表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

千載一遇のチャンス

 後は、タイミングだ。頭の中で考えていてこちらを見ていないローガと、僕への興味を失っているサリアは、もう遠く離れているし問題ない。セオドアが油断したときに賭けに出よう。


 僕は伏して機を待った。そして、僕の左腕が肩までなくなった時にチャンスは訪れた。


 セオドアが僕の肩から流れる大量の血と、だんだんと鈍くなっていく僕の反応を見て、目を細める。


「おいおい、こんなに早く死ぬんじゃねえぞ。まだまだ足りねえ。片腕も足も胴も残ってるじゃねえか。全部斬り刻んでやるから、それまでは死なせねえ。止血してやるよ」


 セオドアは皮肉を口にしながら、聖剣に魔力を流し込む。

 すると、聖剣は勢いよく燃え上がった。


 その炎で僕の止血をする気なのだろう。実に悪趣味だ。


 しかし、セオドアが魔力を流した時、意識が僕から外れ、聖剣に向いた。


 ──ここしかない。


 僕はその瞬間、あらかじめ構築していた2つの魔法を展開した。回復魔法ではない。僕が回復魔法以外で使えるたった2つの魔法。

 『隠蔽魔法』と『結界魔法』だ。


 『隠蔽魔法』は、対象を隠して発見されづらくする魔法で『結界魔法』は、透明なバリアを展開する魔法である。


 使うのは、本当に久しぶりだ。

 これは、勇者パーティに加入する前に覚えた魔法である。回復士としてまだまだ半人前だった頃に、戦闘の足手まといにならないような手法を模索した結果である。


 結局、その後に常時回復し続ける魔法を習得したことで、隠れる必要もバリアする必要もなくなってしまった。


 ──例え、不意打ちだろうとまず殺しきられる事はないのだから。


 でも、殺される事はなくても死んだら動きが止まってしまう。だから、その後は回復魔法を極め続けた。スムーズに回復できるよう、仲間が上手く戦えるように。


 流石に今回のような事態は想定していなかったし、回復魔法の修行に集中したかったため、『隠蔽魔法』と『結界魔法』は極めず、使うこともなくなった。


 ──だからこそ、勇者パーティのメンバーの前でも使ってないし知られてもいない。確実に不意を突けるはずだ。


 懸念点は2つあった。


 1つ目、久しぶりだから失敗しないかどうか。


 2つ目──これが1番の賭けだが──、サリアの『起動不可』の呪い魔法が回復魔法以外にまで効果が及んでいるのかどうか。


 どちらかでも賭けが失敗すれば詰むこの状況で──


 ──運命は僕に味方した。

 『隠蔽魔法』と『結界魔法』は、両方とも無事に発動した。


 回復士としての修行中に半端に習得しただけなので、構築に時間がかかってしまった上に、2つとも精度はあまり高くないし効果時間も短いがこれで充分。


 セオドアが目を離した隙に発動した『隠蔽魔法』により、一時的に視界から僕の事は完全に除外される。少しの間、意識が向けられるのを遅くできる。


 そして『結界魔法』を僕とセオドア達の間に広く展開する。広い分強度は低めだが、戸惑いはするだろうし、時間は稼げるはず。

 さらに、セオドアの聖剣を持つ方の腕を中心にもう1つ結界を張る。『結界魔法』は性質上、物体を貫通して発動することはできないが、だからこそ、結界はセオドアの腕を締め付ける様に拘束する形で展開された。

 いくら怪力のセオドアと言えども、ゼロ距離の結界を壊すのには時間がかかるだろう。


 『隠蔽魔法』と『結界魔法』によって強制的に作った隙──これだけの時間があれば、ここから10m程離れた魔王の玉座の斜め後ろ──戦闘の余波で割られた──窓から逃走することが出来る。幸い、僕が1番窓に近い。


 ここは魔王城の3階だ。痛いだろうが、地面には草木が多いし生き残れない高さではない。落ちたら即また『隠蔽魔法』を使い、人里まで逃げる。魔王城の周りには森が広がっている。決して分が悪い賭けではない。


 足を縛っていた縄をもう1つ展開した結界の端の鋭い部分に勢いよく当てて千切る。そして勢いよく立ち上がり、窓にめがけて全力で走る。


「……あっ! てめえ! 待ちやがれ!!!」


「「……っ!?」」


 ──残り5m、セオドアもローガもサリアも隠れて逃げ出した僕に気が付いた。


 だけど、十分逃げ切れる。後1秒足らずで外に出られる。


 セオドアの声に耳を貸さず、僕はダッシュで窓枠を越えて飛び込む。


 よし!賭けに勝っ──


「サリア、やってくれ」


「はあい」


 ──声と同時に僕は大きく後ろに弾かれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