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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第1章 萌黄町の雛罌粟
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第15話 マギア・グランデ見学(後編)


 「ーーティア……っ!!」


 「雛罌粟、どうして此処に……っ」


 中等部学生寮にて、呼出ベルの音に玄関のドアを開けたティアラーゼは数日前に別れた友人の姿がそこにあるのを認め、少女にしては珍しく溢れる程に瞠目した。


 「えへへ。ティアに会いたくて来ちゃったよ」


 照れた様に言う雛罌粟に、ティアラーゼは心の奥がぎゅっとなる心地がした。


 しかし、何時までもこのほんわか気分に浸っている訳にもいかない。


 雛罌粟の後方には人の良い笑みを浮かべたアマーリエが立っている。


 (アマーリエ先生が雛罌粟を連れて来たのは間違い無い……。でも、どうして……?)


 ティアラーゼの脳裏に先日のバベルハイズ別邸での雛罌粟とアマーリエの邂逅の場面が浮かぶ。


 (ーー雛罌粟を見送った後、アマーリエ先生は私に雛罌粟の事を聞いてきたけど、その時は特に違和感は感じなかった……)


 ティアラーゼは抱き着いて来ている雛罌粟の頭を軽く叩きながら、気付かれない様にアマーリエに視線を向けた。


 考えても答えは出なかった。アマーリエが何を考えているのかは全く不明だが、ティアラーゼとしては雛罌粟とこうしてまた再開出来た事が喜ばしい事であるのも事実だ。


 「ーーあの。私はこれから商店街に朝食を取りに行く予定なんですが、良ければ二人もどうですか?」




*****


 中等部区画、商店街。この区画に暮らす人々の生活必需品から娯楽の品まで取り揃えたその名の通り、商店の街である。敷き詰められたカラフルなタイルが目に楽しい。


 「ーーうーん。お店は沢山あるけど、何処も殆んど閉まってるね」


 「長期休暇中だから。皆店仕舞いして、それぞれの故郷に帰ってる」


 これから朝食を取るというティアラーゼと共に商店街へとやって来た雛罌粟とアマーリエ。


 平常時ならば活気に満ちているであろう商店街も今は多くの店でシャッターが降りている。


 「ーーはぁ。折角魔術学校に来たのに残念……」


 「まぁ、普段に比べたらどうしても寂しくなっちゃってるけど、休暇中でも空いているお店もあるから大丈夫よ」


 「そうだよ、雛罌粟。これから私のお薦めのお店に案内するから」


 「え、ティアのお薦めのお店? わぁ、凄い気になる!!」


 ティアラーゼの言葉に食い付いた雛罌粟は現金なもので、既に友人のお薦めのお店へと思いを馳せている。


 「今から行こうと思っているお店は、パンケーキとローストビーフのバケットサンドが特にお薦め。後はカフェオレも美味しい」


 「良いなぁ~。どっちも美味しそう!!」


 「後は野菜スープも美味しい。ーーあ、でも野菜スープは永石神社で志月さんが作ってくれた物の方が美味しかったかもしれない」


 「志月さんの野菜スープは凄い美味しかったよね。私もビックリしちゃったよ」


 萌木町の心優しい宮司の野菜スープを思い出し、二人の少女は顔を見合わせて笑った。

 そんな二人をアマーリエが興味深げに見る。


 「あらあら、二人とも何の話? 先生も仲間に入れて欲しいわ」


 「えへへ。内緒だよね、ティア!!」


 「うん、秘密」


 「え~。ずるいわよ、二人とも」


 殆んど人通りのない商店街を少女二人とアマーリエがじゃれあいながら歩いて行く。


 やがて多くの店が閉まる中で店を開けているオープンテラスのカフェが見えて来た。ガラスのテーブルに白い椅子が小洒落た雰囲気を演出している。


 店員に案内され、三人揃ってテーブルに着く。英語の読めない雛罌粟の代わりに、ティアラーゼとアマーリエがメニュー表を説明してくれた。


 「うーん、迷っちゃうなぁ……。でも、やっぱりティアがお薦めしてくれたローストビーフのやつにしようかな。あ、このホット・チョコレートも美味しそう!!」


 「うん、良いと思う。私はブルーベリーソースのパンケーキにする。後はアールグレイをアイスで」


 「私はカフェオレにしようかしら」


 オーダーを終えてすぐに、三人の元に料理が運ばれてくる。客が居ない為か、待ち時間はほぼゼロである。


 雛罌粟は早速運ばれてきたバケットを頬張る。口の中一杯にグレイビーソースの効いたローストビーフの肉汁が広がる。ティアラーゼの言った通り、とんでもなく美味しい。

 一緒に頼んだホット・チョコレートも絶品である。


 一方、育ちの良さが窺える上品な食べ方でパンケーキを完食したティアラーゼが、雛罌粟とアマーリエを交互に見て口を開いた。


 「ーーそれで、何故此処に雛罌粟が? 連れて来たのはアマーリエ先生ですよね?」


 そう言いながら、ティアラーゼはアマーリエに訝しげな視線を向ける。

 しかし、その問いに答えたのは雛罌粟だった。


 「ーーそれはね、ティア。アマーリエ先生からティアが元気が無いって聞いたんだよ。私の顔を見たらもしかして元気になるかもって言われて、それで此処まで連れて来て貰ったんだ」


 「ーーえ?」


 「でも、ティアが元気そうで良かった!アマーリエ先生からあんまりご飯も食べられてないって聞いてたから、もしティアがゴボウみたいになってたらどうしようって凄く心配だったんだよ」


