繋がり
いきなりの展開にライオは驚きが隠せない。思いつめて故郷に帰ろうかと考える前に、実は既に故郷に片足突っ込んでいたとは。
しかし、ならばこの場所はライオにとって思い出深くもある。
「……確かにこんな場所でしたね。懐かしいです。あの時、僕はシラヴィア様に救われた」
その時の記憶を思い返してみれば、目の前の風景と大体一致した。
彼女はライオの言葉に少し嘆息する。
「そんな大仰な言い方せんでも良いんじゃがのう。我はそんな特別持ち上げられる程の事はしておらん。そう言う童じゃて、多くの人を救ってきたんじゃないかの?」
「それは……、まあ」
「そういうものなのじゃよ。我が童を助けた。そして童が誰かを助けた。いずれその誰かもまた誰かを助けるやもしれん。そうやって繋がっていくんじゃ。童が己を助けた我を敬うのは悪い気はせんが、必要以上に妄信的になるのはいかんぞ。……我は神ではない故、間違うことだってあるんじゃからな」
10年前に自分がついた嘘を交え、シラヴィアが言う。
ライオ自身、無意識にシラヴィアを神格化してしまっているのは気づいている。シラヴィアの話を鵜呑みにしている事も無関係では無いだろう。10年前からの癖は中々変えられない。でも、
(──シラヴィア様は神ではない)
シラヴィア自身に悪意が無くても、人ならば間違える時もあり得る。その時、盲目的な自分がどう動くか。それはとても危険に思えた。
「……はい、承知しました」
「敬語も取ってくれて構わんぞ?」
「……それは、無理です」
「クハハハ。そうか」
彼女は笑ってそう言うが、ライオは至って真面目に言っている。シラヴィアと敬語抜きで話せる自信が本当にない。
尊敬する王に対する騎士は、こんな感覚で話しているのだろうか?
ライオにとってまだシラヴィアの存在は大分高いところにある。努力はするつもりだが、今の自分ではこれで精一杯であった。
シラヴィアはそんなライオを見て一頻り笑った後に、さっきライオが考えていた話を切り出した。
「まあよい。それで、これからどうする?」
「これから、ですか?」
「うむ。童の故郷はすぐそこじゃ。帰りたいならばすぐに帰れるぞ」
「……、シラヴィア様はどうなさるのですか?」
「我はどうしようかのう。世界中を巡りたいという思いはあるのだがなあ。特に行く当てもないゆえ、取り敢えず街にでも行ってみるかのう」
そう言ったという事は、彼女はここで別れるつもりだったのかもしれない。しかし、
「……シラヴィア様。宜しければ、共に僕の村に来ませんか?」
「童の村にか?」
シラヴィアが目を丸くした。そんな事考えていなかったようだ。
「はい。今日はもう遅いですから、寝床が必要でしょう? 村の皆にも冒険者のパーティメンバーだって説明すれば、部屋を貸してもらえるでしょうし……、それに、せっかくシラヴィア様に会えたのですから、話したい事もまだ山ほどありますよ」
「んん……、」
まだ日は出ているが、大分傾いていて森の中はもう薄暗い。夕日ももう少しで消えてしまうだろう。
だが、シラヴィアは少し困った顔をして、
「うーむ……、しかしの──」
「あ! 師匠じゃん! おひさぁ~! 1年ぶりくらいじゃない? こんな長い間来ないなんて珍しいよね? 何してたのさ!」
「「──!?」」
悩み顔のシラヴィアの発言は、突然会話に割り込んできた闖入者の声によってかき消された。そのまま闖入者は森の茂みから姿を現す。
そして、その声の主をライオは知っている。
「隣の人もこんにち──、…………、もしかして、ライオ?」
「……コトネ。5年ぶりだね。元気にしてたかい?」
ミディアムショートの銀髪に、やや釣り目がちな桃色の目──彼女の瞳がライオの視線と重なる。
──彼女の名前はコトネ。赤い果実が好きな、ライオの幼馴染である。




