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銀河戦國史 (連邦エージェント活動日誌)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第7話 寝付けぬ夜 その3、朝食と鼎談 その3

 数日後のリカルドの寝室。この夜もやっぱり寝苦しい。

「なぜだ!? なぜ私が、所領の知行という正当な権利を奪われなくてはいけないのだ!」

 何度おなじ叫びを、グルサリルラリルの口から聞かされただろう。「先代である父から正式に棟梁の座を移譲されたのだぞ。善政の誉れ高かった父の後を継ぎ、父に教わった通りに所領経営を実施してきたのだぞ。それがどうして、家臣に領主の座を奪われるなどという辱しめを受けなければならないのだ。」

 重すぎる税の徴収や不正な蓄財を示す明確な証拠に対しても、彼には全く納得がいかないようだ。細い顔から飛びださんばかりにむき出された両眼が、いなずま模様に血走っていた。

「税の額の算定についても、父から教わった通りのやり方を着実に踏襲していたのだ。領民への使役だって、蓄財だって、父の代からやってきたことを継続しただけなのだ。なぜ・・・」

「あなたのお父上の時代より、集落全体の収穫量は衰えておりますし、人口は増えておりますぞ。それで同じ額の税をとっていたらどうなるか、分かりませんか?」

「・・・し、しかし、父は税額の変更などは・・・」

「お父上の時代には、人口に変化はありませんでしたからな。収穫高が減少した事はありましたが、それは一部の領民が資源採取につかうイオン化捕集装置の使い方を間違えていたからで、お父上はすかさず領民の再教育を実施され、収穫高の回復をなし遂げておいでです。」

「では、私も領民の再教育を実施すべきだったと・・・」

「いいえ。現状の収穫高の減少は、資源採取を行っているガス惑星の状態変化によるものです。当該惑星や所領内の他の天体への調査を実施し、採取場所や採取方法の変更などを検討すべき状況です。」

「そんなこと、父からは教わっては・・・」

 グルサリルラリルにとっては、父に教わったことをそのまま実施することや、父のやっていたことに何も変更を加えないことこそが、善良な所領経営のようだ。

 父だけでなく、何世代も前の祖先から脈々と受け継がれてきたやり方であり、数百年にも及ぶ実績に裏打ちされた確かな方法なのだから、間違っているはずがない、というのが青年領主の言い分だった。

 何世代もの間、ずっと同じやり方が続けられたわけでなく、幾度となく訪れた様々な状況の変化に対して、臨機応変の改善や工夫が何度も行われて来ていることが、過去の記録を注意深く紐解けば散見されるのだが、父の言葉にしか意識の向かない彼の目には映ったことがないようだ。

 父のころから状況が変わったのなら、それに合わせて柔軟な変更をほどこしていくべきなのだが、それが理解できていない。だから、父の代には起こらなかった人口増などの事態への対応ができない。父の代とは状況が変わっても、問答無用で同じやり方を続けてしまう。その結果、領民の課せられる税負担が生活も困窮してしまうほどに過剰なものになってしまっていたわけだ。

 私的な役務への酷使についても、そうだった。彼の父の代には、領主への敬慕の熱い一部の領民が、自主的に領主施設の改修などの作業を、それぞれにとって可能な限りの力を尽くしてやっていたらしい。それと同じ作業を、グルサリルラリルは領主の側からの指示として、領民にとっての限界なども考慮することなく労力を搾り取り、実施させていた。

 同じ作業でも、自分から進んでやるのと、指示されてやるのとではわけが違う。父の代では奉仕活動だが、彼のやったことは強制労働だった。限界を考慮していなかったから、けがや病気が頻発し、過労死さえもが発生していた。

 だが、父の代と同じことをやるのが善政だと信じているグルサリルラリルには、そのことが分からないらしい。

 蓄財に関しても、父の代までには険悪な関係にあった近隣領主との、不測の抗争に備えてのものだったらしい。領民とも合意の上で、近隣領主の不意を突いた侵略にも対処できるように、避難場所を設置して糧秣を備蓄したり、迎撃用の武器を取りそろえたりしていたのだという。

