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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第1章 萌黄町の雛罌粟
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第6話 ティアラーゼ(後編)

 ティアラーゼが永石神社に滞在して数日が経過した頃、雛罌粟はその間せっせと永石神社に通い続け、漫画本の差し入れをしたり、時には話し相手になったりと、志月と共に少女の世話を焼いていた。


 そうして随分体調の回復したティアラーゼは雛罌粟と共にリハビリを兼ねて境内を散策していた。


 砂利に囲まれた石畳を並んで歩く。


 ここ数日は雛罌粟から洋服を借りているティアラーゼは、装いだけはその辺の子供と変わらないが、それでも滲み出る気品は隠せてはいなかった。


 「ーー雛罌粟の妹と弟は、二人とも素直で良い子達だったね」


 昨日永石神社まで弁当を届けてくれた二人を思い出していたのだろうティアラーゼが微かに口元を緩ませる。


 体調はだいぶ戻ったティアラーゼであるが、淡々とした口調と喜怒哀楽の乏しい表情は相変わらずである。これがティアラーゼの元来の性質なのであろう。


 「えへへ、二人とも生意気すぎるのがちょっと玉に瑕(たまにきず)なんだけどね」


 「それに、昨日食べた雛罌粟のご実家のお弁当もとても美味しかった……。鶏の唐揚げ……とても香ばしくて幾つでも食べられそうだった」


 「唐揚げ弁当はうちの一番人気だからね! 志月さんもうちの唐揚げ弁当を気に入ってくれてるんだよ!」


 昨日の昼食を花咲弁当の唐揚げ弁当で済ませたのだが、表情の変化に乏しいティアラーゼが唐揚げを口にした瞬間、その白い頬を紅潮させていたのは記憶に新しい。


 金髪巻き髪の美少女が唐揚げ弁当を黙々と食べ進める様子はかなり新鮮であったが、花咲弁当のファンが増えるのは雛罌粟としてはとても嬉しい事だ。


 「実は私もおばさんに教えて貰って、唐揚げとか玉子焼きの作り方を練習してるんだ! 今度、ティアにも食べてみて欲しいな」


 「うん、是非」


 何処か眩しげに目を細めたティアラーゼはぽつりと呟く。


 「ーー雛罌粟はご家族と仲が良くて良いね」


 「うちは貧乏だから、その分家族皆で助け合わないといけないからね」


 「……」


 曇りの無い瞳で話す雛罌粟に対して、言いにくそうに、しかし興味は隠せないといった様子でティアラーゼが言う。


 「ーー雛罌粟は、花咲の家の本当の子供ではないんでしょう。それでもそんな風に思えるなんて……凄い」


 「え、そんなこと……」


 「ーー私なんて、血の繋がった実の家族ですら上手くやれないのに……」


 「ティア……」


 俯きがちに呟いたティアラーゼの言葉に、言葉を返そうとした雛罌粟だったが、結局言葉が見付からずに口をつぐむ。


 「ごめん、雛罌粟。今のは気にしないで」


 努めて明るい口調で言うティアラーゼだが、その横顔には複雑な感情が見てとれた。そしてそこに踏み込むことの出来ない雛罌粟は、何とはなしに話題を変える。


 「そ、そう言えば……ティアを見付けた森だけどね、あの日は森の奥で光の玉が沢山浮いてるのも見付けちゃって、それも凄く驚いたんだよね」


 「今まで何度か遊びに行ったことがあるんだけど、あんなの初めて見たよ」と軽い口調で話す雛罌粟だが、それを横で聞いていたティアラーゼは驚愕に目を見開いていた。


 「ーーその話、妹と弟にも話したの……?」


 「え? ううん、話してないよ。私もずっと忘れてて今急に思い出した様な感じだから」


 「ーーそう」


 何か考え込む様に足元の砂利に視線を落としていたティアラーゼだが、やがて真剣な面持ちで雛罌粟に視線を向ける。


 「雛罌粟、もうあの森には行かないで。勿論、妹も弟も」


 「え、どうして」という言葉が喉まで出かかるが、ティアラーゼの有無を言わさぬ様子に雛罌粟は結局は頷くしかなかった。




*****


 永石神社の社務所では雛罌粟、ティアラーゼ、志月が揃って卓を囲んでいた。


 ここ数日でお馴染みになった光景だが、それももう終わりだ。


 「ーーでは、ティアラーゼさんの事は雛罌粟さんが送り届けるという事で問題ありませんね?」


 「はい。雛罌粟、最後まで迷惑掛けてごめん」


 「ううん。私がお願いしたんだし、少しでも長くティアと一緒にいられるんだもん。寧ろラッキーだよ」


 雛罌粟とティアラーゼは顔を見合わせて笑い合う。短い間ながらも二人の少女の間には確かな友情が芽生えていた。


 永石神社に滞在していたティアラーゼだが、ついに此処を立つ日がやって来たのだ。


 これまで頑なに自分の身元を明かさなかったティアラーゼだが、別宅が都内にあるという事だけは二人に話していた。


 「ーー本当でしたら、子供だけで行かせるのは少々気が引けるのですが」


 一度は自分がティアラーゼを送っていくと提案した志月だったが、当のティアラーゼに断られ、そこへ雛罌粟が「ならば自分が」と手を挙げたのだ。


 それも一度は断ったティアラーゼが雛罌粟の同行を認めたのは、雛罌粟の捨てられた仔猫を彷彿させる眼差しに折れたからだ。


 「大丈夫だよ、志月さん! ティアの事は私が責任を持って家まで送り届けるからね」


 「雛罌粟さん、遠足は家に帰るまでが遠足とよく言いますからね。最後まで気を抜かないように」


 「はい!!」

明日も21時過ぎの更新を目指します。

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