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失礼な男の正体は!?2

まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう、イケメンも呆気にとられている。


「ちょっ、マリアンナ!言い過ぎよ!この方を誰だと思って……」 


「どれだけ偉い人なのか知らないけど、だからってこんな失礼を見逃せるほど私は温厚じゃないの!」


今にも平手打ちでもかまそうとするのではと、アーニャが慌てて私とイケメンの間に入って来た。


するとイケメンは、半ば喧嘩腰な私をじっと見つめて口を開いた。

 

「良い度胸をしているな。雇い主に向かって随分と言ってくれるじゃないか」


「はあ?雇い主、って……」


その言葉に、はたと思い当たる。


そういえばこのイケメンが着ている軍服っぽい騎士服、装飾とかは豪華だけれど、デザインは辺境伯家の討伐隊が着ているものに似ている。


そしてその胸元につけられたバッジに刻まれている紋章。


ダイアンサス(撫子)の花……」


「よく見ているじゃないか。さて、俺は誰だと思う?」


意地の悪そうな笑顔が非常に癇に障る。


なんてこった、本当に偉い人だったのか。


「……失礼いたしました。まさか辺境伯爵様自らいらっしゃるなんて、思いもしなかったものですから」


内心の動揺を押し殺し、無理矢理笑顔を作って答える。


「俺が自分の足で視察や確認にまわっていることは有名な話だと思っていたのだがな?」


うわ、そこは器の大きさを見せて許しなさいよね。


全くこれだから貴族ってやつは……いや私も一応貴族なんだけどさ。


私もここで引けば良いのに、売られた喧嘩は買う主義が出てしまう。


上から目線の辺境伯爵に、もう一度にっこりと微笑む。


「申し訳ありません、辺境伯爵様は領民からとても慕われていらっしゃると聞いておりましたので。礼節を重んじる、度量の大きな大人の男性だと思っておりました」


つまり、『あんたみたいな小さい男が辺境伯爵様だなんて思いもしなかったのよ』ということだ。


隣のアーニャがひええっ!と真っ青な顔になってしまった。


ごめんね、ここでクビになったら、今日一日ひたすらポーションを作って、十日間は困らないようにするからね。


さあなんて言って返してくるのかしらと、腹を括って待ち構える。


「言ってくれるな」


さすがに怒ったよねと思ったのだが、その後に続く言葉は意外なものだった。


「まあ仕事が確かならば文句はない。ヨーゼフじいさんからも報告は聞いているしな」


表情こそ納得していない感じではあるが、ため息をつきながらも許してくれた……のだろうか。


意外と良い人なのかもしれない。


「しかしそうそう喧嘩を売っていては身の破滅を生むぞ。もう少し忍耐力を持った方が良いのでは?」


……は?


「前職場は王宮の薬剤室だったか。その性格では随分と苦労したのではないか?あそこの室長と仲良くやれるような器量ではないだろう」


前言撤回。


このふふっと見下すような笑顔。


歯に衣着せぬもの言い。


この男、めちゃくちゃ嫌なヤツだー!!


しかも言っていることが間違っていないところがさらに腹立つ。


「ふん、あんな職場こっちから願い下げだったので、別にどうとも思っていません。それに、こちらのポーション屋やヨーゼフ先生とのお仕事の方が楽しいし、やりがいもありますので」


「へえ。それは遠回しに俺に感謝していると言っているのかな?ちなみにここのポーション屋を創設するにあたってオーナーであるエリックに援助したのも俺だ」


!そ、それは確かに……。


私が応募したのも大元は辺境伯である彼からの依頼だったわけだし、ヨーゼフ先生も新薬開発のことを辺境伯にお願いしたと言っていた。


そしてここで安定した暮らしができているのは、領主である彼のおかげといっても過言ではない。


「くっ……確かにそれに関しましては、とても感謝しておりますけども!」


いや落ち着け私。


ダイアンサス辺境伯といえば、若くしてその地位を父親から受け継いでいて、確か御年二十五だったはず。


つまり、前世の私の方が年上。


その記憶を持つ現世の私の方が精神年齢が高いということ。


ここは大人の女性としての余裕を見せないといけないところよね!


「こほん。ですが辺境伯爵様ともあろう方が、女性への礼儀を忘れてはいけないと思います。貴族社会はそう甘くありません。領民のことを考えるならちゃんと……」


「ほほう、御高説痛み入る。しかしそれを言うなら、おまえはどうなんだ?領主たる俺への礼節を欠いてはいないか?」


「そ、それは!あなたが先に私のことをおまえ呼ばわりして、見た目に反してなんとかって言うから!」


「俺としたことが、雇用したおまえの名前を忘れてしまってな。なんだ、レディとでも呼んでほしかったのか?」


むきー!腹立つ!


なによその、その顔でレディ(笑)?とでも言いたそうな顔は!!


やっぱりこいつ嫌い!!


「まあまあ。ウィルフリード様、その辺で止めてあげて下さい」


収束しない私達の争いを、いつの間にか現れたオーナーが間に入って止めてくれた。

 

「マリアンナちゃんごめんね、辺境伯は誰にでもこうなんです、あまり気にしないで」


「……おいエリック。さり気なく俺を貶すな」


「お、オーナーぁぁぁ!」


神様のような優しい声、その助けの手に思わず縋ってしまう。


オーナーの優しさが身に沁みるわ……。


気付けば、周りのみんなが遠巻きに私達を見ている。


どうやら辺境伯と私の喧嘩をどう止めたらいいのかと悩んでいたようだ。


店頭でわーわー騒いでしまって申し訳ない。


我に返りしゅんと縮こまってオーナーやお客様に謝る。


アーニャにもごめんねと詫びれば、無茶するんだからと呆れられた。


「それで、突然どうされたんですか?視察にしても、いつもならちゃんと先触れを出して下さるのに」


「ああ、その女が作ったというポーションについて、確かめたいことがあってな」


そう言うと辺境伯は私に視線を送ってきた。

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