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銀河戦國史 (連邦エージェント活動日誌)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
1/12

プロローグ

 2ケタ突入となる10個目の作品を、投稿させて頂きます。

 サイズとしては短編に属する作品で、戦闘シーンもほんの少し有るには有りますが、無いと言っても過言ではない程度です。「戦國史」と称しているシリーズとしては期待を裏切っている作品なのかも。そんな作品が増える一方な気もしてモヤモヤする部分もありますが、見どころはある作品だと手前勝手に思っています。

 この「銀河戦國史」シリーズをいくつか読んで頂いている方には、「銀河連邦」なるものがシリーズ全体において重要な要素だとご認識頂いてるのではないかと思っており、そうでないなら作者の表現力不足は致命的レベルになってしまうのですが、とにかくこの「銀河連邦」のエージェントに付いての物語です。

 勝手なお願いですが、もし可能ならば、シリーズの他の作品で出て来た「銀河連邦」を思い出しつつ、また本作品の節々でシリーズ全体に思いを巡らせつつ、読み進めて頂ければ作者としては望外の喜びです。

 でも、シリーズの他の作品を読んでいない人にも楽しめるようにとは配慮しているつもりで、この作品をきっかっけにシリーズ全体に興味を持って頂ければ、それも作者には無上の幸福です。

 こんなこと前書きで言わなくても、読めば自然にそうなるように書けてなければならない所なのですが・・・・。

 例によってプロローグで、恒久平和実現後の世界で暮らすエリス少年の様子が描かれ、その後に時間を遡って本編へと物語は巡ります。何卒、最後までお付き合い願います。

 炎上する街の映像に、エリス少年は胸を痛めていた。

 彼が眼球上に装着した“コンタクトスクリーン”と呼ばれる、かつて人類が視力矯正用に用いたコンタクトレンズとそっくりな使いかたをするスクリーンに、その映像がうつし出されている。視野の全域に、自由自在に映像を投影できるこの時代の利器だ。

「大規模なデモをきっかけに、こんな過激な惨事になってしまったんだね。」

「こまったものだね。政府に不満をぶつけたい気持ちは分かるけど、破壊や掠奪の言いわけに利用するのは良くないね。」

 エリス少年の言葉に、彼の父が応えた。

 2人は彼らの家の、真っ白な壁に視線を向けている。映像はそれぞれぞれのコンタクトスクリーン上にあるから、どこに顔を向けていても構わないはずだが、ひとつの白い壁を2人は凝視している。背景が白いほうが、コンタクトスクリーン上の映像もより見やすい、という理由で。

 そのためだけに用意された白い大きな壁が、彼らの家のリビングにはある。

 ちょっと何かを確認したいだけなどというときなら、白背景にこだわる必要もないが、映像をじっくり鑑賞したい場面では、こうするのがこの時代のスタンダードだ。

 映像を視野のまんなかに固定することも可能だし、目に入っているどれかの物に重ねてうつし続けるよう設定することもできる。今は、エリスとその父は、リビングの壁に映像が重なるように固定する設定にしてあるから、かれらが首の向きを変えれば、映像は視野から出ていってしまうこともある。視野の真ん中に固定するよう設定を変えれば、どれだけ首の向きを変えても映像を見つづけられるが、白背景にこだわることはできなくなる。

 エリス少年の、父とは反対側のとなりでは、母が同じように白い壁に目をむけているが、彼女は別の映像を見ている。視線の先にあるのは同じ白い壁でも、母と子のコンタクトスクリーンは別々のコンテンツを表示している。音も、鼓膜を直接振動させる特殊な技術によって、母と子を分けている。

「はぁ、ステキ・・。私もこんな甘いセリフで、口説かれてみたいわぁ。」

 恋愛ドラマか何かを見ているらしい母が、そんな感想をため息まじりにもらした。

 その隣で、エリスと父はニュース映像に夢中だ。十数光年もはなれたところにある映像配信局から、素粒子ワープというこの時代ならではの技術に超光速で飛ばされてきた電波を、それぞれのコンタクトスクリーンが映像に変えているが、エリスと父はニュース番組を流している配信局に、母は恋愛ドラマを流している配信局に、チャンネルを合わせているわけだ。

「この俳優の、この目が・・・・」

「この星団国家では、このくらいの規模の暴力的なデモが、頻繁におこるよね。もう何人も、死傷者がでてしまっているんだよね。」

 母の言葉をかいくぐるようにしてエリスは、10歳の少年には似つかわしくない憂慮の眼で言った。

「背後では、大きな犯罪組織が糸を引いているとも言われているね。それがデモに紛れて、破壊や掠奪をおこなっているらしいよ。」

 父の声にも、心配や憤りの気持ちがこめられている。

 第3次銀河連邦のもと、人類には恒久平和が訪れた、といわれているこの時代だが、それは国家規模の武力衝突がおこらなくなったというだけで、数千人規模の暴動や犯罪などは、銀河のあちこちから年間に何百件と報告されている。ほとんどの人々が安寧な日々を送ってはいるのだが、全ての不満が解消され、あらゆる流血が撲滅されるという成果は、この時代においても達成されずにいた。

