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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第1章 萌黄町の雛罌粟
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第12話 女教師襲来(前編)


 「ーーそれじゃあ、雛罌粟ちゃんまた明日ね~!」


 「うん、また明日~!」


 雛罌粟は手を振りながら、段々と小さくなるクラスメイトの背中を見送った。そうしてその背中が完全に見えなくなると、一人ごちる。


 「ーー夏休み中も塾通いなんて、由美香ちゃんは大変だなぁ……」


 裏山で赤槻と不思議な夢の話をしてから数日が経ったとある日、家の手伝いを終えた雛罌粟は、同じクラスの友人である由美香に誘われて川で水遊びをしていたのだった。


 しかし、時計の針が午後3時を指す頃、習い事を思い出したらしい由美香が慌ただしく帰ってしまい、雛罌粟は一人川辺に残されてしまった。


 真夏の昼間でも水辺ならば多少は暑さが和らぐ。ひんやりとした心地好い風がポニーテールを揺らし、雛罌粟は目を閉じる。


 「一人で遊んでても楽しくないしなぁ。帰ろう……」


 そう思い、雛罌粟が何とはなしに後ろを振り返った時、


 「ーーえっ!!?」


 心臓が止まるかと思う程の驚愕。


 雛罌粟の視線の先には、先日ティアラーゼの屋敷で印象的な出会いを果たした女教師が立っていた。




*****


 真夏の太陽をバックに、サングラスを掛けた女が不敵に笑った。


 今日のアマーリエはふんわりとした薄手の白いブラウスにカーキ色のパンツルックだった。どうやらパンツスタイルが基本の様だ。


 呆気に取られる雛罌粟をよそに、アマーリエが軽やかな足取りで雛罌粟の立つ川辺まで歩いて来る。


 川のせせらぎが心地好い。


 「ーーん。この間も感じたけど、日本の夏は蒸し暑くていけないわね。こんにちは、げしちゃん。数日振りね」


 「こ、こんにちは……」


 緊張と不審が半々といった様子の雛罌粟に、アマーリエは不思議そうな顔をする。しかし、何かに思い至った様に言った。


 「あらあら、もしかして……数日前にティアラーゼの屋敷で会ったんだけど、忘れられちゃってたかしら、私?」


 「あ、ううん……ちゃんと覚えてるよ!! ティアの学校の先生のアマーリエ先生だよね」


 「そうそう! 覚えていてくれて嬉しいわ」


 雛罌粟の緊張や不審は先日の出会い方に起因するものなのだが、そこについては全く思い至らないらしいアマーリエは嬉しそうに笑った。


 「あの、それで……アマーリエ先生はどうして萌木町に?」


 「もう、つれない子ねぇ。勿論げしちゃんに会いに来たに決まってるでしょう」


 「えっ。私に会いに?」


 「ええ、そうよ」


 アマーリエの言葉に雛罌粟は目を丸くする。


 (アマーリエ先生がわざわざ私に会いに?)


 一体何の用なのか。全く見当がつかず、雛罌粟は頭をひねった。


 そんな雛罌粟にアマーリエが言い放つ。


 「ねぇ、げしちゃん。魔術士の学校に行ってみる気はない?」


 「ーーへっ!?」


 「あぁ、ごめんなさい。唐突過ぎてビックリしちゃうわよね。嫌だわ、うふふ」


 上機嫌なアマーリエは更に言葉を重ねる。一方で雛罌粟の方は混乱状態である。


 (魔術士の学校ってどうして急に……。私に魔術の素養があるって話をティアがアマーリエ先生に話したのかな? でも、それで此処までわざわざ?)


 ぐるぐると思考を巡らせる雛罌粟の意識をアマーリエの言葉が引き戻す。


 「げしちゃんはティアラーゼと仲良くしてくれているのよね」


 「うん、ティアとは友達だから」


 「そう。ティアラーゼは人付き合いが苦手な所があるから、げしちゃんみたいな子が出てきてくれて本当に良かったと思っているのよ。それでそのティアラーゼなんだけどね。もう日本を発ったのは知っている?」


 「うん。この前ティアから近い内に学校に戻るって聞いたよ」


 アマーリエには平静を装いつつ、雛罌粟は内心ではがっくりと項垂れた。


 (やっぱりもう帰っちゃったんだ……)


 赤槻はああ言っていたが、やはり日本と外国では遠い。


 「そのティアラーゼなんだけどね。あちらに戻ってから元気がないのよ」


 「えっ、ティアが……!?」


 「そうなのよ。ティアラーゼもあれで気苦労が多い子だから、何かの拍子で疲れがどっと出てしまったのかもしれないわ」


 「ーーティアは。ティアは大丈夫なんですか!?」


 「まぁ、ティアラーゼはしっかりした子だから、時間が経てば持ち直すと思うんだけどね。でも、最近は食欲も余りないみたいで、元々華奢なのにこのままだとゴボウみたいになっちゃわないか心配なのもあるのよ」


 「ティ、ティアが、……ゴボウに……」


 ゴボウの様に痩せ細った大切な友人を想像し、雛罌粟は震え上がった。


 「まぁ、そういう訳でね……ティアラーゼがそんな状態だから友達のげしちゃんが少しでも顔を見せてくれたら、ティアラーゼも元気になるんじゃないかとそう思った訳なのよ」


 「わ、私行きます!! ティアがそれで少しでも元気になるなら!!」


 考えるよりも先に雛罌粟は口を開いていた。大切な友人の危機である。選択の余地はない。


 しかし、ふとある考えが雛罌粟の脳裏をよぎった。


 「ーーあれ、でもよく考えたらティアの学校って外国にあるんだよね? 私、パスポートなんて持ってない……」


 「あぁ、心配しなくても大丈夫よ。魔術学校がある島は何処の国にも属していないから、特にパスポートは必要ないのよ」


 「そ、そうなんだ……」


 雛罌粟は以前テレビで、何処の国にも属さない地域として南極が紹介されていた事を思い出した。きっとその南極と似たような扱いなのだろう。


 (ーーん? でもよく考えたら日本に戻って来る時にはパスポートいるんじゃないのかな? まぁ、アマーリエ先生が大丈夫って言ってるんだし、きっと大丈夫なのかな)


 パスポートについてひとまず納得した雛罌粟だったが、更なる重要な事柄に気付いてしまった。


 「ーーあっ!! 今から外国に行くなら夜までには家に帰れないだろうから、おばさんに言っておかなくちゃ!!」


 「それについても心配無用よ。ちゃーんと今日の夕方までにはげしちゃんを此処に帰してあげるから」


 どういうことなのかと呆気に取られる雛罌粟に、アマーリエは右手でピースサインをしながらニッコリ笑った。


 「まぁまぁ、全てこの私に任せて大船に乗ったつもりでいてちょうだい」


 とにもかくにも、こうして雛罌粟の魔術学校行きが決まった。

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