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ご近所冒険譚

作者: 葦原 伊織

雨上がりで少し肌寒いかと思い、厚着をして出る。

月に1度のポスティングバイトも今月で3度目で、我ながら手慣れてきたと思う。


今日の配達区域を少し歩いた所で、直ぐに寒さを感じなくなった。

健康のためにはじめた仕事だったが、多少体力が付いて燃費も良くなっただろうか、目論見通りに心は軽い。

ふと、遠くから音がするのに気がついた。



リーンリーンと鈴の音が聞こえる。

配達ルートを進めば、段々とその音がハッキリと聞こえてきて。

私はその音の出どころを探そうと周りの音を拾った。

ところが鈴の音とは別で、半音下がったラッパの音が聞こえ始める。

どう考えてもコレは、お豆腐屋さんが巡回している。

昼前だというのに、なんとなく住宅街を巡る音にミスマッチを覚えながら、心の中で苦笑する。


そして、最初に聞いた鈴の音は、しまい忘れたままらしい風鈴であった。

先月回った時は気がつかなかったが、ハテ、今日は風が強いからか。



ぶら下がったまま、町内に自己を主張する風鈴を横目に、私は投函を終えて次の家へ向かう。


冬の雨上がりとは思えないほどの生暖かい、しかし強い風。

遠くでずっと鳴り続ける夕方を連想させるラッパの音。

少しづつ遠ざかる物悲しい夏の音。

それに重なるように、鳥のジジジジジっと鳴く声も響く。


強い風が落ち葉を巻き上げて、枯葉が髪にまとわりつくのを見れば、確かに今は松の内も開けない1月なのだが。そのはずなのだが。

なんだが少し捻れた時空に片足を突っ込んだような、不思議な感覚に包まれた。



そうして、晴れていた空に雲がかかると、ぐっと寒さを感じて。

気がつくと私は、静かな住宅街にもどってきていた。


毎日平凡に生きる私には丁度いい、ご近所冒険譚は帰還まで1時間ポッキリだった。

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