 その近隣領主は、政府によって転封を言い渡され、そこには新たに別の領主が立てられていた。新たな近隣領主とは友好な関係を築けていたから、侵略に備えた蓄財の必要などもすっかりなくなっている。

 だがグルサリルラリルは、そんな状況変化にも構わずに、同じように武器や糧秣を蓄えつづけていた。私利私欲にかられてやっていたわけではないが、領民にとって納得のいかない蓄財をやっていたことに違いはない。

(真面目すぎるのだな、あの青年は。その真面目さが、ひたすら父のやっていたことを継続することに向けられている。父の代から何も変えないことこそが正しいと信じ切っている。それも真面目さゆえのことなのだろうが、状況の変化に伴って、領民には苛政を加えられていると実感されるようになってしまった。)

 本質的なところでは、悪辣な領主というわけではないのだ、とリカルドは思った。すこし態度を改めれば、考え方に柔軟さが出てくれば、よき領主になれる可能性は十分にありそうだ。

 だが今の、領民にすっかり不信感が根付いてしまっている現状や、硬直さを脱する気配を見せないグルサリルラリルの思考傾向などを考えると、やはり彼には、領主の座から降りてもらった方がいいように思う。

 領主の座を奪われたとて、彼には行くあてがなくなるとか、くらしを立てる術を失うなどということもない。名門ファミリーである「ファタライス」だから、あちこちに分家などがあって、いつでもそのどれかに身を寄せることができる。別の領主のもとで、改めて所領経営について勉強しなおす、というのが一番いいように思える。

 だが、そうすることをグルサリルラリルに承諾させるのは、絶望的に困難な課題に思えた。何が何でも、自分が領主を受け継がなくてはならない。父の代と同じ所領経営を、どんなことをしてでも自分の手で継続して行かなくてはいけない。彼の真面目さは、そのことへの揺るがぬ執念として表出している。

 赫々たる戦果を誇ったファミリーの始祖の血を、暗闘を生き抜いた棟梁たちの血を、そして父の血と教えを受け継いだ自分にしか、「ダンゲレ」領域の知行は果たせるはずがない。他の誰にも務まるはずはない。そう信じ切っていて、疑うことを知らない。

 銀河連邦の権限や能力をフルに使えば、彼に納得などさせなくても領主を交代させることはできる。しかしそれでは、後にどんな遺恨を生じるか知れない。目先の問題解決だけを考えていては、連邦エージェントなど務まらない。末ながく、後々の世まで、領主も領民も、どちらもが幸福を実感できる。そんな解決を目指すのがエージェントの理想だろう。

 理想と現実が違う事くらい、リカルドだってわかっている。だが、違うからこそ、理想を目指すことを諦めてはいけないはずだ。リカルドはそう信じていた。

「リカルドって、根気強さだけは誰にも負けないね。あなたのそういう所、私、尊敬しちゃうな。」

 何をやっても足元にも及ばないはずのメイファーが、そんな風にほめてくれたことがあった。何に対してそう言ったのだったか、今となっては覚えていないのだが、その言葉だけははっきり覚えている。それを言った時の、彼女のキュートな微笑みとともに。

 だからリカルドは、根気においてだけは、誰にも負けるわけにはいかなかった。

 ある星団国家に、恒星の突発的大規模フレアという自然災害が起こり、そこからの復興を支援するための惑星再テラフォーミングにボランティア参加した時も、別の遊離惑星国家で、スペースデブリの除去清掃の活動に従事した時も、故郷を2千光年以上離れた場所での3か月たっても終わりの見えなかった課題に対し、リカルドは誰よりも粘り強さを発揮して見せたものだった。

 周りの人間が次々に音を上げて脱落して行く中でも、リカルドはめげなかった。フレアの影響による強烈な宇宙線も、灼熱も、強重力も、宇宙酔いも、それらに苛まれることによるとてつもない疲労感も、リカルドを諦めさせることはできなかった。諦めるわけにはいかなかった。メイファーのくれた言葉を、ぜったいに嘘にするわけにはいかないから。

(根気強く、説得してみよう。結果はどうなるか分からないが、決して投げ出さず、できる限りのことをしよう。)

