月影の使徒・ジュヴィス戦―2
「オウミ。俺とひとつ、勝負をしないか?」
HPを回復させたオウミは、俺の元へとすぐさま駆けつけてくれた。
それに続くように、椿を除いたテュリオスとムザサ、エレナとルーアという編成で四人も戦闘に参加。
少しの間、テュリオスと向けてにはジュヴィスの攻撃を引き受けて貰い、俺はオウミと隣合わせに並び立ち、こんなお遊びをオウミへと持ち掛けていた。
「うん! いいね、勝負勝負っ!」
口調から察するに、オウミはコットよりは少し年下、レベッカよりは少し年上かなって感じだ。
勝ち負けに関わらず、勝負ごとが好きな年頃なんだろう。
「よしきた。先にジュヴィスへ一撃当てた方が勝ちだ。何かチップは賭けるか?」
「お互いの欲しい物を賭けよう! 出せれば、だけど!」
「オーケー。俺はー……、考えとく。オウミは何かあるか?」
この勝負はオウミに勝たせる事が目的だ。
俺が払ってもらうチップは、実質的には無いようなもの。
「んー……。ソウキの要らない直剣! 緑レア以上がいいな! どう?」
お、ちょうどオウミにぴったりの手持ちがあったな。
「ほぅ。良いだろう! ムザサかテュリオスが次のジュヴィスの魔法弾を防いだら、それがスタートの合図だ」
そうオウミへと告げた俺は、槍を錬成し、オウミとの勝負に備える。
「槍で勝負するの? それでもオレは負けないよ!」
「俺も負けるつもりはねぇぜ」
まぁ負けるんだけどな。手ぇ抜くけど許せよオウミ。
現在、ジュヴィスのHPの残りは六割を切ろうとしている所だ。
まだまだ油断は出来ないが、ジュヴィスがハイディング・シェイドを召喚する時だけ集中していれば、誰かがやられるような事はイエローゾーンの間では無いだろう。
どうやらジュヴィスのイエローゾーンでは、HPが一定値を下回る度に、ハイディング・シェイドを召喚してくるパターンが組み込まれていると予測している。
次は六割か、五割を切った辺りで召喚してくるだろう。
そのタイミングで、俺がジュヴィスの敵視を握っているかどうかが次の一手へのポイントになる。
だからこそ、ここは先にオウミが敵視を取る必要がある。チップはおまけみたいなモンだ。
「魔法弾だ!」
ジュヴィスの手元に、魔法弾が浮遊し始める。
「放つまでよぉく見とけよ! フライングしたら罰金だかんな!」
「わかった!」
そしてジュヴィスは魔法弾を放ち、テュリオスはシールドオブヴォイドで向かってくる魔法弾をがっちりとガードした。
「ごーっ!」
「かかったなオウミ! 俺にはこんな事も出来るんだぜっ!」
俺は手にしていた槍を、ジュヴィスの体目掛けてブン投げた。
まぁ、よほどの事故が無い限りはジュヴィスまで届かないけどな。
「あぁーっ! ずるい! せこい! 汚いぞ銀水晶ぉ!」
と叫んでいたオウミではあったが、投げられた槍がぽとりと地に落ちるのを見るや――。
「オレの勝ちだ!」
と、喜びながらジュヴィスへと斬り込んで行った。おめでとう。
……予測通りにジュヴィスのHPが五割を切ると、絶叫を上げながら俺の周囲にハイディング・シェイドを召喚してきた。
「よしよし。ここまでは順調だ」
俺から錬成され、両手に握っている火炎属性の直剣で斬られ、HPを失ったハイディング・シェイドは、霞に溶けていくように消え去っていく。
椿の歌の効果で、俺の元々高かった火力も更に引き上げられている。支援様々よ。
そしてハイディング・シェイドを処理するのも、ちょっとばかし手慣れてきた。
数もそこそこ狩っている。闇の錬成石のドロップには期待したい所だぜ。
そして戦況的には、先程オウミがヤバくなった程度で、テュリオスもジュヴィスの魔法弾による貫通ダメージは受けているものの、戦闘に問題は無さそうだ。
テュリオスには[命の雫]を買わせてある。
何かあればテュリオスを下げて、俺がジュヴィスの敵視を引き受けてやって、その間にHPを回復して貰えればいい。
このまま少しずつ確実に削っていくのも悪くはないが、ちと召喚が面倒だ。
「テュリオス! 来いっ! 強引にレッドゾーンまで持っていく!」
「了解だっ!」
荒事も何も言わずに引き受けてくれるテュリオス。全く頼りになるぜ。
「オウミ! 俺らに構うな、ジュヴィスを全力で殴れっ!」
「大丈夫なの!?」
「問題……、ねぇっ! ムザサとルーアはオウミに続けっ!」
最後のハイディング・シェイドを処理し、総攻撃を仕掛けて一気にジュヴィスのHPを削る為、椿とエレナ以外の全員を前に出してアタッカーに回す。
「わかった!」
さぁて。そろそろボス戦も終盤だ。
是非ともジュヴィスには、レッドゾーンでも可愛げのある行動をしてもらいたいね。