3.クエスト報酬
「クエスト、完了しました」
装甲を身に纏ったままギルドに戻り、クエスト完了の報告をドラゴンの目を袋に入れてする。
クエスト完了とみなされるためにはその対象の素材を持ってくる必要があるのだ。素材ならなんでも良いが、鑑定時にしっかりとそれが対象であることが分かるようなものでなければならない。
因みにドラゴンの死体はラネアが収納魔法で回収してくれた。
「え、え、えっと……どちら様で……?」
そうか、頭装備のせいで声が変わって聞こえるのか。
どうせなら正義のヒーローのように振る舞うのも悪くないな。見た目は悪役だけど。
勿論この格好であるからか凄い注目されている。
「ひ、一先ず鑑定させていただきます……」
受付嬢は鑑定士のいる部屋へドラゴンの目を持っていく。
そして暫くして……。
「は、は、はいぃ! 確かにリュアズ荒野の討伐対象のドラゴンです!」
怯えるように返してくる。
「こちらが報酬金となります……」
誰も俺をエレクスだとは思わない。そしてみんな思っているのだろう。エレクスは死んだ。偶然立ち寄った謎の剣士がドラゴンを倒し、死んだ男のクエストを達成させたと。
きっと俺でもそう思う。あんな弱小冒険者がドラゴンを一人で倒せるわけが無いと。
一人ではなく、実際には二人なのだが。
渡された金貨が入った大きい袋の中身を確認する。
『ひゃああ!? すっごい……』
あまりの多さに戸惑いつつも、小さく礼をしてギルドを出る。
そして二度目のガッツポーズを取った。
「よおぉっしっ!」
黒い装甲を見に纏った男性がギルドの前で喜んでいる。注目されないわけが無い。
「で、いつこの装備を外すんだ?」
『何時でもいいわよ。でもそこまでつけている感じはしないでしょ?』
言われて見れば相当軽く、そこら辺の鎧よりかは使用感もいい。それになんと言ってもかっこいい。
『どうせだったらこのまま別人を装うのもありじゃない? 悪魔憑きの冒険者……うん、カッコイイ』
「そんなの公に名乗ったら聖職者らが黙っちゃいないぞ?」
『そっかぁ……カッコイイんだけどなぁ』
それは置いといて。と続けて。
『これから先、どうしたい?』
先を見据える内容に話題が変わった。
これから先どうするかと聞かれたら冒険者活動をしていきたいと答えたいが、俺だけ良い気分になるのも忍びない。
「ラネアはどうしたいんだ? 確か護って欲しいとかだったな?」
質問を質問で返すような形になってしまうが、ラネアの希望は聞いておきたい。
『……うん。まあそうなんだけど』
自分のことになるといつもよりも気分が下がっているように思える。あまり聞かれたくない事がありそうな雰囲気だ。
「その事について詳しく教えてくれないか? 何から護ればいいのか……とかさ。嫌だったら別にいいよ」
『話したいから人目に付かないところに……』
ということでいつもの宿屋に戻る。
「今日は……私事情により閉めております……ひゃ!?」
そう言えば装甲を付けてきたままだったー! なんの違和感もなかったから解除するのを忘れてた……どうしよう……。
怯えているし……なんだか泣いているし。
「あ、え、えっと……何名様で……」
「今日は閉まっているんでしたね……」
『はは〜ん、なぁるほどね』
何かを悟ったようにそう言う。何が何だか俺にはサッパリだった。何時も空いているはずの宿屋が閉まっているなんて珍しい。
「失礼しました」
宿屋を出ようとした次の瞬間。
「ちょっと待ってください! もしかして……何時もの……方……ですよね」
彼女には正体がバレていた。
「そう……ですよね?」
身に纏われた装甲はキューブへと元に戻る。
次の瞬間、店主さんの顔はぱあっと明るくなるように活気を取り戻した。
「よかったぁああ! ぐすっ……一人でドラゴン討伐に行ってしまったって他の冒険者さんから聞いた時、もうダメだって思ったんですよぉおお! うわあああ!」
さめざめと涙を流しながら、俺の身体をギュッと強く抱きしめ出す。
まさか俺が死んだ(実際には死んでいないが)ことに対して泣いてくれてたのか。嬉しいというか、なんと言うか。いや、嬉しさの方が勝っているんだが。
俺が死んだところで悲しんでくれる人なんで誰もいないだろうと思っていたばっかりにこれは心にグッと来るものがある。
「ありがとう……心配してくれて。でもまあこの通りなんともなく終えることが出来たよ。あ、そうそう」
金貨の入った袋を半べそをかいている店主に渡す。
「な、なにこれ……?」
その中身を確認して驚愕の表情を浮かべる。
「今までほら、宿代をまけてもらってたりしてたから……そのお礼としてさ」
「でもこんなにも受け取れないよ!? それにそこまでサービスを提供出来ているわけじゃないし……」
袋を胸元に押し付けて返そうとしてくる。が、俺は頑なに受け取ろうとはしない。
そこで俺の脳裏にある提案が浮かび上がった。
「じゃあ……君の作るご飯を毎日食べたいから……それの前金として受け取ってくれないかな?」
美味しかった。久しぶりに食べたご飯だからそう感じたのかもしれないが、彼女の作る料理は確かに美味かった。
頬を真っ赤に染め上げ、俯いたままか細く「うん」と答えた。
「何時ものお部屋へ……どうぞ……」
どうしてか顔を見ようとはしてこないが、俺は借りている部屋に戻った。
『あれってプロポーズ?』
部屋に入ってからの第一声がそれだった。
「……え?」
どういう事かサッパリで頭の中が真っ白になる。
『罪な男ね〜』
「え!? 何が!?」