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銀河戦國史 (連邦エージェント活動日誌)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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エピローグ

「まあ、なんて穏やかなラストシーンなのかしら、ジーンときちゃうわぁ。」

 母は、彼女の見ていた恋愛ドラマの感想を述べているのだが、エリス少年も同じ感想を胸中にいだいていた。もちろん、歴史物語に対して。

「地球系の星系国家出身だったエージェントにとっては、こういう星団帝国での活動って、本当に難しかったのだろうね。地球系人類と再会するまで、何千年ものあいだ、地球系とは全然違うやりかたで国をつくってきたの人たちの、末裔なんだものね。」

「そうだな。価値観も暮らしぶりも全く違う国での、貧困や圧政から人々を助け、人々のくらしを支える活動というのは、今の私たちには想像もつかないような苦労が絶えなかっただろうな。」

 父子がそろって、はるか昔の人に思いをはせた。思いがあまりにも高まり過ぎてし、ばらくは言葉も紡げなくなる。

 そのあいだは母の、

「ああ、ロマンチックだったわぁ。」

なんていう恋頼ドラマへの感想ばかりが、かれらのいるリビングルームを満たしていた。が、それへはちっとも関心を向けることなく、エリスは歴史物語への感慨を口にする。

「第1次のほうも、第3次のやつも、銀河連邦はタイヘンなんだね。今と昔じゃあ、やっていることもずいぶん違うみたいだけど、たくさん迷ったり悩んだりしなくちゃいけないのは、同じなんだね。」

 そんな無数の迷ったり悩んだりが何千年も積み上がった末に、今、エリスたちは、平和なくらしを与えられ維持していけている。10歳の少年も、少年なりに、そのことを理解していた。

 だからこそ、エリスは歴史が好きだった。遠い昔のだれかと、確かに自分が繋がっていることを味わう感性が、少年にはあるのだった。平和を通じて繋がっているのだと思うことも、彼が平和を大切に思う理由の一つなのだった。

「ずっと昔の人の、迷いや悩みを無駄にしないためにも、僕たちは今の平和を大事にしないとね。銀河連邦ができてから3千年、その前身の地球連合ができてからなら5千年にもなる長い間、数えきれない人が数えきれないほどに、迷ったり悩んだりしてきたのだから、無駄になんてしたら申し訳ないよね。」

 父には、愛息が眩しく見えた。いまだ10歳の少年が、自分の語った歴史物語からただ知識を蓄えるだけでなく、そんな貴重な教訓をくみ取って見せるなんて。誇らしくも、驚異的にすらも思うのだった。

「そうよ。この感動を無駄にしないためにも、今夜もおいしい夕食を作らないとね。」

 この母の言葉はしかし、さすがのエリス少年にもちんぷんかんぷんの様子だ。何一つ意味を汲み取れなかった。今まで見ていた恋愛ドラマに対する感動について言っていると思われるが、夕食との繋がりは解明の糸口すら見えない。

「そうか。もう、そんな時間か。」

 父も、母の言葉の内容には理解を示していないが、夕食の準備を始めることには、手放しの賛意を示した。困惑の表情を残したままでもすっくと立ちあがり、母を先導するようにしてリビングルームを後にした。

 両親が連れ立ってキッチンへと歩いていくのを、エリス少年は苦笑にちかい笑顔で見送った。ハウスコンピューターにひと言命じれば、何もしなくても最高級の夕食を自動で作り上げ、食卓に並べておいてもらえるこの時代だったが、彼の両親は夫婦そろっての手料理にこだわっていた。

 迷ったり悩んだりしながら作られた両親の手料理はいつでも、自動で作られたものよりずっと美味しく感じらる。迷ったり悩んだりする両親の姿も、いつでも飛び切り楽しそうに見えていた。

 少年は、そんな両親も両親の作る手料理も、大好きだった。情熱の出所はちんぷんかんぷんでも、できあがった料理がおいしければ何も文句はない。

「そうだ。おなか一杯に食べることも、平和を作りだす活動のりっぱな一つだ。」

 恋愛ドラマとの繋がりは見えなくても、歴史物語との繋がりは見えた。はるか昔の銀河連邦エージェントの迷いや悩みを無駄にしないために、まずはしっかり晩ごはんを食べなければ。エリス少年の眼に、新たな決意の火が灯った。

「ぼくにも何か、手伝えることある?」

 ただ、黙って待っているつもりはなかった。夕食も平和も、自分から手足を動かして作りださなくては、少年はそう思ったのだ。

 キッチンへと小走りで向かう少年の頭が、どれだけ食欲ばかりに満たされていたとしても、彼の行動は平和維持への、大切な一歩なのだった。



 食欲だけに満たされた少年の、食欲のためだけではない行動の意味は、かれらにも見えているようだ。

 かれらの努力が実を結び、銀河に恒久平和がおとずれるまでに、多くの血が流れ不幸が生み出されてきた。

 かれらが守ろうと思った国も、何度もの政変や銀河大戦や銀河暗黒時代などの波にもまれ、犠牲となった民衆の数は計り知れない。天寿をまっとうし、何かをなすための肉体も失っていたかれらには、そんな歴史を黄泉のはざまから歯がゆく見守るしか、できなかったことだろう。

 だからこそ、やっと訪れた平和な時代において、それの維持のために踏み出された少年の一歩は、かれらにはかけがえのないものだった。たとえ今は食欲だけに満たされていたとしても、少年は知ってくれた。少年は思ってくれた。数千年前に、かれらが迷ったり悩んだりしたことを。

 数え切れない失敗をくりかえし、それでも継続されたかれらの平和への努力に、少年は数千年の時を越えて思いを寄せ、敬意を払ってくれた。こんなに嬉しいことはない。

 だから、少年が料理を手伝っているつもりでいながら、すくいようのない初歩的なミスをどれだけ積み重ねようとも、優しい笑顔でそれを見つめていることができた。

 誰かにもらった笑顔に勇気づけられてきたから、その効果はよく知っている。だからかれらは、たとえ肉体を失ってしまったとしても、今の時代を生きる少年に、平和のために頑張りはじめた少年に、精一杯の笑顔を送ろうとしている・・・・・・・・・もしかしたらの、話だけれども。

 今回の投稿は、ここまでです。 そして本作品も、ここで完結となります。

 読了下さった読者様におかれましては、お疲れさまでした・・・・・・と言えるほど長くも無かったでしょうか。でも、有難う御座いました。

 今回の作品は、シリーズの他の作品を読んでくださっていて、シリーズ全体の状況にある程度関心を持ってくださっている方を想定していた傾向が強かったかもしれません。

 本作だけを読んでくださった方や、シリーズ全体への関心があるわけでもない人にでも、楽しんでもらえるように配慮したつもりではありましたが、改めて読み返してみると、思った通りには行っていなかったかな、と反省しています。

 次回こそは、と言いたいところですが、次回も、「戦國史」というタイトルから連想しそうな、バトルシーンやミリタリー要素は無く、且つ短編と言った方が良いサイズでもあります。

 でも、「戦國史」的な要素は皆無でもないので、それなりに期待して、一読してやって頂きたいと切に願っております。

 なんだか弁明だらけになってしまいましたが、改めまして、本作品を読んでくださった方には、心から御礼申し上げます。有難う御座いました。

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