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意外と良いやつ?いや、やっぱり嫌なやつ!3

そうしてその日の診療所での仕事を順調に終え、帰宅の時間となった。


「ルーク、お待たせ」


「わう!わう!」


診療所の外でお利口に待っていたルークが、私に嬉しそうに飛びついてきた。


夕方は少し暗いからね、帰り道のかわいいボディガードだ。


「千里の道も一歩から、かぁ……。そうよね、まずはここからだもの」


そう、なにごとも最初は小さな一歩からはじまるもの。


私も、今できることからはじめていこう。


「明日また薬草採取に付き合ってくれる?便秘改善の薬もそうだけど、新しい薬をたくさん作れるようになりたいしね」


「わぅっ!」


もちろん!とばかりに返事をするルークの頭を撫でてやると、ルークは気持ち良さそうに目を細めて尻尾を振った。


「よーし、明日も頑張るわよ!……明日も辺境伯は書類仕事かしら?」


それならそれでのびのびとやれるが、ヨーゼフ先生とも約束したからね。


「手伝ってくれていることに違いはないんだから、少し優しくしてあげようかしら。一応私の方が精神的には年上なんだしね」


先日同じことを思っていたのに、我慢できず喧嘩になってしまったことを反省する。


「ま、明日も来たらこき使ってあげましょ」


お礼の昼食くらいはご馳走してあげようかしらと考えながら、ルークとふたり、家路についたのだった。





「また薬草採取か。飽きないな」


「……お嫌なら別に一緒に来なくても良いんですよ?……っていうか文句言うなら来るな」


「ん?なにか言ったか?」


「いえ別に」


次の日、やはりと言うべきか辺境伯は昼前にポーション屋にやって来た。


午前中、私がある程度のポーション作りを終えてそろそろ森に行こうかという時に現れた。


どこからか見てたの?っていう絶妙なタイミングで。


そして今から丁度森に行こうとしていたことを話せば、冒頭のように返されたというわけだ。


そりゃ辺境伯からしたらつまらないことかもしれないけれど、私の仕事はそれなんだから仕方ないじゃない。


それに別にこちらがお願いしているわけじゃないのだから、来たくないなら帰って自分の仕事をすれば良いのに。

 

むっとした気持ちを隠さずに素っ気なく、採取用のバッグと大きめのトートバックを持って店の扉を開く。


「ルーク、行こう」


「わぅっ!」


お店の前で待っていてくれたルークに声をかけて歩き出すと、うしろから待てと止められた。


「あーいや、別に嫌味を言ったわけではなくてだな」


はぁ?気まずそうに視線を逸らして頭を掻いて、なにが言いたいのよ。


胡乱な目つきで辺境伯の言葉を待ってみたが、もごもごとしているだけで、埒が明かない。


ため息をついてくるりと向きを変え再度歩き出そうとすると、別の声に止められた。


「マリアンナ嬢、申し訳ありません。主は素直に謝れない性格でして」


「うるさいぞグレイ!」


真っ赤な顔をして辺境伯が怒りつけたのは、彼の護衛騎士のグレイ・サザンクロスさん。


ダイアンサス家の親戚のサザンクロス子爵家の方で、名前と同じ灰色の髪にブルーの瞳の、とても理知的な常識人だ。


常に辺境伯の護衛をしているのでもう何度かお会いしているが、未だにほとんど会話したことがない。


だから、声をかけられたことに驚いて、つい振り向いてしまった。


「まぁ主の弁護をするなら、先程の言葉は嫌味で言ったわけではなく、要約するなら“地道な作業を嫌がりもせずに頑張っていてすごいな”ということでして」


「そこまでは言っていない!確かに、仕事熱心だなとは思っているが!」


「大体同じでしょう」


ふたりの会話をぽかんと聞いていると、ルークが足元に擦り寄ってきた。


そして辺境伯のことをちらりと見た後、私の顔をじっと見つめる。


これは許してあげたら?ってことかしら。


うーん、ある種のツンデレ男子みたいな感じかもね。


まぁどうやらグレイさんの言っていることが図星みたいだし、ある意味私の方が年上なんだから、ここは折れてあげても良いかもね。


念のためにと作ってきていた三人分のお弁当が入ったトートバックをぎゅっと握る。


「仕方ないですね。ちゃんと今日は根っこも葉っぱも傷めないように採取して下さいよ?」

 

「分かっている!……おい、その顔は止めろ。笑いを隠しきれていないぞ」


どうやら私はいつの間にか頬が緩んでいたようだ。


「あら、申し訳ありません。存外、かわいらしいところもあるのだなと思いまして」


ちょっとだけ意地悪を言ってみると、予想通り辺境伯は顔を赤らめてそっぽを向いた。


やぁね、そういう反応は楽しませるだけだっていうのに。


でもこれ以上いじめるのは可哀想なので、控えめに笑うだけにしておこう。


それに、そろそろ出発しないと目的地に着く前にお腹が空いてしまう。


くすっと笑みをこぼして今度こそ歩き始めると、肩に掛けられたバッグの重みがなくなった。


「……重そうだからな、持ってやる」


先程のお詫びのつもりかもしれない、バツの悪そうな顔に、またふふっと笑いが込み上げてきた。折角だし、ここはご厚意に甘えよう。


肩からバックの持ち手を抜いて、そのまま辺境伯に渡す。


「ありがとうございます。では遠慮なく。お礼は今日の昼食でよろしいですか?崩れないように、真っ直ぐ持って下さいね」


「この中に入っているのか?それは大役だな。気をつけよう」


私達にしては珍しい和やかな会話に、自然と肩の力が抜ける。


なんだ、結構優しいじゃん。


ヨーゼフ先生が言っていたのは、こういうところだったのかもねと思い出す。


今日はちょっと仲良くなれるかも。


そう思いながら、嬉しそうにしっぽを振るルークの頭を撫でて森へと向かったのだった。

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