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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第2章 魔術学校の雛罌粟
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1話 雛罌粟の入学準備(前編)


 雛罌粟が魔術士達の島、マギア・グランデに移り住んで数日。


 9月まで残り一週間を切ったとある日、学園都市中等部の学生寮内に与えられた雛罌粟の自室では、アマーリエが雛罌粟の為に簡単な魔術の講義を行っていた。


 暗い栗色の長髪をポニーテールに纏めた雛罌粟は、明るく元気な可愛らしい少女である。髪色と同色の大きな瞳は見る者に親しみ易い印象を与えている。


 対するアマーリエは肩口で切り揃えた艶やかな黒髪に深い森を思わせる緑の瞳の美女である。左目の下の泣きぼくろがそこはかと無い色気を醸し出している。


 まだ残暑厳しいこの日、雛罌粟はパステルピンクのTシャツにデニムのホットパンツ。アマーリエは淡い水色のVネックTシャツに白のガウチョパンツという装いだった。


 部屋の隅に置かれた学習机に向かい、雛罌粟はアマーリエから教わった内容をノートに纏める。ここ数日でお馴染みの光景である。


 魔術とは縁遠い日本の片田舎で育った雛罌粟には魔術の知識など無いも同然である。魔術に慣れ親しんだ他の生徒達との差を少しでも埋める為、知識の底上げが急務であった。


 「ーー魔術なんて今までは漫画とかアニメの中の物だと思ってたから、何だか凄く不思議な感じ。何て言うか……今でも夢の中にでもいるみたいだよ」


 「今までは環境が環境だったものね。でも、げしちゃんには素晴らしい魔術の才能があるんだもの。すぐに魔術で色々な事が出来る様になるわ」


 「ーー色々かぁ……」


 アマーリエの言葉に雛罌粟はこれまでに目にしてきた魔術を思い浮かべる。


 穴の空いた壁をまるで穴など空いていないかの様に見せたり、悦子を風船の様に天井まで浮かせてみたり。


 「ーーティアと先生に幾つか魔術を見せて貰ったけど、他にはどんな事が出来るんだろう。例えば……テーブル一杯にご馳走を出したり、ゴミの日に出し忘れたゴミを消したりとか……そういう事も出来るのかなぁ」


 「そうねぇ……。残念だけど、げしちゃんの期待通りにするのはちょっと難しいわね。魔術っていうのは案外万能ではないのよ」


 アマーリエの言葉に雛罌粟は首を傾げる。


 「ーーん? どういう事?」


 「何も無い場所に物を出したり、反対にそこにある物を跡形も無く消したりっていうのは魔術では不可能とされているわ。


 魔術で出来るのはあくまでもその場に存在している物の状態を一時的に変える事だけなのよ。ちなみに、これを『魔術における状態変化の法則』と呼ぶのよ」


 雛罌粟がアマーリエの言葉を手元のノートに書き込むのを横目に見ながら、アマーリエは更に言葉を重ねる。


 「だから、げしちゃんの例だとテーブルの上にご馳走があるように見せる事は出来ても、本当にその場にご馳走がある訳ではないし、ゴミの例でも同じね」


 「目には見えなくても、実際にはゴミはそこに残ってるって事だね」


 「その通りよ。それに魔術で出来るのはあくまでも一時的な変化だから、魔術が解ければ変化も全て元通りに戻るわ」


 「そうなんだ、何だかシンデレラに出てくる魔法みたいだね」


 雛罌粟の言葉に、アマーリエは悪戯を思い付いた子供の様に笑った。


 「ーーシンデレラ、ね。そうね、ちょっと面白い事を思い付いちゃったわ」


 「面白い事?」


 首を傾げる雛罌粟に、アマーリエは悪戯っぽいウインクで答える。


 ーー瞬間、アマーリエから蒼い光が迸る。


 「ーーえっ!?」


 『ーー戴くは煌めく宝冠。甘やかな花の香と翻る白絹のドレス。足元には硝子の輝き。お伽噺に息づく者よ、ひとときの姫君を飾れーー』


 光が収まった時、違和感を覚えた雛罌粟が自身の首から下を見下ろすと、そこに見えたのは見慣れたTシャツとホットパンツではなくお伽噺の姫君の様なふんわりとした淡い水色のドレスだった。