 確固たる決意が、彼の心に穏やかさをもたらした。寝苦しかった気分が、メイファーの笑顔とともに湧き上がってきた、強い決意に裏打ちされた穏やかさに、溶けていった。リカルドの意識も、思考も、一緒になって溶けていく。

 眠りに落ちて行くリカルドは、この夜も、メイファーの笑顔を抱いていた。



「では、領主を交代させる方向で、話を進めていっているのだな。」

「うむ、コボス。彼は悪い青年ではないのだが、領主を務めるには早すぎたのだと思う。一旦身を引いてもらって、他日の再起を期してもらうというのが、一番いいと思うんだ。」

「俺も、その判断で正しいと思うぞ。説得は難しいのだろうが、お前ならやれるさ、リカルド。あきらめずに、粘り強く説き伏せていくことだな。」

「ああ、ありがとう、トニー。その方向で、がんばってみるよ。お前の方の、軍を派遣した件は、どうなったんだ?」

「ああ、現地の領民がな、連邦支部の軍隊が動きだしたって聞いて、態度を豹変させたんだ。盗賊のすきを突いて全員で集落から脱出してきてくれたから、盗賊はうまうまと孤立させられたというわけだ。」

「そうか。孤立させてしまえば、制圧するのもわけはなかっただろうな。」

「そうなんだ、コボス。実質的な戦闘なんてほとんど起こらないうちに、盗賊の方から白旗をあげたという報告を受けた。盗賊にも死傷者がでなかったから、誰にも大きな恨みや怒りは残らなかったと思う。制圧した盗賊を更生させられる見込みも出てきたと思うし、上出来な解決だったと思っているよ。」

「良かったじゃないか、トニー。軍の派遣と聞いた時には、どうなるかと思ったが、最善の結末にいたったと言ってよさそうだな。」

「うむ、お前にそう言ってもらえると嬉しいぜ、リカルド。」

「私の方も、最善の結末にこぎ付けられそうなのだぜ、トニー。」

「そうなのか、コボス。政府が動いてくれそうなのだな?」

「ああ、リカルド。ようやく重い腰をあげて、領民の酷使や濡れ衣を着せての迫害を、厳しく糾弾するための手続きに入ってくれたぞ。」

「そうか。コボスもトニーも、上手く懸案を処理したのだな。俺も、負けてはいられないな。じっくり腰を据えて青年領主を説き伏せて、領主の交代を承諾させよう。」

 3人の動作が、弾かれるように勢いを増した。小川の水面(みなも)のきらめきも、穏やかに吹きわたる風も、今は3人の意欲を掻き立てる効果しかもっていないみたいだ。

 訪れた沈黙が朝の空気をさえわたらせる中、3つの人影だけが加速する。それぞれの課題に向かうべく、まずは朝食を手早くやっつけようということなのだろうか。一気にかき込むように、それぞれのメニューに挑みかかる。

 リカルドはケチャップたっぷりのホットドッグをパクパク、コボスは黒酢とタルタルソースで見えなくなっているチキン南蛮をガブリ、トニーはいつも通りのヨーグルトをチュッ。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/10/9  です。

 物語世界の広がりを示そうとするあまり、記述内容があっちこっちに飛びすぎかもしれません。主人公であるエージェントたちだけでも3つもの案件を抱えているのに、リカルドの過去を記す場面でも色んな話が飛び出してきて、説明ばかりになっていて、退屈させたり混乱させたりする内容になっている気がしてきました。

 一方で、物語としての面白さとかエンターテイメント性なんてものが、全然見当たらないなあ、とも。メイファーのことや青年領主のことでそれを演出していたつもりですが、全体のバランスを見ると、弱いなあと。

 推敲も何十回目になってようやく、そんなことに気付いている状態です。

 ですが、メイファーとも恋物語が展開することは無いですが、何の動きも起こらないってことも無いし、エージェントの抱える案件も、これからそれなりに物語といえる展開が訪れます・・・・きっと、多分。

 なので面倒や退屈を感じ始めた読者様も、なにとぞご寛容頂きまして、あと少し、できれば最後まで、お付き合い頂きたいと切に願っております。

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