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『無手の勇者』ルーク

 『時間魔法』自体より、唐突なその名前にライオは呼吸を忘れるくらい、今日の全ての出来事を足しても足りない程に驚いた。


 『無手の勇者』ルーク。その名を知らない者は居ない。おとぎ話にも出てくる英雄で、誇張抜きに1人で人類を救った救世主だ。



────────



 今から数百年前、かつて人類は滅亡の危機に瀕していた。


 その原因は、瘴気を生み出していると言われる、瘴気の悪魔。奴が地上に顕現し、暴威を振りまいて、世界中を濃い瘴気が飲み込んだ。


 結果、力ある魔王が乱立し、多くの勢力を作り争った。さらに、魔王に匹敵する魔人が次々と現れて、人類のみに限らず多数の種族を襲い暴れ回った。


 影響はそれだけに留まらない。魔獣は、それぞれの個体の強さが格段に上昇し、大魔獣と呼ばれる天災のような破壊力を持つ魔獣も数多く出現した。


 極めつけに、邪龍や龍種と呼ばれるドラゴン達の到来が起こった。多数の魔王や大魔獣が暴れた影響で、縄張りを侵害された彼らが、『全ての障害を取り除くために人里にやってきた』。瘴気に侵されている訳ではない彼らは、人類を襲う必要はない。しかし、彼らは人と魔王達を区別する気なんて毛頭ない。その地に生きる者を悉く皆殺しにするためにやってきたのであった。


 その時代から、冒険者や勇者という職業は存在していた。現代より危険な分、各個人の練度は高い。さらに勇者も多く、強かった。しかし、聖剣を持つ当時の彼ら勇者の力をもってしても、魔人、魔王、大魔獣、ドラゴン、そして悪魔に対抗するための力は全く足りなかった。


 多くの勇者、冒険者の命が散り、いくつもの国が滅ぼされ、人類は絶滅への道を一直線に駆け落ちていた。誰もの心が折れ、ただただ暴力の波が早く過ぎ去る事を祈っていた。


 ──そんな中、後の大英雄『無手の勇者』ルーク──当時の呼び名は『弱者』ルーク──は、世界に姿を現した。


 ルークが表舞台に立つ前、彼はまだ魔王達の侵攻が届いていない片田舎で暮らしていた。しかし、奴らとの戦争の話は常々聞かされていて、自分の国ももうその毒牙にかかるかもしれないという話になっていた。そんな時、彼は聖剣を使う資格を見出された。そして、自国の王都に召集され、勇者として訓練する事となった。


 始め、周りの人々、勇者の面々は彼を笑い者にしていた。

 ルークは聖剣に選ばれ、勇者になれたのにも関わらず、聖剣を使う練習も訓練時の最小限で、その時間以外はひたすらに何かしらの魔法の練習と鍛錬を繰り返していた。


 しかしその魔法は実践では使われず、彼は身体能力と聖剣のみで魔獣と戦っていた。聖剣は扱いの上手さがそのまま攻撃力に繋がる。当然、その実力はなく、聖剣を扱っているのに強さでは一般冒険者よりも弱かった。そのため、『弱者』という不名誉な2つ名を付けられ、馬鹿にされていた。


 その後も彼はスタイルを曲げず、ひたすらその魔法に打ち込んでいた。周囲の人間の軽蔑、嘲笑、呆れ、忠告を受けても、「この魔法を扱えれば、何かが出来る気がする」と彼は己の道を歩み続けた。


 黙々と行われる彼の行動は、誰にも理解できなかったし、されなかった。


 1年後、あまりの弱さゆえに戦力外通告を受け、ルークは片田舎の村に返された。当然、聖剣は没収され、何も持たずに帰っていった。


 彼の帰還に村の人々は喜んでいたが、その理由を知ると皆複雑そうな顔をして笑った。しかし、嫌な顔はせず彼の生存を心から祝福した。


 彼は村に戻ってからも魔法の修行と肉体の鍛錬に明け暮れた。


 さらに3年の月日が経過した。魔王達の侵攻は止まらず、遂に前線が崩壊したらしい。自国全域が暴虐にさらされるのも時間の問題だ。この村にも魔物が雪崩れ込む事になるだろう。


「成った」


 だがその前に、遂に彼は成し遂げた。己の内に秘めていた才能を、完全に掌握する事を。

 彼は──『弱者』であるルークは──今から世界に喧嘩を売る。


 ──ここまでは前座である。彼の伝説はここから始まった。


 手始めに彼は崩壊したと言われる前線へと向かった。そこには魔人や魔獣が蟻のように大量にひしめいていた。恐らく数千、もしかしたら数万に届きうる数かもしれない。しかも一体一体が並みの戦闘職よりも強い。対してルークは3年間まともに戦っていない。聖剣はおろか獲物も持たず、単騎で敵に歩み寄る彼の姿は、多勢に無勢どころの話ではないはずだった。


 彼が敵の集団に近づくと同時に、彼は右腕を振り下ろした。


 ──そして腕の軌跡の延長線上に居た全ての敵が消え去った。


「「「「「!!!!!?????」」」」」


 魔人も魔獣も関係なく、等しく塵も残さず消滅した。今の一撃だけで全体の半分が消えた。

 突然の出来事に、彼らは正面の敵への警戒心を露にし、ルークを取り囲んだ。


 ──しかしそれは不正解。ルークを取り囲んだ全ての魔人と魔獣が、原形を留めずに風化した。


 そして、勝利する事なんて不可能と思われていた1人対圧倒的多数の戦いは、無手にも関わらずルークの圧勝という結果に終わった。


 この『殲滅戦』を皮切りに、ルークは人類に仇なす者と片っ端から戦っていく。

 彼は、行く先々で伝説を作った。


 大魔獣を素手で殴り殺した。

 彼が致命傷を受けたと思ったら敵が死んでいた。

 3体の魔王を同時に相手して勝利した。

 回復力が高い邪龍を回復不能にして殺した。

 複数の国の同時防衛に成功した。


彼の逸話には枚挙に暇がない。


 ルーク1人で全ての人外勢力と渡り合った。

 そしてその間、彼は1度も聖剣を使わなかった。


 彼が聖剣を使ったのは、最後の戦いのみだ。ルークは激闘の末に、最強の敵である瘴気の悪魔を、古代の叡智──ダンジョン──の奥に追い詰めた。そして世界最高の聖剣を奴に投擲して貫き、地下深くに封印する事に成功した。


 そして地上に充満していた瘴気は無くなり、魔人や魔獣は元の強さに戻り、ドラゴンは縄張りに帰っていった。人類は九死に一生を得て、無事に存続した。


 全てが終わるころには、彼を『弱者』と考えている者は皆無となった。前に後ろ指を指して笑っていた連中も掌を返すように彼を褒め称えた。


 しかし、彼は戦いが終わるとどこかに去ってしまった。ありとあらゆる褒美を報酬として受け取れる立場だったが、彼は何も言わずに忽然と姿を消した。自分の魔法の詳細に関しても前々から彼は無言を貫き、知る者は居なかった。


 ──彼の真意はどこにあったのか、それは誰にも分からないまま終わった。


 人々は畏怖と敬愛の念を込めて、彼を『無手の勇者』と呼び、伝説や、おとぎ話の主人公としてその名を現代まで語り継いできた。


 ──また、彼の詳細不明の魔法は、現在までずっと研究され続けているが、解明には至っていないはずであった。


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