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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第2章 魔術学校の雛罌粟
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5話 クラスメイト達の元へ


 中等部学舎の廊下を確かな足取りで行くアマーリエ。その数歩後ろに何処かぎこちない表情の雛罌粟が続く。


 目的地は中等部1年A組。


 「ーーげしちゃん、緊張してる?」


 「す、少しだけ……」


 アマーリエによれば、中等部進学初日とはいいつつ、クラスメイトはほぼ初等部からの持ち上がりであるらしい。


 つまり、今回完全な新入りとなるのは雛罌粟だけなのだ。


 「そんなに心配しなくても大丈夫よ。何しろげしちゃんは、あのティアラーゼともすぐに仲良くなれたんだもの。クラスの皆ともすぐに打ち解けられるわ」


 「う、うん。私頑張るよ!」


 雛罌粟は自分の手の平に三回ほど「人」と書くと、ひそかにそれを飲み込んだ。






*****


 一方、中等部1年A組の教室では今日からこのクラスにやってくるらしい”新入り”の噂で持ちきりとなっていた。


 「ーーベッセル先生が直々にスカウトに行ったとかマジなのかな」


 「ーーなんか噂だとバベルハイズさんと仲が良いって話らしいよ」


 「ーーバベルハイズさんと仲良く出来るって……その新入り、もしかして属性持ちなのかな」


 「ーーバベルハイズさんとラヴィネン君に加えて三人目の属性持ちってこと!? うちのクラスばっかり凄いな!!」


 ざわつくクラス内、噂話の当人であるティアラーゼとニコはそれらに加わる事も無くそれぞれの席で沈黙を守っている。


 そんな中、ダリア・アレンスカヤはクラスの喧騒をよそに先日学生寮の入り口で遭遇した東洋人の存在を思い出していた。


 (ーーあの、芥子粒め……)


 あの生意気な態度は今思い出してもダリアの苛立ちを募らせる。


 (ーーまさか、あの芥子粒が今日来るという新人なんてことは……)


 ダリアは脳裏に浮かぶ考えをすぐに追い払う。


 (ーーいいえ。だいたい噂話と照らし合わせると乖離がありすぎますもの。わたくしとした事が馬鹿な考えですわね)


 ダリアは自分の心を落ち着けるべく小さく息を吐くと、こっそり後方に視線を向ける。


 クラスの最後列、四人掛け長机の端にはダリアの想い人ーー銀灰色の髪と淡い水色の瞳の少年、ニコの姿がある。


 仏頂面で窓の外を眺めるニコに熱い視線を送りつつ、ダリアはほぅっと息を吐く。


 (ーーニコ君、今日も今日とて麗しいですわ。白馬の王子等という言葉はまさにニコ君のためにある様なものですわね)


 多分にフィルターの掛かった見方ではあるが、恋する乙女であるダリアには真実その様に見えている。


 何はともあれ……想い人の姿を視界に納め、半ば夢見心地となったダリアは気を取り直して前に向き直ったーーちょうどその時。


 ドアが開き、アマーリエが入室して来る。


 静まる教室内。全てのクラスメイト達の視線がある一点に向かう。


 アマーリエに続いて入室して来る暗い栗色のポニーテールに、ダリアは驚愕に目を見開く。


 それは紛れもなく先日の芥子粒であった。




*****


 「日本から来ました、常磐雛罌粟です。宜しくお願いしますっ!!」


 ざわめくクラス内、生徒達の好奇の視線が突き刺さるのを感じつつ、雛罌粟はこれから自分が加わる事になるクラスを見渡す。


 (ーーあっ。ティアとシュトリだ!!)


 見慣れた金髪の巻き髪と、今朝出会ったばかりの柔らかそうな黒髪を見付け、雛罌粟の表情が微かに明るくなる。


 ティアラーゼは中央付近の長机に、シュトリは窓際最後列の長机に掛けている。


 二人は雛罌粟と目が合うとアイコンタクトで答えてくれた。


 (ーー良かったぁ、二人と同じクラスなんだ)


 雛罌粟は心の中でほっと胸を撫で下ろす。知り合いの顔が見えただけで随分と心強い。


 改めて教室内を見渡せば、雛罌粟は更に見知った顔を見付けた。


 (ーーあ、この間のダリアと銀髪の男の子もいる!!)


 シュトリと同じ長机で一人ぶんの空席を空けて席に着く銀髪の少年は、雛罌粟などどうでも良いとでも言わんばかりに窓の外を眺めている。


 (ーーきょ、興味無さそう……)


 一方のダリアは頬杖を付きながら雛罌粟に険しい視線を向けている。


 (ーーうわぁ、こっちは何だか凄い敵意を持たれてそう……)


 雛罌粟が「そこまで嫌われる様な事したかなぁ」と内心で首を傾げた時、生徒の一人が手を挙げて立ち上がった。


 「はい、質問!! 常磐さんは属性持ちですか?」


 教室内が一瞬で静まり返り、クラスの注目が生徒に集まる。生徒の質問はまさにクラスのほぼ全員が気にしている内容であった。


 「残念だけど、属性持ちでは無いわね」


 そう言ったのはアマーリエだ。


 「皆も知っての通り、属性持ちだなんてそうそうお目にかかれるものじゃないのよ」


 アマーリエの言葉に生徒達からは期待外れの声が口々に上がる。


 「何だ、やっぱりそうか~」


 「まぁ、そもそも東洋人だしな~」


 「あーあ、何か拍子抜け~」


 教室内に満ちる何とも微妙な雰囲気に雛罌粟は居たたまれない気持ちになった。


 (ーーな、なんか凄い期待外れムード……。私ってそんなに注目株だったのかな……)


 若干落ち込む雛罌粟を他所に、アマーリエが両手を叩いた。


 「ーーはいはい、皆静かにね!! 今日から皆の仲間になる常磐さんだけど、ずっと魔術と関わりの無い所にいたから分からない事も多いの。皆、常磐さんが困っていたら助けてあげてね」


 アマーリエは教室内を見渡すと、更に言葉を続ける。


 「ーー席は、そうねぇ……ちょうどシュトリとニコの間が空いているから、そこに座って貰いましょうか。シュトリもニコも宜しく頼むわね」


 アマーリエの言葉に対し、シュトリは頷きで答え、ニコは相も変わらず無視を決め込んだ。


 対称的な二人の態度にアマーリエはひそかに苦笑する。


 「ーーそれじゃあ、常磐さん、早速席に着いてね」


 「はい」


 アマーリエに促され、雛罌粟は指定された自席へと向かう。


 「同じクラスになれて嬉しいよ。改めて宜しく、常磐さん」


 「うん!! こちらこそ宜しくね、シュトリ」


 シュトリと再会を喜びあった雛罌粟は続いて、もう一人の隣人に声を掛ける。


 「ーーえっと、ニコ、だよね? これから宜しくね」


 返事は無い。


 苦い顔をする雛罌粟にシュトリが耳打ちする。


 「ラヴィネン君は誰に対してもこういう感じだから、余り気にしない方が良いよ」


 「う、うん……」


 余りにも無愛想かつ無関心な隣人に、雛罌粟は改めてシュトリが隣に居てくれて良かったと思ったのだった。


 一方、雛罌粟の席が判明した瞬間硬直していたダリアは、雛罌粟をまるで親の仇でも見るかの様な目で見ていたのだった……。


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