ノウナシの思惑
「おー、本当だな。おっせえだけはある」
「遅い遅い言わないでよお。楽しかったんだからしょうがないでしょお」
──再生しない。既に展開していた常時発動のリジェネ(自動回復)も機能していないようだ。
このまま殺されたら本当に死ぬ。死にたくない。
勝ちの目を作るためにも時間を稼がねば。
「……セオドアはどうしてだい……? 何か理由があるのか……?」
……賭けに出る準備がまだ出来ていない。
正直、セオドアの理由は大体分かるが、僕は混乱した風を装いセオドアに話を振る。今にも斬り殺されそうな状況だが、その準備が完了するまで出来るだけ会話で命を繋ぐ。
その言葉にセオドアが反応する。
「ああ!? てめえ分かんねえのか!? 俺はてめえが大嫌いなんだよ! いっつもなんにもしねえで後ろでヘラヘラ笑いやがって! 前からずっと言ってたが、回復しかできねえ能無しのてめえなんて俺のパーティには要らねえんだよ! ローガにも早くクビにしろって言ってたんだよ! この能無しの報酬泥棒が! 勇者の俺の言ってんだから間違いねえんだよ! 回復士なんてただでさえ使えねえんだからその分へりくだって雑用でもこなして少しでも働けや! その点、新しく入ってくる女はいいな。てめえなんかより格上の回復魔法に索敵魔法も使えるらしいじゃねえか。そのうえ、王女だぜ? てめえが勝ってるとこなんか1つもないんじゃねえか? こういう奴を待ってたんだよ。ついでにムカつくてめえを処刑するタイミングもな!」
セオドアが僕の左腕の肘から先を斬り飛ばした。痛みに顔をしかめる。腕が、宙を舞う。
そう、分かってはいた。セオドアは回復士の僕に最初から当たりがキツかった。回復魔法に関しても、いくら言っても、いくら実演しても「要らねえ」の1点張りだった。それでも、時々文句をブツブツ言う程度で、仲の悪い戦友くらいの関係は築けていると思っていた。
──そんなことはなかった。まさか僕を嬉々として殺す程に嫌いだったとは。
これでも僕は、長い間勇者パーティの仲間として上手くやってきたつもりだったが、彼にはそんなつもりは一切なかったのだろう。セオドアは、表面上よりも、ずっと、ずっと根深く僕の事を嫌っていたんだ。
それに、回復士への偏見も強すぎる。僕はいつも最善となるように戦っていた。報酬に見合う働きをしてきたはずだ。決して、報酬泥棒なんかじゃない。
ローガと打ち合わせ、僕が痛みを一身に背負うようになってからは皆ももっと派手に動けるようになって、戦略に幅が生まれたし、僕が居なきゃ致命傷を受けて死んでいた戦いも多くあった。
その裏で僕は数えきれないほど、痛みに苛まれた。
それでも、勇者パーティの一員として、人々を助けられるなら、と頑張ってきた。
──その事は、何度も伝えてきたんだけど。
彼には何故理解できないのだろうか。それとも、僕が間違っているのだろうか。
分からない。だが、嘲笑を浮かべているセオドアは、
「表向きとはいえてめえが英雄視される話なんざ本当は嫌で嫌で仕方ねえ。だから、出来るだけ苦しませてから殺してやる!」
言葉と共に、セオドアが僕の左腕を輪切りのように斬り飛ばしていく。
彼の表情はまさに殺人鬼のそれだ。
「……っ、っ」
断続的な痛みに顔が歪む。その顔を見てセオドアの醜悪な笑みがますます深まる。
──だけど、こっちも準備が出来た。