ただいま
道中に3人で話した結果、村に戻った後、ライオとシラヴィア&コトネは別行動をとる事にした。
ライオは自分の家もとい両親の下に向かい、コトネはシラヴィアを宿に送り届けると共にイチゴモドキを宿泊している『旅人さん』に売る。ライオは危険を考え、先にコトネ達の方についていく事も提案したが、「早く帰ってあげて」とコトネに却下された。
コトネの言葉にも一理ある。本来なら1秒でも早く両親の下に行って安心させてあげたい。両親に要らぬ心配をかけ続けたくはない。
コトネには一応、十分注意しておくように言って、ライオは引き下がった。
村に着く頃には辺りもすっかり暗くなっていた。家の外に出ている人は、目視した限りでは居ない。少なくまばらにある光魔法や炎魔法を使った常夜灯が辺りを仄かに照らしていた。
「それじゃあ、さっきの話通りあたし達は宿に行くから、ライオは寄り道しないで真っ直ぐ家に行きなよね」
「分かってるよ。ひと段落ついたら僕も宿に向かうからね」
「別に来なくてもいいけど。5年ぶりの再会なんだから、積もる話もあるでしょ?」
「まあね。だから、そっちに行くのは遅くなるかもしれないかな」
「ん。まあ、りょーかい! じゃ、行こっか! 師匠!」
「う、うむ。行こうかの」
村に入る頃から、シラヴィアは妙に動きが硬いし、口数が少ない。今まで魔王だったから、人里に来るのが本当に久しぶりなのかもしれない。これなら村に連れてきて正解だったように思える。
そして手筈通り、ライオとコトネ達は別れて違う場所に向かう。
ライオは5年前の記憶と灯りによって見える景色を頼りに、歩みを進める。
常夜灯に照らされる光景は、ひどく懐かしさを感じさせた。
(ほとんど変わってないな。あ……、あそこの灯り消えかかってる。直しておこうか)
すれ違いざまに、常夜灯の灯りにいつも使っていた回復魔法──ではなく時間魔法を掛けてみる。魔力が消費される感覚と共に、明滅していた灯りは輝きを取り戻した。
昔も何か壊れたらこうやって直していて、村の皆に有難がられていた。回復魔法でも出来るのだが、ライオの村には回復魔法使いは居なかった。
そうして歩いていくと、一軒の家──ライオの家だ──が目に入った。年季が入った木造建築は、今も5年前と変わらず──、いや少し古くなっただろうか。気持ち汚れが増えた様に思える。その事実に少し、自分の居ない5年の歳月を感じた。
いざ再会するとなると、胸が変にドキドキする。ライオは大きく深呼吸をして、心の準備を整え、そして覚悟をきめてドアをノックした。
コンコン、とライオが木製のドアを叩く小気味いい音色が木霊する。
静寂に包まれていたドアの向こう側から、足が床を踏む音が聞こえ、近づいてくる。そして、ライオの方向に開き戸がゆっくりと押されて──、
「──、ただいま」