「銀河連邦の評議会も、この件に関しては紛糾しているのだね。」

と父が言い、

「この国の警察がもつ武器を、もっと強いものにしてしまっていいかどうかについて、もめているんだね。」

と、愛息も言った。

 基本的には、武力は銀河連邦という1つの組織が独占すると決められた時代だった。各国は、連邦に認められた厳しく制限された武器しか保有できず、軍隊ではなく警察として、国内の治安維持のためにしか使えない規定になっている。

 そのことが、国家規模の武力衝突の発生を予防することになっており、恒久平和が実現したと言われる所以でもあるが、国内での犯罪の制圧などに各国が腐心する要因にもなっている。

「連邦の軍を、デモの鎮圧に派遣するか、この国の警察を武装強化するかで、もめているんだね、父さん。」

 エリスは、さらに付けたした。

「そうだな。どの国も、連邦軍に踏みこんでこられるのは嫌だが、どこかの国に強武装を認めるのも、平和維持にとっては危険な要素になるからね。意見が対立するのも無理ないね。」

 父子の見るニュースでは、デモの件のあとにも、いろいろな紛争や犯罪についての情報が列挙された。

「あっちこっちの、いろんな問題で、銀河連邦はいちいちもめなきゃいけないんだね。」

 少年の、あきれたようなつぶやきだった。

「うむ。連邦軍の派遣を催促する国があるかと思えば、連邦軍による介入を侵略と非難する勢力もある。連邦軍の派兵が流血を拡大させたと糾弾される事件も過去にはあったし、派遣していれば避けられたかもしれないのに犠牲者が出るのを傍観してしまった悲劇もあった。銀河の平和を維持するために連邦軍をどう活用したらいいかというのは、とてもむずかしい問題だね。」

 深刻な表情で語る父に、エリスも神妙な顔でうなずいた。

「それでも、銀河にくらすほとんどの人が、戦争に巻きこまれることのない平和なくらしができるのも、銀河連邦以外が軍隊をもたないような世の中になったからだよね。銀河中全ての国や勢力が、第3次銀河連邦をつくることと、そこに武力を集めてしまうことを受け入れたからだよね。」

 少年が、少年なりの理解を口にした。

「そういうことだね。いろんな問題が山積しているけれども、第3次銀河連邦による安全保障体制が機能しているあいだは、国家規模の武力衝突はないだろう。銀河は恒久平和のなかにある、と言っていいのではないかな。」

「すごいことだよね。銀河連邦も、第1次、第2次ときて、第3次になってようやく、銀河全体を平和にできるようになったのだよね。第1次の銀河連邦も、銀河を平和にするために頑張ったけど、あまりしっかりとは、できていなかったんでしょ?」

 歴史好きのエリス少は、歴史学者の父に歴史談議をしかけるのが、何よりも楽しいのだった。

「ああ、この先、この2人はどうなっちゃうのかしら・・・」

 なんてささやく、恋愛ドラマに夢中の母の声などには、すこしも心をゆさぶられたりはしない。

「第1次の銀河連邦は、銀河中に広まった全人類の、3分の1くらいしか勢力下に置けていなかったからね。残りの3分の2に対しては、ほとんど影響力を発揮できなかったんだ。」

「勢力下の3分の1の人たちだって、今の僕たちくらいの平和なくらしは、できなかったんでしょ?」

「そうだな・・。連邦が銀河のあちこちに、いくつか持っていた本部の近くにかんしては、今の我々とそれほど見おとりのしないくらいの平和は実現できていたらしいのだよ。だけど、連邦加盟の国でも、本部から遠く離れたところにある国や勢力では、銀河連邦も十分な監督が行えず、平和とは言いがたい状態になってしまっていたところもあったようだね。」

「そっかぁ。第1次銀河連邦の勢力下にあった3分の1の中にも、平和にくらせなかった人は、いたんだね。戦争に巻きこまれちゃったりとか、したのかな?」

「そういう人たちも、もちろんいたが、戦争だけが平和を乱す原因じゃない。人権意識のひくい、独裁的だったり強権的だったりする国も、いくつもあったからね。戦争はしていなくても、そこにくらす人々は平和ではなかっただろうね。」

