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銀河戦國史 (連邦エージェント活動日誌)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第3話 寝付けぬ夜 その1-3

 つき放すような言い方を、ここまではしてきたリカルドだった。が、

「ですがその前に、どういういきさつで反乱が起こったのか、詳しく話して頂けませんか?その内容によっては、別の対応もありえますから。」

と、急に声をやわらげた。

 本来は、初めから詳しい話を聞かせてもらうようにするのがセオリーだ。連邦が彼に協力するのは当然、という青年領主の態度に思わず反感を抱き、とっさにつき放すような話しかたになってしまったのを、リカルドは内心ですこし反省していた。

(こういうところが、まだまだ俺の器の小さい所なのかな。メイファーなら、こんな子供じみた反駁(はんばく)など、しないのかもしれない。)

「家臣どもが、いきなり牙をむいて来たのだ。先代であるわが父が棟梁であるあいだは、従順にふるまっていた連中であったのに、棟梁の座が予に代替わりしたとたん、若造だとあなどられたものか、力づくで予の裁量権を制限してきおったのだ。」

「具体的に、おっしゃっていただけますか?」

「領民からの税の分配を、予に何の断りもなく勝手に決め直し、自分たちの取り分を不当に多くしおったのだ。それを非難し、首謀者の拘束を我が手勢に命じると、先手を打ってそれを逆に制圧してしまいおった。棟梁の手勢を武力で制圧したとなれば、それはもう立派な謀叛だ。身に危険を感じた予は、こうして自領から落ち延びるハメになってしまったのだ。」

「むう・・・、そうですか。それまでは、あなたと領民のあいだは、良好な関係が築かれていたのですか?」

「当然だ。我が『ファタライス』ファミリーは数百年にわたって、領民の反乱や逃散をまねくことのなかった、善良な領主として名をはせてきているのだ。予も、先代から言いつかったことをしっかり守り、善政を堅持している。領民は予の知行に、何らの不満もいだいてはおらぬはずだ。」

 言葉通りに受け止めるわけにはいかない、と思いながらも、現段階では否定もできない。リカルドは言った。

「あなたの所領経営のもとで幸福にくらしてきた領民たちが、横暴な家臣の壟断によって苦境に立たされている、というのならば、我々としても行動を起こさなくてはならないでしょうな。その反乱を起こした家臣を排除し、あなたの権限を回復することが領民の幸福への一番の近道なのだと判断されたのならば、銀河連邦はもてる力を尽くして、それに乗り出すでしょう。」

「おお、そうか。そう言ってくれると助かる。では、さっそく家臣どもを武力制圧し・・・」

「お待ちください。まずは、あなたのおっしゃったことが事実かどうか、我々のほうで確認を取らせて頂きます。あなたの権力維持が目的ではなく、領民の方々の幸福を我々は第一に考えているのだということを、お忘れなく。その為に何が必要かを、我々のほうで調査し、判断させて頂きます。」

「そ・・・・そんなこと、調べるまでもない。わたしが権力を回復することが、何よりも領民の幸福につながるに決まっているではないか。予は、政府より認められた正当な領主なのだぞ。『ファタライス』ファミリーの伝統を、引き継いでもいるのだぞ。」

 信じこんできた常識は、簡単にはすてられない。グルサリルラリルには、色々と不満もあるようだったが、とにかく連邦による調査の結果を待つ、ということへの同意は得られた。何回も押し問答を繰り返した末の、渋々の同意といったところではあったが。

 基本的には、ひどい悪意などはない、比較的にも善良な領主なのだとリカルドはグルサリルラリルを評していた。考えに柔軟性がなく、思いこんだことに一途にこだわりすぎる嫌いはある。父親に教わったことをそのまま引き継ぎ、何ら変更をくわえないということに拘泥しすぎている。そんな短所を見て取りながらも、それで善良な領主になれる可能性がないとは言い切れないと思った。

 しかし、今回の件に関しては、領主交代を彼に受け入れさせるという結論になる可能性がたかいとの手ごたえが、この時点でのリカルドにはしていた。領民にその意向が鮮明ならば、連邦エージェントとしては、領主交代の方向で政府に対しても運動して行かざるを得ない。青年領主にはつらい通告となるし、それを口にする時のことを思うと、リカルドは今から気が重かった。

 決して根から悪人とは言ないグルサリルラリルだが、思いこみの強い性格と施されてきた帝王学的な教育が、今回は領主の座を追われるという結末に繋がってしまうのかもしれない。彼自身に責任のあるわけでもないことで、彼が苦杯をなめさせられる、とも言えるかもしれない。

 リカルドは、先に待ち受ける作業には憂慮が絶えなかったが、しかし、調査をしてみないことには結論は下せない。今はまだ、きびしい宣告を唱える場面を想像するような段階ではない、と自分に言い聞かせた。

 調査がすむまでのあいだは、彼の身柄は、今リカルドのいる円筒形宙空建造物で預かることになった。彼の言ったように、そこは“ 銀河連邦支部 ”との呼び名も与えられている施設だ。

 この星団帝国にいくつもの“ 支部 ”をおいて、銀河連邦は活動を展開している。

(それにしても、何であんなに、感情的になってしまったのだろうか?)

