戦の神と淫乱女神は悪巧みしました
その夜マクシムはアフロディアを訪れていた。
「宜しかったのですか。アレクに先陣を任せて」
アフロディアがマクシムにしなだれかかった。
「息子が心配なのか?」
マクシムはアフロディアを抱き寄せて聞いた。
「まさか。アレクはあなたと私の血をひいているのです。マーマレードの北方師団など露ほどにも思っておりますまい」
アフロディアは平然とアレクが不義の子であると言い切っていた。これを皇帝が知れば何と言おうか。まあ、我が子が孫になるだけだが。天界では父とも叔父とも兄弟ともまぐわっていたアフロディアにとっては普通の事だったが。このノルディンの常識というか、この世界の常識ではとんでもないことだったが、乱倫の激しかった天界では普通の事だった。
「そうだな。彼奴なら余裕でやってのけよう。
今回の唯一のネックはシャラザールの存在だったのだが、一時期はジャンヌの小娘に憑依した場合を懸念しておったが、うまくジャルカがクリスとかいう物静かな小娘に封印してくれたらしい。これで彼奴が戦場に出てくることはあるまい」
「シャラザール!あの憎き男女ですわね。彼奴のおかげでわらわは地界に叩き落されたのです。もし今度わらわの前に出てくれば身ぐるみはいでこの屈辱の全てを晴らしてやるものを」
歯を食いしばってアフロディアは言った。美の女神も鬼のような形相になっていた。
「お前も戦場に来るか。転移すれば一瞬だろう」
「そうですわね。シャラザールを殺す時は是非とも呼んでくださいませ」
「そうするか。天界の時は油断したが、今回は彼奴にも目にもの見せてくれるわ」
マクシムもその時の屈辱が甦ったのか、苦々しげな形相をしていた。
「まあ、シャラザールなど所詮右も左も判らぬ小娘。殺す時は身の皮一枚一枚剥いで殺してやりますわ」
笑ってアフロディアは言う。
「そうだな。シャラザールを猛り狂っている兵士達にくれてやっても良かろう」
「アレクが淡い恋心を抱いていた小娘のようにですか。マリスも本当に人が悪い」
「あの小娘はアレクの名前を呼んで泣いておったわ」
「まあ、本当に趣味の悪い」
二人は下卑た笑いを浮かべてふざけあった。
これをアレクが知ればこの帝都も灰燼とかしたかもしれない。
しかし、本当に恐ろしいのはシャラザールだということが二匹の邪神は知らなかった。
そして、そのクリスが、パーティーの翌日から休暇を与えられて大叔父で北方師団長のロポック・ミハイルを訪問しようとしているのはノルディン軍は誰一人知らなかった。
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次話は暴風王女の登場です




