魔王討伐
やはり魔王というだけはある。その強さは、今まで戦ってきたどんな敵よりも格段に強かった。魔王との戦いは熾烈を極め、僕ら勇者パーティは死力を尽くして戦った。
同じ勇者の中でも指折りの攻撃力を誇る勇者──セオドアの剣技は、魔王の鎧に阻まれて。
堅実な守りに定評があるタンク(防御盾)──ローガの耐久力は、魔王の打撃により削られて。
学会の大天才と呼ばれた黒魔法使い──サリアの呪いは、魔王の耐性を超えられず。
さらには何より、魔王が常に発する破壊的な波動で、本来、我々は数十回死んでいる。
──その差を、僕──回復士ライオが埋める。
セオドアの身体に常に回復魔法を掛けて、攻撃に専念させる。
ローガの防御が耐えられなそうになったら、装備ごと体力を回復させる。
セリアが集中できる様に、魔王の波動を遮る形で、僕が位置を変える。
──そして、彼らが受ける痛みは、全て僕に来るようになっている。これは、あの時シラヴィア様がしてくださったもう一つの奇跡。痛みを代わりに引き受ける慈愛の魔法だ。修行して、覚えることに成功した。
常人なら、間違いなく発狂するであろう激痛。当然だ。何十、何百と死んでしまうほどのダメージを一身に引き受けているのだから。しかし、シラヴィア様に救ってもらったこの命、人を救うために使うことにこそ意味がある。
人々を癒し、救う。癒しの女神シラヴィア様の敬虔なる信徒として、僕は絶対に倒れることなど出来やしない。
一体、どれだけの時間が経ったのかは分からない。数時間だったのか。数日か。はたまた、数分しか経っていないのか。
だが、結果として、ローガが注意を引き、サリアが発動した呪いにより動きが緩んだ魔王に──セオドアの聖剣が魔王の心臓を穿った。
──勇者が扱える聖剣は、魔人や魔獣が持つ瘴気を払う事ができて、それらに対して特効性を有する。決して聖剣でしか勝てない訳ではないが、その効力は大きい。魔王は特に大きな瘴気を持ち、勇者以外に討伐された記録はない。
その上、勇者は人数もかなり少ないため人々から特別視されている。勇者を含むパーティを勇者パーティと呼び、普通の冒険者パーティと区別するのもそのためだ。
聖剣に貫かれた魔王は、ヒュッと息を吸う音とともに、地に仰向けに倒れた。奴を覆う大量の瘴気が霧散していく。
そして、魔王は──動かなくなった。
「っっっしゃあ!!! 勝ったぜええええええ!!!」
セオドアが勝利の雄叫びを上げる。ローガもサリアも、セオドア程じゃないにしても、各々満足そうに笑みを浮かべている。激戦の後とは思えない程、皆は疲れの表情は見せていない。
そしてそれは、実際その通り。全てのダメージを肩代わりして、治し続けた僕を除いて。フラフラと揺れる僕は、もう限界が近い。
そんな僕を見てセオドアが、
「おい、ライオてめえ。死にそうじゃねえか」
「ははは。流石に僕も疲れたよ。歩くの、手伝ってもらってもいいかい?」
「おう。任せろや」
僕は、フラフラと歩きながら彼に手を伸ばす。セオドアも僕の方に歩いてきて──、
「魔王のついでに、てめえも死ね!」
聖剣を抜き、僕の首を切り落とした。