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朔夜と健太郎  作者: 緋色 麻里
2/4

学校に着くと、いつもはのんびりとした雰囲気の教室が今日は騒然としていた。

何かあったのだろうかと思いながら中に入ると


「あ゛っ!朔夜!!!!!」


美加子の声にクラス中の視線が一斉に朔夜に集まる。


「朔夜!見ちゃったよ!あれ、誰!?」

「誰って知らないの美加子!あれって、緑風の小杉君だよ!なんで朔夜と~!?」

「超かっこいいんだよ~!」


教室中からの声に耳が痛くなりそうだ。

朔夜は思わず首をすくめながら席に着いた。

カバンから荷物を出そうとしても周りの質問攻めは終わらない。

仕方なく朔夜は口を開いた。


「あ~・・」


ピタッと雑音が止まる。


「あれは、確かに緑風の小杉健太郎君です。っていうか、何であいつのことみんな知ってるの?」

「だってカッコよくって有名じゃん!朔夜、知らないのぉ!?」


「うん。昨日まで知らなかった」

「じゃあ、なんで朝、一緒にいたの!?」


なんで?


「んと・・一緒に行こうって言われたから、かな」

「なんで一緒に!?」


「それは」

「それは?」


「昨日」

「昨日・・?」


「付き合ってって言われたから」

「え゛っ~~~~!!!!!」


クラス中の悲鳴に今度こそ耳が痛くなる。

いや~!とか、うそ~!とか、信じられない~!!とかそれ以外にも朔夜が聞いたこともないような悲鳴があちこちで沸き起こっていた。


「なんでなんで朔夜が!?」

「知らないよ、私だって」


コスメオタクのメグミが、つけまつげをバサバサ言わせながらすがりついてきた。


「だって朔夜って普通じゃん」

「うん、そうだよね」


「ほかにもかわいい子いっぱいいるのにぃ」

「そうだよね。メグミのほうがかわいいよねぇ」


何気にばかにされているな、と感じながらもメグミに向かって首をすくめた。


「なんでも、電車で私を見染めたらしい」

「見染めたぁ!?」


「うん。一目惚れだってさ」

「一目惚れぇ!?」


「朔夜が、じゃないの!?」

「違うよ。あっちがだよ」


少々みんなを見返してやりたいという心理が朔夜にも働き、言わなくてもいい一言を言ってしまった。

みんなの「うそだぁ」という視線が突き刺さる。


「朔夜のどこに一目惚れなのぉ?」

「どうやらこの冷めた感じがいいらしい。それに、本好きなところだって」


「ええぇ?ほんと~?」

「ほんと、ほんと」


「・・・・・・・小杉君の趣味って変ってるね」


メグミの一言にみんながうなずく。

余計な御世話だ。


みんなは今度は朔夜を抜きにしてああだこうだ言い始めた。

それにしてもクラスのほとんどが健太郎を知っていたことに朔夜は驚いた。

確かに見惚れるほどハンサムだとは思うけれど、このままでいけば学校中の女子から反感を買いかねない。

いや、紫音はまだましだろう。

緑風の女子からは目の敵にされる可能性だってあるわけだ。

現に朝、健太郎を取り囲んでいた女の子たちはいやな視線を朔夜に送っていた。


はぁ・・先行き不安かも。


朔夜は深いため息をついた。







「じゃあさ、その小杉君とは行き帰りの電車で会うようにしたわけ?」

「うん。それしかないからね」


美加子はちっちゃいお弁当箱の中のプチトマトをつまみ、朔夜は購買部で買ったチキンサンドをほおばりながら朝の会話の続きをしていた。

烏龍茶のキャップを回しながら桃子が朔夜に助けを求める。


「ああん、これ開かない!さくちゃん、開けてぇ」

「うん、貸してごらん?」


朔夜が回すと簡単に開く。


「ありがと~!こんな男前なさくちゃんに小杉君は惚れたのかな??」

「・・ペットボトルのキャップなんて誰でもあくよ」


嬉しそうな桃子にちょっぴり呆れる朔夜。


「でもさ、その小杉君って見る目あるよね」

「え?そ、そう?」


「うん。私、さくちゃん大好きだもん」

「それはありがとう」


照れながら、そう言えば桃子も小犬みたいにくっついてくるな・・と朔夜は思う。

小犬に大型犬・・

やっぱり私は(なつ)かれたんだな、と結論を出して納得する。


「ライン、交換したの?」

「まあ、一応ね」


ふうん、と美加子がにやけてる。


「何?」

「いや、わたしさ、朔夜って彼氏なかなかできないんじゃ・・と思ってたからさ」


「私もそう思ってたよ。男の子に興味もないし」

「興味がない?」


「うん、まあ」

「じゃ、どうして付き合うことになったの?」


「申し込まれたし・・」

「うん」


「先輩が付き合ったほうがいいっていうし」

「先輩?」


朔夜は昨日のお姉さんとのやり取りを簡単に説明した。


「へえ。いいタイミングでいいアドバイスもらったねぇ」

「うん・・そう言われたら、確かに健太郎はハンサムだからさ」


「呼び捨て・・」

「だってそう言えって言うんだもん。あっちも呼び捨てだし」


「うわぁ、カレカノしてる~!!!!」


急に悶え出した美加子に面食らい、チキンサンドでむせてしまった。


「うっ・・と、とにかく、まだ付き合い始めて一日目だし、続くかどうか分かんないよ」

「いやん、そんなこと言わないで頑張って!!でさ、小杉君のお友達をぜひ私に紹介してちょーだい!」


そうか、そう来るか・・と朔夜は笑う。

男っ気がない自分の周りに、急に風が吹いてきた気がする。

でもそれは、穏やかな風ではなく突風のような気もするが。