 寝付かれないベッドの上でリカルドは、若い領主への自分の、大人気ない態度に恥じ入っていた。

(領主として帝王学を教えこまれてきた者が、ああいった高圧的な言いまわしをするのはよくあることだ。そんなことに、いちいち感情的になるなんて、やはり私はエージェントには向いていないのかも・・・)

 最初から穏やかに受け答えしたほうが、より真実に近い情報をあの若い領主の口から聞けたかもしれない。こちらがつき放すような言い方をしたから、自己を弁護する必要を感じた彼が、現実以上に家臣を非難し、自分の所領経営を自賛したのかもしれない。先代から受け継いだものを守らなければという青年領主の焦りを、彼が煽り立ててしまったかっこうだ。

(やっぱりダメだな、わたしは。メイファー、君なら、こんなみっともないヘマは、やらないのだろうな。)

「なにやってるんだよ、メイファー。ばっかだなぁ、お前は。こんなこともできないのか。しょうのない女だぜ。」

 学生のころ、彼女のちょっとしたミスをあげつらって、さんざんにこき下ろしたことがあった。気になる女子に、きつく当たってしまう。若き男子にはありがちな行動だ。

 ドリンク入りのボトルの、スクリューキャップを開ける拍子に、中身を少しこぼしてしまった。そんな他愛のない失敗。誰にでもあるミス。リカルドだって、何度だってそんなのはやらかしている。

 そんなミスをたまたま見つけただけで、あんな言い方をしたのだ。勉強でも運動でも、討論でもレポートでも、全くメイファーの足元にも及ばないくせして、そんな小さなミスをあげつらってこき下ろし、小さな優越感を味わっていた。

 自尊心なのか自己顕示欲なのか、はたまた劣等感の裏返しなのか、なんだかよく分からない感情で、あの日の彼はそんなみっともない行動をとってしまった。

「うふふ、本当ね。あたしったら、ドジだわぁ。今度からはリカルドにお願いしたほうが、安心かもね。よろくね、リカルド。」

(あんなにも卑劣で嫌味だったわたしに、メイファーはあんなにも優しかった。柔らかな声で、愛らしい笑顔で、わたしの棘だらけの言葉をつつみこんでくれた。わずかな反発も見せないどころか、こちらのプライドを上手にくすぐってくれたりもしていた。)

 彼女なら、若い領主の高圧的な態度にも、穏やかに対応できただろう。相手に一切の不快感を与えず、もっと豊富で正確な情報を引き出せていたに違いない。有意義な情報をいかに効率よく引き出すかがエージェントの能力だ。一人の領主に連邦の活動方針や民主主義の重要性を理解させる、などということに手間ひまをかけるべきではなかったのだ。

(こんなことで、この案件を適切に処理できるのだろうか、わたしには。これから家臣や領民たちから事情を聞き出し、客観的に中立で公正な判断を下さなくてはならないのだ。冷静な状況分析がもとめられる課題だ。なのに私は・・・大丈夫なのか・・・)

 過去のメイファーへの態度を恥じらう気持ちと、目の前の任務へのプレッシャーが、グルグルとからまり合いながら心のなかで暴れている。眠りなんて、おとずれる気配もしなくなった。息苦しい寝返りを、また一つ繰りかえす。

(ああ、メイファー。わたしにはもう、君の背中すら見えない。はるか彼方にまで、君との距離は開いてしまった。君の歩みが早すぎるのか、わたしがぐずぐずしすぎるのか。君は、もっと大きな仕事をすぐにでもやり遂げるだろう。わたしは、こんなちっぽけな仕事の前にしり込みしている。どうしてこうなんだ、わたしは・・・)

「大丈夫よ、リカルドならやれる。」

 サラサラ流れる髪の向こうで、元気に跳ね上がる切れ長の眼。学生時代に、地元の惑星にあるかれらが通ったスクールの校庭で、何度も励ましてくれた笑顔。色々な、プレッシャーのかかる局面を迎えるたびに、メイファーは彼に声をかけてくれたのだった。

 今、そのシーンが鮮やかによみがえってきた。人類が6番目にテラフォーミングを完成させた惑星の青空の下で、二百年以上かけて惑星の上に造成された人工の深緑のなかで、彼女の笑顔はいつでも眩しかった。

 現実では、背中も見えないほど遠くなってしまったメイファーが、記憶のなかでは優しく励ましてくれる。思い出のなかにしかない言葉でも、リカルドの心は癒された。

 深緑の香りまでをも思い出させてくれる、メイファーの言葉と笑顔を繰り返し頭のなかに描いているうちに、いつのまにか勇気と自信がわいてきていた。心は落ち着きをとりもどし、安らいだ気持ちになってくる。メイファーの微笑みをいだきながら、彼の意識はすーっと吸い上げられ、そしてふわりと落ちて行く・・・。

 その夜、リカルドに眠りを届けてくれたのも、あの日のメイファーの笑顔だったかもしれない。安らかな寝息が、円筒形宙空建造物の中の街の中の建物の中の一室の中のベッドの上に、しずかに流れはじめていた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/9/11 です。

 グルサリルラリル・ファタライスという青年領主への読者の関心を、グィッと高めて行くべきシーンでしたが、こういうところで自分の表現力の乏しさを思い知らされます。

 具体的で明瞭なイメージを与えるような、読者によっては身近にいる誰かの顔が浮かんでくるような言葉を紡げればいいのですが、何度読み返してもそんな感じにはなってないし、どうしたらいいかも分からない現状です。

 最低限の関心を読者様に持って頂けていれば幸いだと思っているのですが、いかがでしょうか?自信が無いものだから、後書きで念を押すという反則をしでかしているわけですが・・・・。

 お気づきとは思いますが、メイファーとの恋物語がこれから展開するわけでなく、この青年領主を相手にした連邦エージェントとしての地味で地道なお仕事が描かれるので(それにも気付いてもらえてなかったら致命的!)、メイファー・リンナップよりグルサリルラリル・ファタライスに注目して下さい。

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