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1.悪魔との出会い

 物心着く頃から俺は冒険者、それも剣を正義のために振るう剣士になることを夢見ていた。きっかけと言えるきっかけも、自分は出来ると謎の自信に満ちていたこともあり手頃な木の枝を見つけては素振りを繰り返していた。

剣技のことは何も分からないが人を護る存在になれれば良いな。と、その頃はそればかりで、妥協も挫折も知らない若かりし頃の俺は……そんな夢を見続けていた。


 そして何とかギルドに加入し、何とかパーティ入ることが出来たが、既に自分に冒険者としての才能が無いことは分かっており、努力ではどうしようもないことがあると感じる日々に襲われている。


 ――そして、ある昼頃のギルド内にて俺の人生が一転するような出来事が起きた。


「エレクス、今日からクビな」


 衝撃的なその言葉を前に俺はただ立ち尽くした。

 その男はこのギルドでは俺と同じくして新米の冒険者で、あるパーティのリーダーを務めている。

 クエストに行く時間になった為ギルドに来た俺にリーダーから告げられたのはクエスト内容ではなくパーティ追放。言わずとも唖然とした。


「あ……え」


 情けない声がこぼれる。


「わりぃな。パーティの平均レベルより大きくお前のは下回っているんだよ。これからパーティの昇格試験があるんだ。レベルが足りねぇお前じゃ無駄死にさせて俺らの責任になりかねん。代わりの剣士はもう用意してある」


 ぽかーんと開いた口が塞がらない。

それに確かに俺よりも立派な装備を整えた剣士の男性がいる。

パーティメンバー達はどうともそうとも思わぬ表情で、まるで俺が元パーティメンバーであることを忘れたかのような眼で見ていた。


 寧ろパーティメンバーだと思っていたのは俺だけだったのかも知れない。


「……今まで……済まなかったな」


 全てを理解した後、俺はそう告げると逃げるようにギルドを出ようと扉に手をかける。


「気を付けてくださいね……最近少し物騒らしいので……」


 するとパーティの回復役のリアネが駆け寄り、そう言ってくれた。


「あ、あぁ。ありがとう……」


 小さく震える声で感謝を伝える。

 俺だって一人で上手く出来る方じゃない。それは分かっていた。だけどそれでも俺なりに一生懸命剣士を貫いてきたつもりだ。無論努力もしてきた。

 だが、彼らにとってそれは無意味な努力だったのだろう。

俺よりも強そうな頼れる剣士が新しく入ったことでいよいよ俺の居場所は無くなった訳だ。仕方ないと分かっていてもこれは来るものがある……


 涙をグッと堪えながら俺は変わらない街を歩き、初級のモンスターが多く湧く森へ立ち寄り、夜が深くなるまでそれらを淡々と作業のように狩り続ける。そんな時――


「ねぇね?」


 女性の声が聞こえてきた為振り返る。


「……うぎゃああ!?」

「あ、驚かないで! 襲わないよ?」


 黒い翼に黒い髪、そこに生える歪に曲がった角、そして少々過激な服装。だが貧乳。

 目に映って来たのは人でも魔物でもなく、悪魔だった――


 何故こんなところに。とか、どうして。とか、頭の中を掻き回すように疑問が浮かび上がるのと同時に、死ぬ。殺される。といった絶望感が入り交じり、自我を保つことが出来なくなってしまっているのを頭では分かっていても身体が強ばってしまいどうすることも出来ずにいた。


「安心して、取って食ったりなんて絶対にしない。私は貴方のその力に惹かれてやってきたの。いわば契約を持ちかけに来たんだ


 その悪魔は訳の分からないことを言い出すかと思いきや。


「でね、これ。契約してくれたら」


 何処からかおもむろに正四角形の黒く、赤いラインが刻まれたキューブ状の物を取り出す。


「これは魔界に存在する希少な鉱石で作られた激レアな魔導具。これに道具を吸収させることでその道具の細かな形状をこの道具がコピー。そして何時でもその形状の道具を使う事が出来るようになるの!」


