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預言者

「────」


 シラヴィアに『預言者』と呼ばれ、敵意を向けられた男──デイスは、グラスを持っていない方の手をひらひらと挙げて、敵対の意思がない事を示す。


「君の気持ちはわかるが、待ってくれ。『今回、俺はこの村に危害を加える事はない』。これは、未来に起こり得る事象に噓をつけない制約を持つ、『預言者』である俺の預言だ。この言葉は事実さ。有名な話だ、君も知ってるだろ?」


「……」


 未来を視て、人々に結果を告げるのが『預言者』である。彼の予見した未来は文字通り『既に確定している』。大小含め、今まで数ある預言を残しているが、過去をいくら遡っても例外は発生していない。現時点で『今回、デイスがこの村に危害を加える未来』は無くなったと思われる。


 世の中で神の代弁者とされている『預言者』は、歴史上に彼以外存在しない。遥か昔から何世代も跨ぎ、『預言者』デイスは不変の姿で世に君臨し続け、人類に預言を授け、幾たびも窮地を救っている。


 ……デイスが初めてシラヴィア達の下に訪れ、預言を託した時──80年以上前、シラヴィアがまだ人間であり、さらに彼女が故郷から旅立つ前の頃からですら、彼のその風貌は全く変わっていない。


「……そうじゃな。ならば問おう。『預言者』デイスよ」


「ん? 何だい?」


 首を傾げるデイスを睨み付け、シラヴィアが口を開く。


「「……主はどこまで知っていた?」……だろ?」


「────っ!」


 間の抜けた声で一言一句違わぬ文言を被せられ、シラヴィアの背筋に悪寒が走る。

 だが、その当人であるデイスの表情は芳しくない。


「だけど、その問いに返答する事はできない。すまない」


 そう言いながら、デイスは目を伏せる。


「ここでその問いへ返答する事は、人類の不利益になる可能性があるんだ……だから」


「──っ!いつも主はそうやって話を煙に巻いて──」


「──だから『預言者』デイスの預言として確約する。『預言者』デイスが元『魔王』『無尽の拳闘士』シラヴィアに次回出会った時、君の疑問の全てに回答する。然るべき償いもしよう。そして、再開は近い未来に必ず訪れる。……今俺が言えるギリギリがこれだ。納得してもらえるとは思えないが、今はこれで我慢してほしい。約束は守る」


 声を荒げたシラヴィアに向かって、デイスは静かにそう宣言した。


 シラヴィアが魔王であった事はライオ以外ほとんど誰も知らないが、『預言者』であるデイスは例外だ。彼には以前、シラヴィアが魔王だった時代にも何度か遭遇している。

 そして、『無尽の拳闘士』。これは、昔シラヴィアが冒険者時代に呼ばれていた二つ名である。現代に生きる者達は知りもしないだろうが、当時はなかなかの知名度であった。デイスなら当然知っている。

 『魔王』と『無尽の拳闘士』。シラヴィアという名前だけでなく、あえてこの2つの名を出したのは、彼なりの配慮だろう。異名で特定することで、同名の誰かではなく、ここに居るシラヴィア本人に預言を限定した。


 シラヴィアはその宣言を聞き、悩むように顔を歪める。


「…………その言葉に偽りはないな。次に会った時には全てを話してもらうぞ」


「ああ。この預言は絶対だ。そして君にもう1つ別の預言を授ける。このために君をこの村まで呼んでもらったんだ」


「……何じゃ」


 デイスは一呼吸置くと、意を決したように口を開けた。


「『──近い将来、『瘴気の悪魔』の封印が解かれる』。このまま時が進めば、かつてと同じように、人類はまた『瘴気の悪魔』に蹂躙される事になるだろう」


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