましょうか。ありがとうございました」
三時間くらいだろうか、十分採取できたところでふたりとルークに声をかける。
「やっと終わったか……」
日向ぼっこをしていたグレイさんとルークはともかく、辺境伯はお疲れのようだ。
「あの……無理してついてこなくても良いんですよ?調べたいことがあるとおっしゃってましたけど、ここしばらく一緒に過ごしてみて、特に不審な点なんてないでしょう?それとも、先日持ち帰ったポーションになにかありましたか?」
というか、あっても困るのだが。
「確かに、おまえの行動に不審な点はない」
おお、良かった。
でもどうしてそんなに納得いかない顔をしているのか。
「話は変わるが、おまえはなにか薬師としての特別なスキルでも持っているのか?ああ、詳しく話したくないなら曖昧な返事でも構わんぞ」
帰り支度をする私に、辺境伯は薬草の入った袋をいくつか持ち上げながらそう言った。うっ、鋭い!
「……まあ、そうですね」
曖昧な返事でも良いと言ってくれたので、そう返すことにした。
詳細はさすがに言えないけれど、これくらいなら良いだろう。
「そうか。薬師の仕事は好きか?」
「あ、はい。楽しいですよ」
「まあ、そうだろうな。ポーション屋でも楽しそうだし、薬草採取などという地道な作業も黙々とやっているしな」
……なにが言いたいんだろう。
地道な作業だって、薬を作るための大切な過程なんだから馬鹿にしないでよね。
眉をひそめていると、辺境伯はそのまま袋を抱え、さらに空になったお弁当の入ったバッグを持って歩き出した。
どうやら運んでくれるつもりらしい。
「好きなことに活かせるスキルを持っているということは、幸せなことだ。励むと良い」
そしてそう言って笑った。
少しだけ、辛そうに。