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賢者様を探して!! ~少女と眠れる湖の女神~  作者: オカメインコ
第1章 萌黄町の雛罌粟
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第9話 バベルハイズの別邸(後編)

 改めて友情の誓いを終えた二人は、どちらからともなく微笑み合う。


 「ーーあのね、雛罌粟。雛罌粟には私のこと、もっと知って貰いたい」


 そう言ってティアラーゼは雛罌粟から離れると、カーテンを閉め切り部屋の照明まで落としてしまう。


 「どうしたの、ティア?」


 一気に暗くなった室内で、雛罌粟は友人の意図を図りかねて首を傾げる。そんな雛罌粟にティアラーゼは意を決したように言い放つ。


 「ーー少しの間、私のことをよく見ていて」


 どういうこと?

 ーーそう、雛罌粟が口にしようとした瞬間。


 明かり一つ無い暗い室内に、まるでルビーの輝きを思わせる豪奢で華やかな赤い光が生じた。


 突然の室内の変化に雛罌粟は瞬きすら出来ず見入る。


 (ーー凄いっ!! どうなってるの!?)


 赤い光は間違いなく眼前のティアラーゼから発せられるもので、当然ながらこれまでの雛罌粟の人生では一度もお目にかかった事の無い事象だった。


 「雛罌粟には何が見える?」


 「ティアから宝石みたいな赤い光が出てるのが見える!」


 興奮気味に答える雛罌粟にティアラーゼもまた、何かを納得する様に頷く。


 「ーーそう。やっぱり雛罌粟には素養があるんだ」


 「素養? 素養って何のこと?」


 興奮冷めやらぬ雛罌粟の前を横切り、光を収めたティアラーゼは部屋の照明を点け直す。そうして改めて雛罌粟に向き直った。


 「魔術の素養」


 「ま、じゅつ……?」


 ティアラーゼから飛び出した言葉に呆けてしまった雛罌粟だったが、次に脳裏に浮かんだのは世界的なベストセラー児童書籍だった。


 (ーー今、ティアは魔術って言ったの?)


 (箒に乗って空を飛んだり、魔法で眼鏡のヒビを直したり、そういう感じの……?)


 脳内の魔法使いのイメージが目の前のティアラーゼと重なった。


 「それじゃあ、ティアは魔法使い……なの?」


 「うん、そうなる……まぁ、多くの人は魔術士という言い方をする。雛罌粟もずっと気になっていたと思うけれど、屋敷に入る前に見せたあの塀やもう一人の私もそう。あれらは全て魔術に因るもの」


 「あれがみんな魔術……」


 ティアラーゼの言う通り、此処に来てからずっと気に掛かっていた事だった。


 「もう一人のティアが消えちゃう時に落とした透明な石も魔術の道具なの?」


 「うん。私の魔力だけでは長時間持続する人形は作れないから、この水晶で足りない魔力を補っていた。魔力を使いきったから、この水晶はもう使えない」


 そう言ってティアラーゼが取り出した件の水晶は内部が曇って見えた。石に視線を落としながら、長時間持続という言葉に雛罌粟は「あっ」と声を上げる。


 「それじゃあ……ティアが萌黄町にいた間、ずっとあのもう一人のティアがこのお屋敷にいたの?」


 「うん。此処と萌黄町は離れているから余り緻密な操作は出来ないけれど、この屋敷の使用人達にも特に気付かれなかった。まぁ、屋敷の使用人は魔術士ではない一般人だから当たり前だけど」


 (ーーなるほど。それでさっきのメイドさんは昨日の内に私が今日此処に来るって知ってたんだ)


 この部屋まで案内してくれたメイドの話がずっと気になっていたが、今のティアラーゼの言葉によって全て合点がいった。


 そして気になるもう一点。


 「ねぇ、ティア。私に魔術の素養があるっていうのはどうして?」


 「ーー雛罌粟は、私を助けてくれた時に森の中で光る玉を見たと言っていたでしょう」


 「うん、そうだね」


 「ーーあれは物質ではなく、霊質。魔術の素養の無い者には視認出来ない、魔力因子によって形作られたもの」


 ティアラーゼによってつらつらと並べられた聞き慣れない小難しい単語を、雛罌粟は脳裏で反芻する。要はあの光の玉が見えた事が肝らしい。


 「難しいけど、何となく分かったよ」


 物質とか霊質とか魔力因子とか今一ピンと来ないが、魔術の素養だなんて何だか少し格好良いし、何よりもティアラーゼとお揃いというのが嬉しかった。


 「ーーえへへ。私もティアみたいに赤い光を出せたりするのかなぁ。さっきの赤い光、凄い綺麗だったんだよ」


 「魔力光は色も光もかなり個人差のあるものだから、きっと同じにはならないと思う」


 「そうなんだ。練習したら私も出来るようになるのかなぁ」


 「雛罌粟ならきっとすぐに出来るようになると思う」


 「そうかなぁ」と楽しそうに笑う雛罌粟を見て、ティアラーゼも口許を綻ばせた。


 「ティアは、夏休みが終わったら日本を出て海の向こうに帰っちゃうんだよね」


 「ーーうん」


 「折角、仲良くなれたのに残念だなぁ。私も志月さんも寂しくなっちゃうよ」


 日本国内にいるならばこうして電車に乗って会いに来れる。しかし、海の向こうではそうはいかない。


 「ーー大丈夫。きっと、また会える」


 「ティア……。うん、そうだよね。可愛い便箋買って沢山手紙を書くね」


 「うん……。私も手紙を書く」


 ーーふと、雛罌粟が壁に掛けられた時計を見ると時刻は午後4時を示していた。


 「ーーもうこんな時間なんだ。ごめん、ティア……私そろそろ帰らないと」


 「そうだね。電車に乗る時間もあるし、萌黄町に帰るのが遅くなる。私も駅まで見送る」


 「有り難う、ティア」


 離れていても大丈夫、帰り支度を済ませた少女達がそんな想いを胸に抱いた時だった。


 ドアをノックする音が室内に響く。


 「お嬢様、失礼致します」


 メイドの声に二人の少女は顔を見合わせる。


 「何か用事?」


 「はい。お嬢様にお客様が至急お会いしたいと。お嬢様の担当教諭のベッセル様と伺っております」


 メイドの言葉に、ティアラーゼが少女にしては珍しく眉根を寄せて渋面を浮かべる。


 「ーーティア。私は一人でも帰れるから、お客さんの所に行って」


 「でも……」


 「私なら大丈夫! お客さん、急ぎの用事なんでしょ?」


 尚も躊躇うティアラーゼの後押しをする様に雛罌粟が笑い掛ければ、ティアラーゼも決心したように「ごめん」と謝った。

ようやく少し魔術っぽさが出てきました。

次はティアのお客のお話ですね。

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