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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第1章 萌黄町の雛罌粟
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第16話 花咲家の来客(前編)


 雛罌粟が魔術士達の島、マギア・グランデを訪ねた日から数日が経過した頃ーー。


 小学校でのプール授業を終えた雛罌粟は、真夏の陽射しを浴びながら家路に着いていた。


 プールバッグを揺らしながら、考えるのは先日の事だ。


 (ーー結局詳しい話は聞けなかったけど……)


 マギア・グランデからの帰り道、アマーリエが雛罌粟に話してくれた彼女の恩人。


 (私によく似てるって言ってた……)


 アマーリエと初めて出会った時の態度がそれに起因するものだとすれば、彼女の言う通り雛罌粟とアマーリエの恩人はとてもよく似ているのだろう。


 勿論、他人の空似という事も有り得るが……。


 (ーーもしかしてもしかすると、私のお母さんだったりするのかな……。それか親戚とか……?)


 あれ以来、雛罌粟はふとした時にこの事を考える様になった。


 雛罌粟は今の家族が大好きである。亡くなった源治郎の事も大好きだったし、悦子の事も、真凜や凛太郎だって大好きだ。


 誰かに「何処の子ですか?」と問われれば、何の迷いも無く花咲家の子供だと答えられる。苗字は違うが、そんな事は問題ない。


 自分はとても恵まれた子供だと思っているし、幸せものだ。


 (ーーでも、本当の自分が何処の誰なのか知る機会があるのなら、それはちゃんと知っておきたい……)


 アマーリエはきっとその手掛かりを持っている。


 またあの黒髪の女教師に会えるだろうか。そんな事を考えながら雛罌粟は家への道を歩いた。





*****


 「ーーただいま!! ……って、あれ?」


 花咲弁当の暖簾をくぐると、何時もはそこにいる筈の悦子の姿がない。


 「まだお昼時なのに珍しいな」


 そう思いつつ、雛罌粟は花咲家の生活の場となっている二階へと上がった。


 居間に差し掛かった所で部屋の中から悦子と聞き慣れない男性の声が聞こえて来て、雛罌粟は思わず立ち止まる。


 「ーーもう少し、もう少しだけ待っていただけませんか。来月の中頃までには何とかしますので……」


 「ーー花咲さん。このままローンを滞納されますと、こちらのお宅を差し押さえる事も視野に入れなければならなくなります」


 余りにも不穏な内容の会話に、雛罌粟は息を呑んだ。


 バクバクする心臓を何とか落ち着けて、子供部屋へと引っ込む。


 室内には雛罌粟と同じく、真っ青な顔をした真凜と凛太郎がいる。


 「ーーげし姉。居間に来てる銀行の奴、見たか?」


 「ーーうん」


 「どうしよう、げし姉!! このままじゃ家が無くなっちゃう!!」


 目に大粒の涙を溜めた真凜が雛罌粟にしがみついて来る。


 (ーーこのままじゃ本当に家が無くなっちゃう……)


 最近は雛罌粟達のチラシ効果なのか、少し客足が増えて来たと三人で密かに喜んでいたのに……。現実はその程度では埋め合わせが出来ない程に事態は悪化していたらしい。


 ちらりと凛太郎に目を向けると、白くなる程に拳を握り締めている。


 (凛太郎だって本当は泣きたいだろうに……)


 ここは花咲家の姉として何とかせねばと、雛罌粟は静かに決意を固めた。


 「ーー花咲弁当を守ろう……っ!!」


 「ーーげし姉。うん……っ!!」


 「そうだよな。ここはオレ達の家なんだから……っ!!」


 花咲弁当を守るため、子供達は思いを一つにする。


 そんな中、居間の方が少々騒がしくなる。銀行員が帰る様だ。




*****


 「ーーまたチラシ配りでもするか?」


 「ううん、多分それじゃあ間に合わないよ……」


 「じゃあ、どうする? げし姉は何か良い考えある?」


 「うーん、そうだねぇ……」


 子供部屋で作戦会議に勤しむ子供達。その表情は真剣そのものだ。


 そんな中、何やら表が慌ただしくなる。


 まさか銀行員が戻って来たのかと三人の表情は一様に険しくなった。


 「まさか、さっきの奴が戻って来たのか……?」


 「えぇ……っ。もしかして、もう家の差し押さえに来ちゃったの!?」


 真凜と凛太郎の顔に焦燥の色が浮かぶ。


 「二人とも、此処で話してたって仕方無いよ。ちょっと外の様子を見に行こう」


 雛罌粟の言葉に、弟妹達は神妙な面持ちで頷いた。騒ぎの原因を確かめるべく、子供達は駆け足で店の外へと向かう。


 そんな中、聞こえて来た声音に雛罌粟は度肝を抜かれた。


 「ーーそういう訳で、少しお話をさせて頂きたいのです」


 凛とした声音。それは紛れもなくあの黒髪の女教師、アマーリエのものだった。


 思いがけず耳に入ってきたアマーリエの声に、雛罌粟は陽射しの下へと躍り出た。


 「ーーアマーリエ先生……っ!? どうして此処に……っ!?」


 「こんにちは、げしちゃん。またまた数日振りの再会ね」


 驚愕する雛罌粟に対し、アマーリエの方は涼しい顔でひらひらと手を振って見せた。今日のアマーリエは何やら大きなジェラルミンケースを右手に下げている。


 一方で二人のやり取りに困惑を隠せない残りの三人は目を白黒させたのだった。

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