壱話 (俺視線)
ヒトが壊した…
壊された。
ヒト、ヒト、ヒト...。
ヒトが俺とあいつを追いかけてくる。
ヒトが、俺らを殺そうとした。
襲おうとした。
無情に。
非情に。
俺らは、逃げられなかった。
あいつは、俺を突き飛ばして自分だけが犠牲になった。
あいつが居なくなった世界に僕は、希望を見いだせない。
俺は、救われてばっかりだ。
あいつが居たから、生き残れてきた。
死のうとしていた。
あいつと会う直前。
あいつが止めた。
俺をこの世界に引き留めた。
俺を拾った。
俺は、あいつのものになった。
あいつに救われた。
このくそみたいな世界で。
俺がいなければ、あいつが犠牲になることはなかった。
俺をはじめから拾ってなければ、あいつが犠牲になることなんてなかった。
あいつが足を取られたとき、俺はあいつを連れて行こうと手を引っ張った。
あいつは足を痛めていて、逃げるスピードは格段に落ちた。
あいつは、俺を突き飛ばしながら必死な表情でいった。
「生きてくれっ。」
...と。
あいつは、自らが居たら逃げられないと思ったのだろう。
俺は、突き飛ばされた事実に驚き。
.....あいつがヒトに包まれた事実に絶望した。
あいつは、死んだ。
あいつの死体は、躯は…見ることは、無かった。
あいつが生きていると信じたかった。
だが、1月経っても2月経ってもあいつは僕らの家にあいつがかえってくることは、無かった。
あいつがヒトに包まれたところに戻った。
...あいつの濃い血の匂いがした。
もしも、もしもでいいから。生きていたら。
元気な顔を見せてほしい。
俺のことを忘れてたっていい。
俺はもう、それで十分満足だから。
あいつがいない世界。
あいつの居ない日常。
あいつが座っていたソファー。
あいつと寝ていたベッド。
お揃いで買ってほほを染めた箸と皿。
あいつの匂いは、そのままあるのに。
あいつの姿を感じられるのに。
幻でも、あいつはいない。
あいつは、いない。
あいつの居ない世界。
視界が灰色に染まったのは、何時からか。
空は、こんなにもつまらなかったのか。
花はこんなにも色あせている。
友人たちは、欺瞞に見える。
すべてが信じられなくなってきた。
ここは、こんなに生きずらい世界。
あいつは、生きろといった。
あいつが居ない世界に生きる意味は?
あいつに拾われ、こんなにもつまらない世界を生きてきた。
あいつのもとなら、こんなにもつまらない世界が楽園の様に感じられた。
あいつの居ない世界。...そんなものに、価値なんてないと思った。
俺は、あいつのものだった。
俺は、何をしたらいいのかが分からない。
何をして生きていたらいいのかが分からない。
あいつに聞きたい。
もういないあいつに。
会わないといけない。
聞かないと。
俺は、あいつのものだ。
あいつのそばに行かないと。
あいつ視線かくよ。