意外と良いやつ?いや、やっぱり嫌なやつ!1
本日二話目の投稿です。
前のお話を読まれていない方は、ひとつ戻って下さい(^^)
辺境伯の急な来訪から三日。
今日は診療所でヨーゼフ先生の診察に同席させてもらうことになっている。
「おや、今日はひとりかい?いやルークは一緒だったね。外から声がする」
「はい、やっと……!」
げんなり顔の私に、おやおやとヨーゼフ先生が眉を下げた。
なぜってこの二日間、あの失礼な辺境伯がなぜか私と行動を共にしたいと言って纏わりついていたのだ。
……いや別に仕事の邪魔をするわけじゃなかったし、なんなら手伝ってくれた。
貴族のお偉いさんのくせに、薬草採取だってしてくれた。
「だけど、なにかと口論になるから疲れるんですよね……」
「はっはっは、閣下は意外と子どもっぽいところがおありじゃからのぅ」
そう、年上のくせに彼はちっとも私に優しくない。
薬草採取の時だって、根っこまで綺麗に取ってほしいと言ったのにブチブチ千切っていたから注意すると、細かい、うるさいと顔を顰められた。
ラムザさんはあんなに丁寧にやってくれたのに……とため息をつくと、めちゃくちゃ嫌な顔をされた。
しかし動物は好きなのか、ルークのことはとても気に入ったようだった。
いつも一緒に森に行くのだと紹介した時に目が輝いていたから、絶対そうだと思う。
私に知られたくないのか、表には出さないようにしていたが、チラチラとその小さいもふもふの姿を見て目を細めていたもの。
……あら?
ひょっとして私と同類?
いやいや、そんなまさか。
ちなみにルークはそんな不穏な視線を感じているのか、辺境伯を警戒していた。
彼がルークに近付くと、するりと躱して私のうしろに隠れていた。
それにショックを受けている姿は、ちょっぴりおかしかった。
そんな辺境伯も、さすがに書類仕事が溜まっているからと、今日は宿で机に向かう日とすることにしたらしい。
というわけで今日の私は身軽なのだ。
「まあ、嫌な人間じゃないってことは分かりましたし、貴族にしては親しみやすい方ですから、領民から慕われているのも納得だと思います」
「ほほぅ、それはそれは。マリアンナちゃんは見る目があるのぅ。ちょっとばかり素直じゃないところはあるが、本当は優しい方なんじゃ。色々とお考えのようじゃから、もう少し付き合ってやってくれるかい?」
嬉しそうにヨーゼフ先生が言う。
先生も辺境伯とは彼が幼い頃からの知り合いらしく、時々こうやっておじいちゃんみたいなことを言ったりする。
まあ先生がそう言うなら、もう少し我慢するけど……。
私に対しては優しくないけどね!
わかりましたと伝えれば、先生は嬉しそうに頷いてくれた。
「さて、では仕事に移ろうか。診察を始めよう」
先生がそう言って、最初の患者の診察が始まった。
この前の薬草採取の後、さらに薬の種類が増えたのだ。
それも同じ症状に効く薬が何種類も。
これならひとつの薬が効かなかったとしても、別の薬を試すことができる。
それと年齢や体重によっても適正な薬の量が変わるはずだ。
そのため、今日は実際に患者さんの話を聞くのと先生の診察を参考にして、薬を調剤してみようと思っている。
そして薬の量についてだが、実は先日ひとりの時に調剤のスキルを念じた際、今までに見たことのない特殊なウインドゥが現れたのだ。
そこには表が描かれていて、年齢・性別・体重・症状といった項目を入力できるようになっていた。
試しにタッチパネルに触れるようにしてみると、カーソルみたいなものが出てきて、指で文字を書いて記入することができた。
これはまさかと思ったわよ。
ええ、そしてやっぱりまさかだったんです。
「マリアンナちゃん、これが今の患者さんのプロフィールとワシが診た診断結果じゃ。必要なのはこれだけかの?」
「はい、ありがとうございます!ええと、女性で体重が……」
先生がくれたメモに書かれていた患者の情報を表に記入していく。
今の方は腹痛かぁ……あ、便秘なのね。
女性って結構便秘のお悩み多いわよねと思いながら、症状の欄に腹痛・便秘と書く。
今度便秘薬が作れないか試してみよう。
今の私のスキルでは、この薬草でこんな薬が作れるということは分かるが、この症状に効果のある薬が作りたいから、どんな薬草が必要でどう作るかということは分からない。
辞書でいう逆引きね。
そんな便利機能はさすがにないみたい。
とすれば新しい薬草探しもしなくちゃ。
私ってば結構忙しい。
まあでもそれも楽しいんだけどと、ふふっと笑う。