失礼な男の正体は!?3
な、なによ。
イチャモンつけてくるんじゃないでしょうね。
しかも今度はその女呼ばわり?
おまえって言われたのに文句をつけたからって、その女呼びはどうなのよ!?
そんなことを考えながらも、ぱっとオーナーのうしろに隠れる。
また喧嘩になったらお店に迷惑をかけてしまう、ここは大人しくしていよう。
「……おい、」
「マリアンナちゃんです」
隠れた私に眉をひそめて言いかけた辺境伯の言葉を、オーナーが笑顔で遮った。
「おまえ呼びは失礼だと言われたばかりでしょう?だからってその女呼びや、おいと呼び止めることが正しいとお思いですか?」
顔は笑っているのに目は笑っていない。
普段温厚なオーナーのこんな姿、はじめて見た。
いやでもオーナーは正しいことを言っている。
うん。
実際辺境伯もたじろいでいる。
なんだ、失礼だっていう自覚はあるんじゃない。
「わ、悪かった!ええと……マリアンナ嬢のポーションを作るところをとりあえず見せてもらいたい。それと、確認したいこともいくつかあるから、しばらくこの街に滞在するつもりだ」
おお、オーナーのいうことは素直に聞くんだ。
ちゃんと名前で呼んでくれた。
でもポーション作りを見たいって、今すぐ?
私、今から昼休憩なんだけど……辺境伯の命令なら断れないわよね。
うぅ、せっかくサンドイッチをもらったのに……。
私が内心がっかりしていると、すかさずオーナーが口を開いた。
「滞在するのも、色々確認されるのも結構ですが、ポーション作りの見学はまた後ほどお願いします。マリアンナちゃんは今から昼休憩なので。まさか善良な雇用主であり領主様であるあなたが、労働者に食事もとらずに働けなんておっしゃいませんよね?」
先程よりも圧を強めてオーナーが辺境伯に笑顔を向けた。
そして辺境伯も冷や汗をかきながら、と、当然だ!と言ってくれた。
す、すごい……。
「ではマリアンナちゃん。悪いけど、一時間後に作業室に来てくれるかな?」
「は、はい!喜んで!」
オーナーへの感謝の気持ちを込めて、私は元気よく返事をしたのだった。
そして一時間後。
私はいつも通りポーションを作っている。
ちなみに近くに住む猟師のおじさんに頼まれたものだ。
森で狩りをするのだが、まれに弱いものだが魔物に遭遇することもあるため、毎回五本くらいは持つようにしているとのことで、私への予約注文を入れてくれた。
……のだが。
「ふぅん……作り方は普通だな。色や匂いも他のやつらの作るものとなんら変わりない」
この失礼な辺境伯は、なぜか私がポーションの材料を入れてかき混ぜている鍋に、ものすごく近付いて、中身を凝視している。
「あの……あまり鍋に近付きすぎると危ないですよ?それに、失礼ですけどそんなにじろじろと見られるとやりにくいっていうか……」
「ああ、悪い」
お、今度は素直だ。
すぐに二、三歩下がってくれた。
それに冷やかされたりネチネチ嫌味を言われたら嫌だなぁと思っていたのだが、意外と真剣に見学してくれている。
ふぅん、薬師の仕事を馬鹿にしているわけじゃなさそう。
「それで?なにか気になるところはありましたか?」
「期待していたような特別感はないな。なにもかも普通だ」
ちょおっとばかり素直すぎる気はしますけどね!
オーナーの問いかけに答える辺境伯に、心の中で突っ込みを入れる。
っていうか普通に決まってるでしょ。
普通でなにが悪い。
普通が一番よ。
これまた声には出さずに普通を連呼しながら鍋をかき混ぜる。
そろそろ良いだろうか。
色も匂いも大丈夫。
試飲の結果もいうことなし。
確認を終えて容器に移していくと、辺境伯はその様子もじっと見つめていた。
「はい、完成です。なんの変哲もない、普通のポーションです」
とりあえず普通を強調してみた。
特別感なんてあるわけがない。
さあそれでなにかありますかと腕組みをして相手の反応を窺うが、辺境伯はひょいとポーションをひとつ摘み上げると、角度を変えて眺めはじめた。
だから変なところなんてないってば。
もう、一体なんなのよ。
そんな私の視線などお構いなしに、辺境伯はポーションをいくつか小袋に入れると、くるりと向き直った。
「少し調べたいことがある。これはもらっていくぞ」
「え?あ、ああ。予約注文のお客様の分は残っていますから、別に構いませんけど……」
「エリック、また明日来る」
そう言うと、辺境伯は足早に作業場を出て去って行った。
「なんだったんでしょう……」
「さぁ。彼はいつもあんな感じなので、気にしなくて良いと思いますよ」
なんだろう、やけにオーナーの辺境伯に対する扱いが雑な気が……。
それはともかく、あのポーションでなにを調べるんだろう。
彼がなにをしたいのかよく分からないまま、私はその日の仕事に戻ったのだった。