ギミックボス
なんか長くなってしまったので、アイテム回は次回となります。
多分夜には更新出来るかなと思います!
「クゥゥゥゥゥゥゥン……!」
弱々しくなっていく絶叫。とうとうジュヴィスのHPはゼロになった。
今回はボスよりも、召喚されるハイディング・シェイドの処理が忙しい一戦だったな。
絶叫が完全に収まると、ジュヴィスの体は周囲の闇を取り込み始めた。
やがてその闇を全て吸い込むと、ジュヴィスはプルトガリオ渓谷の夜の闇に溶けるように、静かに消えて行った。
「倒せた……! ファーストキルだ!」
アタッカー勝負はオウミの勝ちだった。
俺の最後の攻撃では、ジュヴィスのHPを削り切れずに直剣の方が折れちまった。
次の錬成をしようと手首のショートカットウィンドウに手を掛けた瞬間、オウミはジュヴィスへのラストアタックを決めた。
ちっと惜しい気持ちにはなったが、今回のファーストキルは狙えるなら狙おう程度なもの。
だからこれはこれで、クロムの奴に華を持たせてやれる結果となった訳だ。
んま、ドロップアイテムでイイモン落ちてりゃそれで良し、って感じだな。
「ギミックボス? ってなんだろう?」
「どれどれ、見せてみ」
オウミのすぐ隣へと近づき、そこに広がるウィンドウの中にある文に目を通す。
「本当だ。ギミックボスって書いてあるな」
俺はプレイングマニュアルの、[特殊ボス]の項目を開いた。
「んー…………。あったぞ! ギミックボス」
俺はそこに記載されている内容を、全員へと向けて読み上げてやった。
ギミックボスとは、フィールドに特殊な効果を与えるボスのようだ。
変化の大小を問わず、フィールド内で何か異変を感じればギミックボスが生成されている可能性が高い。
ボス性能に関してはフィールドボスと同程度らしいが、フィールドボスと大きく違うのは、ギミックボスに挑めるのはフィールドボスのようにパーティごとではなく、ギミックボスのエリアへと繋がる、[転移の渦]をアクセスした全パーティだとの事だ。
挑戦形式はフィールドボスだが、参戦形式はエリアボス。ってな具合だな。
「なるほど……。だから二パーティでボスに挑めた訳なのか」
納得したようにルーアはこう口にした。
「そうみてぇだな。なかなか楽しかったぜ? 合同パーティってのもよ」
「こっちこそ、良い経験になったよ。また遊んでくれよな! 銀水晶」
四人から一斉に、フレンド依頼の申請が飛んでくる。俺は一つずつそれを承認してやった。
ここまでやっておけば、『Zephy;Lost』の連中とも上手くやっていけるだろう。
「……ねぇ。今回のボス戦でのあんたの動き、なんか変じゃなかった?
戦闘中にメッセージとか送ってきてたし、やたらと話し合ってる姿が目についたんだけど」
「あっ! そうだ、さっきの話の続き! 教えてよ!」
ボスをムザサパーティが倒してめでたしめでたし、ってな風には終われなかった。
椿とオウミに説明してやるついでに、俺は今回のボス戦の真の狙いを全員に教えてやった。
真の狙いと言っても、何も大した事ではないんだけどね。
「……せっこ」
俺の話を聞き終えた椿は、吐き捨てるようにこう言った。
「うるせぇ」
「真面目に戦え銀水晶ぉっ!」
オウミが剣を抜いて、ブンブンと振り回しながら叫んでいる。
「やってるやってる。だからジュヴィスも倒せただろ?」
「そうだけど!」
……結論から言うと、今回俺はジュヴィスに遭遇した時点で、一つ思い付いた事があった。
それは、ボスであるジュヴィスのファーストキルを『Zephy;Lost』のものとして手伝う代わりに、その報酬として錬成石を始めとする、幾つかのアイテムを『Zephy;Lost』から頂こうというものだ。
クロムへの、「ダンジョン攻略を手伝えなくてごめんね」という気持ちがちょこっと。
でもまるっきり何も無しじゃあ、他のギルドは手伝ったのに!? と思われてもバツが悪い。
だけどタダ働きはしたくない。
そんな俺の下心満載な思考を完全に隠蔽した上で、ムザサパーティの全員を生存させ、更にはファーストキルを万が一にも俺達が取ってしまった場合でもお咎めはナシという、即席ながらも完璧な作戦を立てたつもりだった。
どうせ後でバレるだろうし、ここでタネ明かししてもいいよね。したけど。
……その為に椿をパーティ間で動かしたり、オウミにあちこち動き回って貰ったり、テュリオスに無茶なオーダーを寄越したりした訳だ。
ほらな、蓋を開けば大した事ないだろ? 椿にはセコいと言われたが、勝者こそ正義だ。
「ま、まぁ……、確かにファーストキルはウチのモンになった。
フルパーティで挑んでも、ジュヴィスの最後の召喚は突破出来なかっただろう。
マスターのクロムには、上手く話をつけておくよ」
「そうして貰えると嬉しいよ。ムザサ。さ! 景気仲良く、ドロップアイテムを皆で見ていこうぜ!」
「全くもってどうしようもない奴ね……」
「ソウキとは、こういう男だ」
椿とテュリオスが俺の方を見ながら、こんな事を言っている。
「うっせぇ! ほら、二人も早く来いよ」
そんな具合に俺達は、二パーティの全員で一つずつドロップアイテムを見ていく事とした。




