表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河戦國史 (連邦エージェント活動日誌)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
5/12

第4話 朝食と鼎談 その1

「まったく、連邦を何だと思てい・・ムゴムゴ・・だろうな、ムゴムゴ・・あの連中は・・」

 口いっぱいに詰めこんだ朝食のミックスサンドイッチを咀嚼しながら、リカルドは愚痴に属するといっていい前日の報告をした。

 宙空建造物のなかの、リカルドの住居のある街には小川が流れている。そのほとりに、小さなカフェがあった。川辺を覆う草花とキラキラ光る川面が、目を楽しませてくれるオープンカフェであり、彼にはお気に入りの場所だった。

 人工的ではあるが、昼夜の寒暖差も建造物の中には設定されている。それがツンと張り詰めた朝ならではの空気や、草花が朝露に濡れる情景を作り出していて、清々しさが演出されている。

 激務の疲れも、昨夜の寝つきの悪さが原因のねぼけ眼も、清澄な朝の空気に洗われ、癒される。今日果たすべき重責にも、自然に集中力が高まって行く。

 リカルドはここで、同僚であり親友でもある2人のエージェントと、一緒に朝食をとることが多かった。

「まあ、領主なんてそんなもんさ、リカルド。その青年の態度はあまり気にせず、家臣や領民の言い分を冷静に聞いた上で、対処するべき事案だな。」

 昨晩リカルドがベッドの上で反省したのと、ほとんど同じことを告げて来たのは、コボス・レイヤーだった。小柄な体格で神経質なつらがまえをしているくせして、朝からとんかつ定食なんぞをがっついている。

「領主も家臣どもも力ずくでけちらして、領民による選挙でリーダーを決めさせる、ってところに一気に持ち込めれば、いいのだがな。」

 強引で豪快で無鉄砲な案を、冗談ではあるのだろうが、ずけずけと言い放って来たのは、トニー・クロコックだ。筋肉がムキムキのいかり肩が言葉と同様に勇壮ではあるのだが、朝食はヨーグルトとレモンティーだけだ。

「ははは、まさかな」

 冗談をかるくながして、リカルドは話をつづけた。「まあ、まずは、グルサリルラリル・ファタライスの所領経営の実態や、家臣たちが反乱を起こした経緯などを調べないとな。生真面目そうな青年領主だから、ひどい重税を課して領民を苦しめるとか、家臣のまえで傍若無人にふるまうとか、そんなことはやりそうに思えなかったが、ま、先入観はもたないようにしないとな。」

「選挙でリーダーを選ぶなんてことは、当面はこの国では難しいだろうな。最終的にそうなればいいと思ってはいるが、ほとんどの領民が、領主による税の徴収に不満をもちはしても、領主なしでもやっていけるように自分たちが成長しよう、なんてことは考えない。主体性というか自主独立の気風というか、そういうのが芽生えないうちに、選挙だけをやっても民主制は根付かないからね。」

 トニーの冗談めかした発言に、リカルドよりコボスのほうが正面から応じた。ザクザクととんかつの衣をかみ砕く軽快な音とは対照的に、重苦しく考え込む眼だ。

「そうなんだよな。人任せが骨身に染みた連中なのだよな、ここの国の領民というのは。積極的な意見表明もしなければ、具体的な対案も持ち合わせてないくせに、いっちょうまえの為政者批判だけは陰でグチグチとやり続けるのさ。不満を言えば応えてくれた、子供の頃の思い出に見えるパパやママの延長線に、為政者というものをとられているって感じなのだよな、全く。」

 筋肉の隆起したでかい背中を窮屈そうに丸めたトニーが、すぼめた口でスプーンの先端だけに小さく乗せたヨーグルトを、チュッと吸いとってからそんな意見を述べた。

「君のところの案件はとくに、そういった領民の責任意識のひくいわがままに、振りまわされている感じのものだったな、トニー。」

「ああ、そうだぜ、リカルド」

 丸めた背中を、そのままにしての答えだ。「ついこの前、新しく着任した領主も、早くも追い出してしまいやがったんだ。税負担を徹底していやがって、徴収するなら全滅覚悟で徹底抗戦してやると、領民たちは粗末な武器を振り上げて息巻いているんだ。よほど気の強いやつが領主をやらないと、手も足も出せなくなっちまう集落なんだな。」

「そうなのか。」

 この話題にも、沈んだ声でコボスは意見を述べた。「重すぎる税を課す領主は問題だが、税を無しとするわけにもいかないからな。領民が生活のためにつかう重要な施設なども、領主がそれの維持管理をやっているのだし、政府に課された役務もこなさなくちゃいけない。その分の税は、領主としては徴収しないとやっていけない。色んな経費をみんなで負担し合わなくちゃ、集落を維持してはいけないって現実を、その領民たちはよく分かっていないのだろうな。」

「そうさ。世の中の道理を何も知らねえで、ただ税負担がいやだってわがまま言って、次々に領主を追放してやがるんだ。命懸けの反抗を領民から宣言されては、なかなか領主をつづけていける奴もいないからな。」