朔夜がいつもの電車に乗り込むと、案の定、いつもはあまり見かけない緑風の女子が目立った。


「朔夜」


隅にいた健太郎が呼ぶのでそちらに向かう。

じろじろと遠慮のない、というよりもあきらかに敵意に満ちた目で見定められてあまりいい気分じゃない。


「お帰り。」

「・・ただいま。」


健太郎が朔夜のカバンを手に取ると、車内のどこからかいやぁと悲鳴が聞こえた。


「あれ、健太郎のファン?」

「ん?・・あ、あれね」


つぃ、と冷たい視線を声が聞こえたほうに走らせる。


「朝も思ったけど、その目冷たいよね」

「え?何が?」


自覚、ないんだ。


「結構冷たい目で女の子たちのこと見てるよ」

「・・そうかな」


「うん。底冷えする視線だね」

「底冷え」


プッと吹き出すと、健太郎は朔夜を壁際に立たせて自分は車内に背を向け、耳元に顔を寄せた。


「こうして朔夜だけ見てれば底冷えする目付きもしないだろ」


またもや近くにいた女の子から悲鳴が上がる。

朔夜は昨日に引き続く、鳥肌が立つような恥ずかしいセリフに目が丸くなった。


「ほんとに・・よくそんなセリフが出てくるね」

「だって、そう思うんだからしかたないだろ」


「で、何であの人達にそんな嫌な顔してるの?」

「あいつら、俺の外見しか見てないからさ。でもって何かいうとキャーキャーうるせえし」


「外見・・?まあ・・顔は良いわよね」

「これはさ、親の顔のミックスなだけで、俺の中身とは関係ないじゃん」


「うーん、でも目は心の窓って言うよ」

「だからあいつらにはこんな目になっちゃうんじゃないの?」


そう言って、健太郎はちらりと嫌そうな視線で周りを見回した。


「・・こんなに冷たい男のどこがいいんだか」

「クールなところが良いんだって。理解できねぇ。あ、でも朔夜には熱い男でいるからな」


「ぶ・・ぶぁっ・・か」


耳元でささやかれた恥ずかしいセリフ第3弾に我慢できず、思わず噴き出してしまった。

朝のラッシュの密着でそこそこ免疫ができたらしい朔夜は、その後も健太郎が必要以上に近くにいるにも関わらず、それほどの抵抗感もなくひそひそ話を続けていた。

それは、朔夜や健太郎の言葉にいちいち反応するギャラリーに聞こえないようにするためのひそひそ話だったわけだが、もちろんそれは周りからみればいちゃいちゃしているようにしか見えない。

その事実に気付かない朔夜は、健太郎ファンの女子の神経を逆なでしまくり、反感を大いに買ってしまった。





針のむしろ、とまではいかないながらも居心地の悪い車内からホームに降りるとほっと一息ついた。


そう言えば昨日もここでため息をついたような。

原因はやっぱり健太郎だったよね。


昨日と同じシチュエーションでちらりと隣を見る。

やはり昨日と同じ顔でにんまりと笑う健太郎と目があった。


「何がそんなに楽しいの?」

「だってさ、昨日まで毎日この子ってどんな子なんだろう、とか優しい子なのかな、とかいろいろ想像してた相手が俺の隣にいるわけだからさ」


「毎日・・・で、どう?私は」

「面白い」


「面白い?」

「ああ。想像とは違う感じだったけど、面白い」


「それは良かったって言っていいのかなぁ」

「俺の周りにはいないタイプだもん。どっちかっていうと男みたいだよな、朔夜の性格って」


「うん、よく言われる」


そうなのだ。

朔夜はさばさばしているところがあるので、学校で妙にモテル。

3年になったら「お姉さま」とか言われそうで、実は怖かったりもする。


「で、そんな『おとこおんな』でもいいわけ?彼女っていう感じじゃないでしょ?」

「そんなことないよ。朔夜はかわいい」


健太郎は目を丸くして破顔した。


かわいい


思わぬ言葉に朔夜もありがと・・と答えておく。


「・・やたらべたべたしてくる女は俺、苦手なんだ。それに比べて朔夜は新鮮」

「この1週間ずっと俺の熱いまなざしでお前を見てたのに気付きもしなかったんだから」


もしかしたらおちょくられてるんじゃないだろうかと思いたくなる、だけど真面目な健太郎の言葉に赤くなる。


「・・だからだな。朔夜には自分から近づきたくなる」

「え」


「それに朔夜はおとこおんなじゃない。十分女の子だよ」

「そ、そう?」


「朝だって、俺にくっついちゃってドキドキしてただろう」

「あ!あれは・・誰だって男の子に密着したら平常心ではいられないでしょう」


「そうだろ?だから朔夜はかわいい女の子ってことだろ」

「・・まあね」


「ねぇ、あれって俺だからドキドキしてたの?」

「どうかなぁ」


「じゃあ、俺じゃなくてもドキドキした?」

「・・・たぶんね」


「なんだ・・俺だから、じゃなかったのか。」


がっかりした顔を見て朔夜は、男子って単純でかわいいな・・と可笑しくなった。


「まあ、いいさ。そのうち俺自身にドキドキさせてみせるよ」


健太郎の恥ずかしい発言第4弾。

そう言った健太郎は自信に満ち溢れた顔で朔夜を見つめてくる。


笑い飛ばすタイミングを逃した朔夜は、「き・・期待してる」と答えてベンチを立った。


「また明日な!」


健太郎の大きな声に振りかえり、「じゃぁね」と答えた朔夜の胸は、十分ドキドキ言っていた。


一話に引き続き読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。(^^)

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