 例えば。と続けて腰に付いた短剣をキューブに押し込む。するとそれはズズズと中に入っていき、容易く吸収される。


「そーしーてぇ」


 手に持っていたキューブは吸収された短剣をほんの一瞬で形作る。色は黒と赤で元のものとは違えど形状は全く同じだった。


「ふっふっふ……欲しいでしょ?他にもいろいろ仕込ませているんだよ〜?」


 そういうと、火のついたランタンや大剣等に変化させていく。こんなもの見たことが無い。

 不思議な力を持つそれにもはや釘付けになっていた。


「欲しい……」


 見たことも無いその新しい物に心が奪われる。引きずり込まれるかのようなその魅力的な道具を手に入れたい。これがあればもしかしたら。

 邪な気持ちが微かに残った悪魔に対する恐怖に打ち勝ってしまっているのを俺は気付いていない。


「じゃあ私と契約を――」


 そう言えば……リアネは気をつけてって言ってたな……でもまあいいや。もう会う機会も、俺がどうなるかも関係無いことだ。


「分かった」

「……意外とすんなり承諾するのね。私見ての通り悪魔だよ?」

「君にとってそっちの方が都合がいいんじゃないか?」

「それもそうなんだけどさ。じゃあこの紙にこのペンで名前を書いてちょーだい!」


そう言うとまた何処からか紙とペンを取り出す。いよいよ契約する寸前まで来たらしい。

 その紙に書かれていることは何一つ理解できなかったが、指で示される場所にサインを書けばいいことだけは理解出来た。


「ふっふっふ! 書いちゃったわね!」

「書いたよ。で、契約内容は?」


 そう聞き返すとポカーンとした表情でこちらを見てくる。そしてしばらくの間沈黙が続いた。


「あ、もしかして読まずに書いちゃったの?」

「まあ魔界の文字なんて普通読めないだろ」

「あっ……えーどうしよう」


 どういう事か急に慌てだした。別に俺としては俺の人生なんてもうどうでもいいの一言に尽きるんだが。なんなら取って食って貰っても構わない。

 悪魔に会った時から死は覚悟している。


「契約内容は私が君の戦闘や生活をサポートする代わりに、君は私を護る。という契約内容なんだけど……」

「俺の身体を乗っ取ったりはしないのか?」

「しないわよ! あー……でも隠れる為に君の身体の中には入らせてもらうわ。痛くも痒くも無いから安心して。こうしないと聖職者らに見つかっちゃうからね〜」


 サインを書いた紙を急に現れた黒い渦の中に入れる。

 恐らく転送系魔法の一種だろう。生で見るのはこれが初めてだ。


「で、私が君の身体に入ると何があるの? と疑問に思ったでしょ?」

「いや、別に……」

「はい思った! 思ったね!」


 言葉を遮り話を進めだす。

 なんとも強引な悪魔だ。


「私、こう見えてもすっごい悪魔でね! おーっと崇めるのはまだ早いよ」


 なんだこの自意識過剰な悪魔は……それに悪魔を崇めたって何一ついいことなんてありゃしないだろうに。


「私には天性の才能があって、それを駆使すればどんな平凡で弱っちい冒険者でも使い方と努力次第でSランクになる事なんて容易いのさ!」

「前例は?」

「ない!」


 どっからそんな自信が出てくるんだ。しかも平凡で弱っちい冒険者って明らかに俺の事だよな。


「でも……あるの。私にはそう言う変わった力がある。」


 何かを思い出したのかふいが一転し、穏やかな口調になる。


「過去の事は詮索しないでね! 私も君の過去は詮索しないから!」


 そしておちゃらけた相も変わらずの悪魔に戻る。


「そう言えばまだ私の名前を聞いてなかったね? 私の名前はエルサード・ラネア・アークスト。気軽に真ん中のリアネスで呼んでもらって構わないわ」


 ここは俺も言うべきだろうと考え口を開けるが、人差し指で止められる。


「悪魔に名前を伝えちゃダメ。私もここの文字は読めないし、君の名前は知らないから」


 一瞬、ドキッとした。自分でもわかるほどに心臓が悪魔に会った時よりも脈打っている。


「ときめいちゃった? 契約した悪魔に恋愛感情を持つのは御法度だよ? 私はサキュバスじゃないしね。じゃあお邪魔しま〜っす」


 そう言うと黒い霧に包まれた後、それが俺に纏う様にしてすぐさま消える。

 俺の右手には黒いキューブが残されていた。


『よーっし! 成功ね。私の見立ては正しかったみたい』


 なんだが不思議な感じだが何処からかラネアの声がエコーが掛かった様に聞こえてくる。後ろでも前でも左右どちらでもなく。


「なあ? 悪魔の臭いって聖職者は結構敏感に嗅ぎつけて来るだろ? このまま街に戻っても良いのか?」

『あー! ちょっと待って。ほいっと!』


 手に持ったキューブが変形し、宝箱のような箱になる。


「これは?」

『この中に付着した悪魔の臭いを無臭化する薬草と聖水が入ってるわ。それをかじったり振りかけて頂戴。悪魔が食べると毒だけど人間には無害だから』


 言われるままに箱を開け、その中に入った二つのアイテムを使用する。


「これでいいか?」

『うん、完璧ね。じゃあしっかり休養を取って明日、試し斬りをしてみよ!』

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