「そういう人たちのくらしで、最近明らかになったこととかって、ないの?父さん。」

 エリスの瞳が、ひときわ輝きを増した。歴史学者の父が仕入れてくる、最新の歴史的知見ほど、彼をわくわくさせるものはない。

「もちろん、あるさ。第1次の銀河連邦から、第2次をへて第3次にまで残された記録は、膨大な量にのぼるからね。銀河暗黒時代に銀河帝国によって、ずいぶん破壊されて、今でも修復過程にあるデータの量もとんでもないものだよ。」

「ということは、どんどん新しく明らかになる情報があるっていうことだよね?」

 キラキラの眼で、前のめりになったエリス。

「連邦保有のデータだけでも、毎日のように銀河のどこかで、あたらしい歴史的事実が解き明かされている状況だよ。」

 父も嬉しそうに告げた。彼だって、愛息に歴史の話を聞かせるのが楽しくて仕方ないのだ。話したい話題も山のようにある。愛息が喜びそうな話を、精力的な歴史研究活動のなかで、毎日のように続々と仕入れているのだ。

「そうなんだ。何か話してよ、最近明らかになった、第1次銀河連邦の時代のこと。」

「うむ、そうだな。いちばん近い連邦の本部から千光年以上も離れたところにあった、連邦加盟の星団帝国に派遣されたエージェントに関する記録が、つい最近解明されたんだったな。暗黒時代に破壊されたデータチップが、何十年もの修復作業の結果ようやく最近になって、解読できるようになったんだ。」

「へええっ!何千年も前に、自分たちの出身地を千光年以上もはなれた場所に、平和をもたらすために頑張ったエージェントの物語かぁっ!全人類に平和をもたらすことはできなかった第1次の連邦だけど、それだからこそ、そのなかで努力したエージェントの活動って、とっても大切なものに僕には思えるよ。」

「うむ。父さんも、そう思う。彼らの努力の延長線上に、今の我々の平和があると言っていいだろうな。」

 父が右手をフリップした。ニュース映像から、最近入手した歴史資料へとコンタクトスクリーンの表示を切り替えたのだ。この時代にはあたりまえの、体内に無数に潜む循環有機ナノ端末とハウスコンピューターの連携で、父のその動作はコマンド入力の効力を持たされたのだ。音声入力や思考からの直接入力も可能だが、それは父の好みに合わない。

 正確を期して丁寧に資料を読みときながら、父が歴史物語をつむぎはじめた。

「ある星系国家出身のエージェントの・・・」

「ああもう、好きなら好きと、はっきり言えば・・・」

 父の歴史物語と母の恋愛ドラマへの感想は、ほぼ同じ音量で左右からエリスの耳にとどくが、エリスの心が捕えるものは一つだけだ。ほんのわずかの妨害も受けはしない。父も、とくに母の声に張り合おうという意気込みも見せず、淡々と語りつづけるのだった。



 エリスの目に、どこかの暗い宇宙空間が見えてきた・・かもしれない。コンタクトスクリーンの映像ではない。少年の想像でもない。彼にはなじみのない型式の円筒形宇宙建造物が、うかんでいる。あまり見たこともないそれを、そんなに鮮明に想像できるはずはない。でも少年は、見ている。なぜだか、見えている・・・・・ような顔をしている。

 無垢な少年から溢れだした歴史への熱い想いが、すこしだけ、銀河の時空に、正体不明のねじれをもたらした・・・・かも。そんなことあるはずない、とたいていの人は、言うのだろうが。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は 2021/8/21  です。

 未来を描いたSF作品には、ロボットや音声入力・思考直結インターフェースのコンピューターなどが百花繚乱なのですが、それらを自分の物語ではどうして行くか、ずいぶん悩みましたし今も迷っています。

 エリスの父はヴァーチャルなキーボードを呼び出して入力していて、音声入力や思考直接入力はできるが趣味じゃないと書いたのが、苦肉の策的な現時点での作者の対応なわけです。

 遠い未来の話だから、技術的には可能になっているだろうけど、そんなことやりたいと思うだろうか、との考えが作者には有ります。人型ロボットは、完成した途端に興味を失う人が続出して廃れるのでは・・・?音声入力も思考直接入力も、誤作動や混乱が頻発して忌避されることになるのでは・・・?そんな想像から、一部には愛好者がいても多くはそれを使わない、っていう未来が一番可能性が高そうに思っています。技術的に可能になっても、あまり普及しないっていう感じです。3D映像がそんな感じになってるのではないでしょうか?

 ソンナコトナイヨ、と思われる読者様もおられるかもしれませんが、こうやってそれぞれの思う未来予想図をぶつけ合うきっかけを作るのも、SFの楽しみであり重要な役割だと作者は認識しています。

 そういう視点も持ちつつ、この先を読み続けて頂けると、恐悦至極でございます。

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