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森の中

 ──ヒロリアスト王国。某所。森の中。


 先刻まで魔王城内に居たにも関わらず、目を開けると、ライオの眼には広い空間を有する森が映った。大きな木々に周囲を囲まれている。


 肩に触れらているような感覚があったので彼が振り向くと、やはりそこにはシラヴィアが居た。変わらずライオの肩に手を乗せているが、何故か先刻より小さいように見える。

 もう彼女の表情から焦りは消えていた。


「ここまで来ればもう大丈夫じゃろうて」


「シラヴィア様、一体何を……?」


(? ……声が低くなっている?)


 ライオの声にまたしても違和感が生じる。

 その確認を彼がする前に──、


「我が使った魔法は2つじゃ。空間魔法『瞬転』、時間魔法『時進』。『瞬転』は、長距離間を一瞬で転移する魔法じゃ。これで魔王城からここまで来た。『時進』はついでなんじゃが──、対象の時間を進める魔法じゃ。今回は童を現実の成長まで戻すだけにしたからそこまで大変ではなかったぞ」


 ──シラヴィアが答えを言った。


「あ……っ!」


 空間魔法も大概聞いた事のない規格外さで驚きだが、それより自分の体の事だ。

 確かに、ライオが体を確認すると、元の19歳の大きさに戻っていた。シラヴィアが小さく感じたのは、自身が大きくなっていたからだった。それでもシラヴィアに背の高さでは負けているのだが。


「これが……」


「そう。これが我が童に言った時間魔法じゃ。我が魔王である事を明かした後に説明するつもりじゃったが、実演するのが先になってしまったのう。空間魔法と時間魔法、この2つが我が魔王になった時に使える様になった魔法。そして──、『無手の勇者』の魔法でもあるのじゃ。多くの魔王と戦い、殺した力じゃ。歴代魔王しか知らん部屋にその情報があったんじゃよ。」


「これが、時間魔法……、って事は僕でも出来るのですか?」


「無論じゃ。修行は必要じゃろうが、使える様になるはずじゃ。他にも色々やれる事があろう。熟達すれば、自分が受けた傷をそっくりそのまま敵に送り返す事も出来よう。『無手の勇者』の逸話と同じじゃな。童は時間魔法を回復魔法と思い込んでおったせいで、今は回復特化の性能になっておるようじゃが、本来は割と万能な魔法なんじゃよ」


 凄い……! 凄まじい力にそう思う一方で、ライオに新たな疑問が湧く。

 これほどの力を持ったシラヴィアが撤退したという事は……、


「先ほど迫って来た者は、この力でも勝てないような相手だったのですか?」


「……、いや、我が魔王としての力が使えたら勝てない相手はおらん。逃げた理由はもっと簡単なものじゃ。──我が魔王の力を失ったからじゃよ」


 シラヴィアはそう口にした。


「魔王の力を……?」


「うむ。我から瘴気を感じなくなったじゃろ? 童の使った時間魔法『時戻』と言うんじゃが、名の通り対象の時を戻す魔法じゃ。記憶までは消えんがのう。まあ、要するに若返りの魔法じゃな。童の体は10年くらい戻ったが──、我は80年以上戻ったようでの。我が魔人と成り果てる前の姿にまで戻る事が出来たのじゃ。まさか人に戻れる日が来るとは思ってもみなかったが、瘴気による衝動が無くなるとは、これほど素晴らしい事はない。じゃが、我は元来、魔力がとても少なかった。瘴気による運用無くしては、空間魔法も時間魔法もほとんど扱えん。さっきの魔法は我の瘴気の残滓を集めて行使出来た最後の魔法なんじゃよ」


「なるほど……」


 魔王としての力を失っているが、人間に戻れたことが嬉しいのか、語るシラヴィアの表情は明るかった。


(だから、蘇生後のシラヴィア様からは瘴気を感じなかったのか……)


 その謎が解けた。それにしても、80年とは。80年前から変わらないシラヴィアに驚けばいいのか、80年もの時を戻した天災魔法の威力に驚けばいいのか。


「嬉しそうですね」


「魔王の身であった我でも叶えられなかった夢じゃ。魔人となると殺人衝動が湧いてしまってのう。普通は耐えられん。我は時間魔法と空間魔法を応用することで意識をずっと保ってはいたが、渇きはずっと感じておった。それが無くなったのが嬉しいのじゃ。──それに、我が護った人の世を思いきり見て回りたいという思いもあったしのう」


 そう語る彼女の表情には切実な喜びが詰まっていた。


「だから、戦力としては期待するでないぞ。足手まといにはならんつもりじゃが、今の我は人の身ゆえ魔王時代ほど強くはないし、魔獣らに命令も出来なくなったからの」


「承知しました。シラヴィア様は命に代えてもお守りします、必ず」


「フハハ。硬いのお」


 ライオは大真面目に言うが、シラヴィアはそれを聞いて声をあげて笑った。


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