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天才少女の思惑

 僕はサリアの方に顔を向ける。


 黒魔法使い用の杖を持った彼女は、こちらを見て妖艶な微笑を浮かべていた。


「サリア、君も僕を殺したいのか……?」


「うーん……私は、帝国貴族にも興味無いしい、ライオくんに恨みがある訳でもないよお?寧ろお、ライオくんのことは尊敬してるしい、どちらかと言えば好きだよお」


「! ……なら、っ──」


「でもお、魔王にも殺せなかった回復士は、殺してみたいよねえ」


「…………は?」


 本日数度目の理解不能が僕を襲う。何を言っているんだ、彼女は。


 そう言った彼女はうっとりとした表情をする。


「だってそうでしょお? ライオくんは、魔王の攻撃を全部受けて、さっきまで斬られてたのに、まあだ死なないじゃん。こんなに死なないライオくんの回復魔法を──私の呪いで止めたい。壊したい。殺したあい!」


 サリアが右手に持つ杖には、既に魔力が溢れている。呪い魔法に、彼女の念が混じる程、その効果は増大していく。


「今までもずっと、ずうっと、ずうううーーーーーーーーーっと我慢してきたんだよお。初めて会った時からあ。同じパーティになった日もお。魔術結社と戦った時、大魔獣の時もお、魔王の四天王と戦った時だってえ!ライオくんを殺せるかあ、ずうーーーっとお、試したくって仕方なかったんだよお!だからあ」


 ここでサリアは言葉を区切り、


「ローガくんの計画は、渡りに船って感じだったよお」


 恋する乙女のような顔つきでそう言った。


 狂っている。ローガが栄誉に狂っているとしたら、彼女は力に、いや呪いに狂っている。


「今までのライオくんとの思い出え、尊敬、感謝、羨望、嫉妬、怨嗟、我慢、友愛、全部詰め込んでえ、凄おい呪いがもうすぐできるからねえ。最高の呪いをプレゼントしてあげるよお!」


 言葉通りに、彼女の呪い魔法は完成へと向かっている。その魔力量──そして彼女の念は、いつもの呪い魔法と比べるのも烏滸がましい程に巨大化していた。下手をすれば、魔王との戦いよりも凄まじい威力の呪いかもしれない。


 黒魔法使いが使う呪い魔法には様々な系統がある。対象の調子をなんとなく悪くするような呪いから、対象の特定の能力を低下・無効化する呪い、果てには、対象を絶命に至らしめる呪いまである。

 サリアは、それらに加えて呪いのエネルギーを敵集団に投げつけるという魔法など、いくつもの新魔法を創作しており、全体攻撃も行える天才黒魔法使いとして名が通っていた。


 呪い魔法に関わらず、デバフ(敵弱体化)系統の魔法は、効果の威力が大きい程、効果の種類が多い程、効果の対象数が多い程、レジスト(抵抗し、デバフ効果を低下・無効化すること)がしやすくなる。

 逆を言えば、効果が小さく(回復魔法の行使を封じる)、1つの効果に絞り、僕1人に呪いを掛けた場合、レジストの難易度は跳ね上がる。


 さらに、1度掛けた呪い魔法は、対象が死ぬか、サリア自身が解かない限り消えはしない。


 ただでさえレジスト困難な魔法を、サリアという天才が、かつてない最大級の完成度で、今までの彼女の情念を携えて放つ。


 率直にヤバい。


 ──これをレジストできる可能性は絶望的だ。それこそ、今ここで暴れて勇者パーティを全滅させる方が可能性としては高いかもしれない。まあ、どちらも限りなく0%に近いのだが。


 セオドアに聖剣で斬られ続けた時よりも余程濃厚で明確な死のビジョンが脳裏に浮かぶ。


 ──だめだ。絶望に飲まれている。

 仲間と思っていた彼らからの裏切り、そしてその中に潜む狂気にすっかり心がおびえてしまっている。


 こいつらから逃げたいと、すぐにでも楽になりたいと、心が諦める理由を探してしまっている。


 ──諦めるな。賭けでもいい。生きる目を探し続けろ、僕。


「お待たせえ!じゃあ、いっくよおおお!」


 僕が心を持ち直している間に、サリアの魔法が完成してしまった。


 彼女は頭上に上げた杖を振り下げながら、甘ったるい声を大にして魔法の名を宣言する。


「『起動不可・ライオくん』!」


 彼女の杖から黒いもやのような魔法が迸り、僕の身体に迫る。動けない僕の身体に魔法が触れた瞬間、全くレジストできずに呪いに浸食された。一瞬だ。全く抗えなかった。


「っ……これはっ……!?」


 僕が構築していた回復魔法が全て壊れた。慌てて回復魔法を再構成しようとするが、出来ない。魔力は残っているし、扱えるし、集められるけど、回復魔法が発動できない。ただ魔力が集まるだけだ。


 それを見たサリアは満足そうに微笑む。


「ちゃんと動いてるねえ。ライオくんの回復魔法を使えなくするために創った対ライオくん専用の呪いだよお。ライオくんの魔力と魔法をずーっとずーっと観察してえ、調べてえ、新しく創ったんだあ。楽しかったよお。初めて使ったけど、動いてくれて良かったあ」


「……」


 さらっとサリアがとんでもない事を口走る。


 僕を殺すために新しい魔法を創るなんて。個人の波長に合わせた呪い魔法を行使する時点で前代未聞なのに、それをぶっつけ本番、しかも失敗が許されない場面で成功させるとは。どんなセンスと胆力だ。


 ──間違いなく、彼女は才能の化け物だ。天才で、狂ってる。


 サリアが縛り上げられている僕を確認するように顔を近づける。


「もう回復できないよねえ。うんうん。いい感じい。流石のライオくんでもお、これは破れないよねえ。うん、ライオくんの回復魔法は殺せたねえ。とっても、とーっても嬉しいなあ。今までの呪いで1番楽しかったよお。ありがとお、ライオくん。次の目標は『瘴気のダンジョン』の悪魔かなあ。どんな殺し方をしようか今から楽しみだよねえ。だからあ、後は任せるよお──セオドアくん」


 彼女はもう僕への興味を失ったようだった。


「……ようやくかよ、おっせえな。まあいい。任せろや」


 言うや否や、セオドアが僕の左手を聖剣で斬り落とした。


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