 ドレスの長い裾から覗く足元を見れば、先程まで履いていた白い靴下はガラスの靴に変わっている。


 「ーーすっ、凄い凄い……っ!! シンデレラみたいになっちゃった……っ!!」


 頬を紅潮させる雛罌粟にアマーリエは得意げに笑った。


 「そうでしょう? 物の状態を変えるだけとは言っても工夫次第で出来る事は多いのよ。他には、そうね……こんなことも出来るわ」


 「見ていてちょうだい」と言うと、又しても蒼い光を放ったアマーリエは新たに詠唱を始める。


 『ーー私の姿を見るなかれ。私の声を聞くなかれ。私の身体に触れるなかれ。人々にとり、私は最早無いものであるーー』


 雛罌粟の見守る中、一息で詠唱を終えたアマーリエの身体に変化が起こる。

 雛罌粟の眼前でアマーリエの身体がたちまち消え失せたのだ。


 「ーー先生が消えちゃった!?」


 思わず辺りをきょろきょろと見回す雛罌粟に、女教師のおかしそうな笑い声が落ちる。


 「見ての通り、姿を消す魔術よ」


 「凄い、透明人間みたい!!」


 声は聞こえど、姿は見えず。興奮冷めやらぬ雛罌粟は目を輝かせる。


 「ーーうふふ。まぁ、正確には姿を消している訳では無くて、げしちゃんの認識能力を少し誤魔化しているというのが正しいわね」


 「え……っ!! それじゃあ魔術を掛けられたのは私の方だったんだ。全然気付かなかったよ」


 「その辺は術者の腕次第ね。術者の技術が低ければ、魔術を掛ける前に悟られて防がれてしまう事もあるから。それに、これとは別に本当に自分の姿を消す魔術もあるから、場合によって使い分けが大切ね」


 アマーリエが言い終えると同時に、失せていたアマーリエの姿が再び現れ、雛罌粟の服装も元に戻る。アマーリエが魔術を解いた様だ。


 「げしちゃんもこれから学園で学んでいけば、今見せた様な事も含めて色々な事が出来る様になるわ」


 アマーリエの言葉に雛罌粟ももうすぐ始まる学園生活に想いを馳せる。


 しかし、ふと何かに気付いた様に顔を曇らせ眉を下げる。


 「ーーよく考えたら、私日本語しか話せないんだけど、大丈夫かなぁ……」


 雛罌粟の言葉に、アマーリエがはっとした様に目を見開く。


 「ーーそうそう、げしちゃんに渡す物があったのよ。今ので思い出したわ」


 アマーリエが何かを思い出した様に、ガウチョパンツのポケットから小さな包みを取り出した。


 差し出された包みに、雛罌粟は首を傾げる。


 「ーー先生、それは何?」


 「開けてみてのお楽しみよ。さぁ、開けてみてちょうだい」


 アマーリエに言われるがまま、雛罌粟は包みを開く。


 「ーーわぁ、可愛い」


 そこには小指の先程の大きさのピアスの様な物が二つ入っていた。金色に輝くそれらは一つは丸型、もう片方は星形をしている。


 「言語翻訳機能付の魔術具よ。それを付けていれば自分の知らない言葉でも術具に登録された言語ならば翻訳してくれるわ。ちなみにマグネットピアスだからピアス穴を開ける必要も無いしね」


 アマーリエの説明に、雛罌粟の脳裏には日本の国民的なキャラクターである青い猫型ロボットの姿が浮かぶ。

これはまるで翻訳こ○にゃくではないか。


 「凄いね!! これがあれば外国の子達とも普通に喋れる様になるんだ」


 アマーリエに促され、雛罌粟は自分の耳に魔術具を装着した。


 「ーーどう、先生? ちゃんと付けられてる?」


 「ええ、大丈夫よ。とてもよく似合っているわ」


 雛罌粟は思わず破顔する。元々アクセサリーなんて一つも持っていなかったので、予期せず可愛いピアスが手に入り、気分は上々である。


 「ーーそれじゃあ先生、折角だから何かドイツ語で喋ってみて?」


 「もう喋ってるわよ。ちゃんと理解出来るでしょう?」


 「うん、凄い!!」


 今までと何ら変わり無くアマーリエの言葉が理解出来る。


 雛罌粟の心配事が一つ解消された時、室内に「ぐぅ」という音が響いた。


 雛罌粟は羞恥心から顔を紅くして、空腹を訴える腹部を擦った。


 そんな雛罌粟にアマーリエが破顔した。


 「ーーそろそろお昼にしましょうか」


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