包囲を潰し、王を狩る―1
俺にはテュリオス、オウミにはムザサとルーアが盾役として付き、二チームに分かれてジュヴィスのHPを削ること数分。
この間にも、ジュヴィスはハイディング・シェイドを召喚してきたが、それを無視して全員で総攻撃を畳み掛け、ジュヴィスのHPはあっという間にレッドゾーンまで下がっていった。
「クォォォォォォォオォッ!!」
HPがレッドゾーンに入ったジュヴィスは、今までよりも甲高い声で叫び、そして……。
「……これはどう見てもマズいな」
「マズいどころじゃねぇぞ……!」
ジュヴィスを囲っている俺達を囲うように、ハイディング・シェイドが沢山召喚された。
パッと見るだけでも二、三十体は居る。
ハイディング・シェイドは地味く攻撃力が高い。
包囲されれば、一瞬でHPを刈り取られるだろう。
「テュリオス、死ぬ覚悟はあるか?」
ジリジリと近付いてくるハイディング・シェイドを流し見ながら、テュリオスへとこんな言葉をヘラヘラと切り出す。
「無い。……死ぬつもりは無いが」
「けっ。お前にしちゃあ弱気じゃねぇか」
「数が数だからな。流石にあれを俺達二人だけでは処理しきない。全員が擦り潰されるぞ」
「それでも行くしかねぇ。テュリオ――」
――突如、椿の歌声が俺の耳に届いた。
直後、椿はハイディング・シェイドの群れへと突っ込んで行くのが見えた。エレナ一人をその場に残して。
……だけど、それでいい。
「……テュリオス、椿の所に行ってくれ。絶っ対ぇ椿を死なすなよ」
「俺への注文が、いつもより無茶寄りじゃないか?」
「お前と俺しか、この状況を何とか出来る程の火力を出せる奴は居ねぇ。ここまで来たら、全員でジュヴィスを倒すんだ。
頼むぜ。俺はお前達二人の反対側から雑魚を潰していくっ……!」
それだけ告げると、向かってくるハイディング・シェイドの壁へと俺は走った。
影のように真っ黒な人型モンスターのハイディング・シェイドは、殺人的な尖りを見せるツメを立てながら、ゆっくりと俺達の生存エリアを狭めていく。
このエリアが更に狭められ、完全に閉じられてしまった時。
その時は俺達全員、ハイディング・シェイドの群れとジュヴィスに押し潰される形で全滅してしまうだろう。
だがまだ、即席ながらも練り上げた作戦はめくっていない。
これが手札に残っている内は、負けは無い。
「オウミ達はこの状況に焦ることなく、上手くジュヴィスと戦ってくれているな」
ジュヴィスのHPは、もうすぐ二割程になろうとしている。
ムザサとルーアがジュヴィスの攻撃をブロックし、その隙間を縫うようにオウミが飛び出してはジュヴィスへと連撃を浴びせる。
たった三人しか居ないが、オウミの火力の高さがある分、きっちり三人分のアタック力は確保出来ている。これこそがこのパーティ最大の強み。
こういったバランスの取れた編成には、アタッカーに対してかかる負担がとにかく多い。
一人で敵へと突っ込んで行かないといけない勇気と、判断と反応のスピード、そして戦闘の勘や、敵の行動に対してのそこそこな精度の嗅覚を要求された上で、両手に装備した武器分のダメージをきっちりと稼ぐ必要がある。
だがこれが出来るプレイヤー、つまりはオウミが居る事で、このパーティは他のパーティよりも、一人分多い編成力を持つ事を意味する。
汎用職業だけで構成されたパーティ同士で競い合うならば、この一人分の差は大きなアドバンテージになる事は間違いない。
テュリオスに至っては盾役兼アタッカーであるが為に、いつも以上に忙しい。
その右手に握られたエッジオブヴォイドと、左手に構えたシールドオブヴォイドのおかげで、テュリオスは火力を出しつつ盾役もこなせるという、実にかゆい所に手が届く存在なのだ。
テュリオスは椿と合流し、二人で協力しながらハイディング・シェイドで構成された壁を時計回りに潰していた。
「やるなあいつら。こっちも負けてらんねぇ!」
俺の方はこれで、ハイディング・シェイドを四体倒した所だ。
目の前に流れるハイディング・シェイドの波を崩しながら、全員の動きと、ジュヴィスの残りHPを逐一確認していく。
……ボス戦ってこんな忙しかったっけ。




