これから
その後、ライオは一旦思考を切り替えて、
(さて、これからどうするか)
自分達が今から行動すべき事について考えた。
まずは森を脱出したいが、転移した影響で森の中という事以外に現在地が分かる目印がない。しかも森の中だからこそ、ここが安全であるとは言えない。魔獣に遭遇する可能性もあるし、遭難しても食料も寝床もない。
仮に街に戻れても、ライオは死んだ扱いになっているだろうし、迂闊にNo.1勇者パーティの元仲間に遭遇してしまったらまた殺しに来るかもしれない。まあ、街の中で万全の状態ならば奴らに殺される前に何とかできるが。
(だけどこのまま冒険者を続けるのもな……)
かつての仲間の裏切りに、ライオは冒険者を辞める事も視野に入れていた。彼には一応いつでも帰れる故郷がある。村を出て5年、忙しくて全然帰れていなかった。今の力があれば、魔獣や野盗から村を守る用心棒だって出来るくらいには強いし、時間魔法を使って回復士としても働ける。時間魔法を極める修行をするのも良いだろう。
幸いにして、ライオは自分がNo.1勇者パーティに所属している事を村の皆に言っていなかった。連絡できないほど忙しく世界を巡っていたのだ。だから、No.1勇者パーティのライオが死んだと噂を聞いたところで、まさか自分の村のライオだとは思うまい。同名なんていくらでも存在する。
(そういう風に村でのんびり過ごすのも良いかもな。シラヴィア様はどうなさるのだろうか?)
魔王との戦いで戦死したとされているはずのライオと同じく、シラヴィアも魔王として倒され、死んだ事となっている。魔王としての力も失っているので魔王城に戻る訳にもいかず、行く当てがないかもしれない。それだったら、自分の村に招待するのもアリかもしれない。
自身の言葉通り、シラヴィアがそのまま世界を巡るのなら、お供したいところではある。しかし世界中に顔の割れていないシラヴィアと違い、ライオは顔が相当知られてしまっている。当然ではあるが元No.1勇者パーティメンバーとして、冒険者の上位陣にも知り合いが多い。さらには、村を出てすぐの頃から多くの人助けを行っていたため、人脈の面ではかなり広いと言える。だが、そういった知り合いが味方とは限らない。シラヴィアについていき、知り合いにバレてNo.1勇者パーティの奴らや帝国に伝えられて狙われるなんて事になったら目も当てられない。ライオ自身はともかく、自分のせいでシラヴィアに危険が迫るリスクを彼は許容できなかった。
だがこれから先どういった選択をするにしても、まずはこの場を切り抜けることが先決である。現在地を特定しない事には何も始められない。『瞬転』を使った本人のシラヴィアには分かるのだろうか?
改めてライオは辺りを見回す。森だ。特に目を引く特徴もないように思える。
「ここはどこの森ですかね……」
「……ん? 分からんか?」
「えぇと……?」
シラヴィアはライオに問いながら森を眺めている。
しかし現状、ライオにはこの場所が森ということ以外の位置情報がない。
取り敢えず、彼女が見ている方向にライオも目を向けてみる。
(……? あれは……?)
遠目に映ったのは、見た事のある赤い果実。実る地域が少なく、高価で希少なモノ。
子供の貯金程度では買うのが難しく、すぐに腐ってしまうので、そもそも滅多に行商人も持って来ることが出来ない。
しかしある森の中には、珍しくその果実が実る木がある事を子供の時から知っていた。
──かつて、シラヴィアに初めて会った時に、幼馴染のためにライオが採っていた果実だ。
「……まさか……っ!?」
一点を凝視して思考を巡らすライオに、シラヴィアは面白そうに微笑む。
「気づいたか?」
この果実が採れる森は他にもあるが──、
(だが、シラヴィア様がそう言っているという事は──、)
「──もしかしてここは、僕の故郷の村近くの森でしょうか」
それにシラヴィアはニヤリとして、
「正解じゃ。もっと言うと我と童が10年前に会った場所じゃよ」
と、付け加えた。