 ホット・チョコレートを飲みながら笑顔で話す雛罌粟にティアラーゼは何とも言えない視線を向ける。そして雛罌粟からアマーリエへと視線を移すと、女教師は悪びれない様子でカフェオレを啜っている。


 「ーーまぁまぁ、そんな顔をしないでちょうだい。ここ最近ティアラーゼが少し疲れた顔をしていたのは事実でしょう。気の置けない友人と語らうのもストレスの解消にはとても大切な事よ」


 「それはそうかもしれませんが……」


 話の流れから自分が出しに使われたとしか思えないティアラーゼだったが、雛罌粟もいる手前、反論は飲み込んだ。

 何より雛罌粟と再開出来て喜んでいる自分がいるのも事実だった。


 その後も三人はカフェのテーブルで他愛ない話をし、気付けばそれなりの時間が経過していた。


 「ーーさて、げしちゃん。あまり遅くなるとご家族が心配するだろうし、そろそろ帰りましょうか」


 「あれ、もうそんな時間?」


 「アマーリエ先生の言う通り、そろそろ戻った方が良いよ。雛罌粟の妹と弟もきっと心配してる」


 ティアラーゼからも言われてしまえば、名残惜しいが雛罌粟も帰る他ない。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう事を、雛罌粟は再認識したのだった。


 「ーーねぇ、雛罌粟」


 「どうかした、ティア?」


 「また……長期の休みの時には、萌木町に遊びに行っても良い?」


 「勿論だよっ!! 真凜も凛太郎も志月さんも絶対喜ぶと思う!!」


 その日、雛罌粟が最後に見たティアラーゼの表情は咲き誇る薔薇の花の様な笑顔だった。




*****


 行きと同じ道を通り、雛罌粟とアマーリエは帰路に着いていた。今は萌木町に向かう電車の中だ。


 時刻は午後6時を回ろうとしていた。真夏とはいえ、車窓の外に見える空もうっすらオレンジがかっている。


 車内に人は少ない。二人は座席に着き、電車の心地好い揺れに身を任せていた。


 「だいぶお疲れみたいね」


 「うん。今日も一日盛り沢山だったから」


 「そうね。何だかんだこんな時間まであちこち引っ張り回してしまったし……。ごめんなさいね」


 「謝らないでよ、アマーリエ先生。先生のお陰で普通なら出来ない素敵な思い出が沢山出来たし、ティアともまた会えたんだもん。今日は凄く楽しい一日だったよ」


 雛罌粟は更に言葉を重ねた。


 「それにね、アマーリエ先生。今日はこうして先生ともずっと一緒にいられて凄く楽しかったんだよ。私、先生の事もティアと同じくらい大好き」


 雛罌粟から見ても少々強引な所があるアマーリエだが、不思議と嫌な感じはしないのだ。


 雛罌粟は朗らかに笑って見せた。


 そんな雛罌粟をアマーリエはまじまじと見詰める。


 「ーーねぇ、げしちゃん……」


 「なぁに、先生?」


 「ーー私ね、昔……ある人にとてもとてもお世話になった事があるのよ」


 アマーリエが昔を懐かしむ様に、零す。


 「私はその頃、自分は世界で一番不幸せだと思っていたわ。でも、その人のお陰で立ち直る事が出来たの。今の私があるのはその人のお陰……本当に返し切れない程の恩があるわ」


 アマーリエがとても大切な話をしてくれている。そう感じた雛罌粟は真剣な面持ちでアマーリエの次の言葉を待った。


 「その女の人なんだけどね……げしちゃんに、とてもよく似ているのよ」


 「ーーえ?」


 アマーリエの言葉に雛罌粟は瞠目する。


 雛罌粟の栗色の瞳とアマーリエの深緑の瞳、その視線がかち合う。


 それってどういうこと?


 そう、雛罌粟が言おうとした瞬間ーー電車のアナウンスが萌木町への到着を告げた。





*****


 マギア・グランデーー中等部区画。


 医務舎の一室にて、魔術学園教職員リオネル・ブランは一人机に向かっていた。


 机の上には食べ掛けのガトーショコラとカフェラテ。


 部屋の主であるリオネルはと言えば、今話題の携帯ゲーム「ようこそ、どうぶつの村」の攻略に忙しくしていた。


 早朝に雛罌粟とアマーリエを送り出してからずっとこの調子である。


 ゲーム中では雨が降っている。こんな日にはレアな魚が釣れるのだ。魚図鑑を埋めたいリオネルは何度もマップを切り替え、レアな魚影が現れるのを待った。


 そんな時、室内に無機質な電子音が鳴り響いた。


 「ーーん? あぁ、今朝の雛罌粟ちゃんの結果が出たのか。まぁ、大した事無いだろうけど一応見ておくか」


 すっかり覚めきったカフェラテのカップを片手に、部屋の中央にある作業台に向かう。


 作業台の上に置かれたパソコンを見れば、画面には検査結果出力完了の表示がある。リオネルはマウスを操作し、結果表示のタブをクリックした。


 一枚目は属性判定検査の結果だ。


 「ーー属性なし、ね。まぁ、そりゃそうだろう……日本に属性持ちなんて聞いた事ないしな……」


 更にマウスをクリック。同時にカップに口を付ける。


 二枚目は魔術の適性検査の結果だ。


 画面が切り替わった瞬間、リオネルは口に含んでいたカフェラテを盛大に吹き出した。


 「ーーへ……っ!!? 何この数値、こんなの見た事ないぞ……っ!!?」


 カフェラテで悲惨な有り様の画面を凝視する。


 そこに表示されていたのは、常人では考えられない程の血中魔力因子の量と濃度だった。


 「ーーと、とにかくアマーリエに連絡しないと……っ」


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