「確か、ここ3年で5回目だったな。その領民が領主を追放したっていうのは。」

「よく覚えているな、コボス。そうだ。俺の前任者のころから、飽くことを知らずに繰りかえされてるのさ。やってくる領主を、ことごとく追い払っていやがるんだな。そんなんじゃ、いずれ集落も維持していけなくなっちまうのに。」

「領民への適切な啓蒙や粘り強い説得が必要な案件、ということだな。ある程度の税負担を受け入れてもらうために、領民たちにいろんな経費の必要性を分からせなくてはいけないわけだ。国にしろ所領にしろ集落にしろ、色んな費用をかけなくては、末永く安定的には存続できないという現実を。」

 リカルドが、憂慮の目をトニーに向けた。教育のいきとどいていない領民に、所領経営にかかる費用について理解させるのは、厄介をきわめる仕事だと彼も経験的に知っている。

「教育をしっかりやらないと、こんな問題も起きてしまうのだが、やりすぎると民主化の要求なんてのがおきてくるかも知れない。それを恐れて政府も領主たちも、領民の教育には消極的なのだな。知らなすぎる領民も困るが、知りすぎる領民も恐ろしい、というわけだな。」

「そんなところさ、リカルド。それで俺たち連邦のエージェントが、手を焼かされるハメになるのさ。」

「そうか。じゃあ今日は、リカルドは反乱の実態把握のために、トニーは領民の説得のために、現地の集落などに出向かなくてはいけないのだな。どちらもここから、10光年くらい離れたところにあるから、次に顔を合わせるのは何日も先だな。」

 そう言った彼が見せた苦笑は、2人の激務への同情を表したものか、しばらく会えないことへの寂しさに由来するのか。リカルドとトニーの向かう先どうしの間でも、20光年近い距離がある。連邦エージェントの活動とは、なかなかに孤独なものでもあった。

「そういうコボスは、しばらくはこの支部の中だけの活動ですみそうなのか?」

「ああ。俺は一昨日、10日以上もかけての現地調査を終えて、帰ってきたところだからな。百人以上の領民から訴えのあった領主の不正や圧政を裏付けるために、12の星系にある30個弱の天然天体と20個強の人工天体を調査して回らなくちゃいけないっていう、疲れのたまる旅だったが、おかげで収穫は十分だ。訴えられたことが事実であった証拠はそろったから、それを示した上で、この国の政府に厳正な処分を依頼して、あとはしばらく推移を見守るつもりだ。」

「個人的な用務に領民をさんざんこき使った上に、報酬を支払わないどころかタキオントンネルの無断使用という濡れ衣を着せて処罰しようとした、悪徳領主の件だったな。そんな領主を糾弾する訴えを、領民から起こしてきたやつだろ、コボスの抱えているのは。」

「ああ、リカルド。小惑星の掘削や人工彗星の建造のために、領民が確かに過酷な使役をうけた事実も、タキオントンネルを無断で使った事実などなかったって真実も、明白な根拠をもとに証明できる状態になった。こうなれば政府も動かざるを得ないはずだ。」

「動かないようなら、銀河連邦による技術支援の停止なんかもちらつかせて、政府の尻をたたかなくてはならない、という面倒な仕事になってしまうわけだ。が、まあ、そういった状況だったら、動いてくれるだろうな、コボスの案件も。」

 ここで話題に上った件以外にも、彼らはいくつもの案件をかかえていた。民衆の知識や技術の向上のために、この支部の中で定期的かつ継続的に催しているイベントだって数知れずあり、そちらの広報活動なども彼らの肩には乗っている。銀河連邦エージェントとは、多忙なものなのだった。

 ひとしきり今抱えている案件についての意見交換を終えると、彼らは残っていたサンドイッチやとんかつやヨーグルトをかき込み、それぞれの任務に向かって駆けだしていった。

 今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は  2021/9/18  です。

 リカルドたちのいる連邦支部=円筒形宙空建造物のスケール感を味わって頂きながら、エージェントたちの活動内容を知って頂く、という場面でしたが、例の如く自信がないものだから後書きで念を押すという反則行為に及びます。

 宇宙に浮かぶ円筒形の人工物の中に、いくつも街があって川が流れてたりして、寒暖差を人工的に演出して草木が朝露に濡れたりなんかもして、人が快適に暮らしを営める環境が創出されているわけです。

 月や火星に人が活動できる施設を作ろうなんてことが、かなり本格的に議論され始めている昨今なので、その延長としてこんな施設を想像する人が、増えてきていても良いのではないかと思っています。

 地球と同じような環境の天体を見つけるのか、地球とは全く違う環境に順応するのか、はたまたここに出て来たような人工物を宇宙空間に造りだすのか。人類の宇宙進出にも色んなパターンが考えられ、本シリーズではそれを全部取り込んでやろうと考えているわけです。

 一応作者がこだわっている部分なので、注目して頂けるととても嬉しいのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