月影の使徒・ジュヴィス戦―1
「ハズレ……じゃねぇ! 当たりだ!」
転送された先は、安全エリアではなかった。
が、フィールドボスのエリアとも違う感じがした。
安全エリアでもボスエリアでもないというのはどういう訳かはわからないが、間違いなく目の前の敵はボスだ。
そういう見た目、そういう雰囲気を出している。
俺達の方が若干遅かったのか、ムザサ達は既に戦闘を開始していた。
膝の高さの位置を浮遊し、まるで空気のソファにでも座っているかのような、無理なく、仰向け気味くつろいだ姿勢で居る、女型のボスモンスターだ。
「椿は後ろで支援頼むぜ!」
「……他人の前で歌うの、恥ずかしいんだけど」
ボスを前に何言ってるんだコイツは。
「いいじゃねぇか! アップデートしてから初のボス戦だ。
お前の力を存分に見せ付けて、良いデビュー戦にしてやろうぜ」
「言ってる意味が全くわかんないんだけど。
……まぁいいわ。支援は任せてちょうだい」
「よっしゃ! 行くぜテュリオスっ! ムザサ達にボス経験の差を見せてやれよ!」
「ふんっ。汎用職業の剣士職がオウミを合わせて四人か。燃えるな」
属性の相性次第では、テュリオスの方がぶっちぎりで火力が高い筈だ。
「……よぉムザサ。まさかここでも合同だとは思わなかったぜ!」
ひとまずテュリオスをムザサの代わりに、オウミの盾役へと回ってもらい、その間に俺はムザサへと状況の確認を取っていた。
「俺もびっくりだ。……ボスの名前は月影の使徒・ジュヴィス。
今の所は、魔法弾のような攻撃しかしてこないが……」
ムザサの言っている通り、ジュヴィスとやらは今一番敵視値の高いであろうオウミへ向けて、白紫色の拳大ほどの大きさを持つ弾丸を五発、手元に生み出しては放っている。
「みてぇだな。お前はオウミの所に行ってやってくれ」
「お前の方はどうするんだ? 銀水晶」
「オウミが居るんだ。敵視のコントロール位は簡単に出来るだろうよ」
「……マジで言ってるのか?」
「大マジ……だっ!」
「ちょ! 銀水晶っ!?」
ムザサの声を無視して、体の真横を俺に晒しているジュヴィスの元へと突っ込む。
「さぁ。俺と遊ぼうぜジュヴィス!」
まずは小手調べだ。【デュアル・エッジ】のスキルで両手に錬成した直剣で、ジュヴィスの体を斬り刻んでいく。
「クゥアァァァァッ!!」
なるほど、両手の直剣が折れるまで攻撃すれば、ジュヴィスの敵視をオウミから奪い取れるか。
とりあえず、しばらくは敵視のコントロールは利きそうだ。
「オウミ! 全力攻撃頼むっ!」
「あいあいさーっ! 任せんしゃい!」
俺がジュヴィスの魔法弾を避けている間、オウミが隙だらけのジュヴィスの体へと両手の剣を振り回して斬り付けていく。
……よしよし、削りは良い感じだ。
エレナとテュリオスも、上手く攻撃を絡めてくれている。既にジュヴィスのHPゲージは八割。
「何? もうイエローだと?」
ジュヴィスのHPゲージの色は、既に黄色くなっている。
イエローゾーンへと移行するのがやけに早い。
「クゥゥゥゥウッ!」
ジュヴィスの甲高い叫び声が響く。
「うっそ……。それはやべぇ……!」
ジュヴィスの叫び声が終わると同時に、オウミの周囲を囲うように突如として現れた、四体のハイディング・シェイド。
「椿っ!」
「……はい」
……お前、今ちょっと嫌がったな?
ともあれ椿の歌によって、パーティメンバーである俺とテュリオスの攻撃力と防御力が上昇した。
「テュリオス!」
「わかっている!」
オウミの周りに群がるハイディング・シェイドをテュリオスと二人で処理する。
物理属性に強いハイディング・シェイドに対して、俺は火炎属性の直剣を振るって攻撃した。
テュリオスの雷撃属性の攻撃でも手早く倒せる。どうやらハイディング・シェイドは属性付きの攻撃に弱いみてぇだな。
「オウミ、HPは大丈夫か?」
召喚されたハイディング・シェイドを全て処理し、後退したオウミへと近寄って声を掛けた。
「ちょっとヤバいかも……」
四大ギルドに所属するプレイヤーとはいえ、武器は整っていても、防具までは手が行き届いてない、か。
「[命の雫]は持ってるな?」
「うん」
「HPを全快にさせてから来い。その間、俺が奴のHPを削る」
再び両手に直剣を錬成し、ジュヴィスの攻撃を抑えてくれていたムザサとテュリオスの二人の間を全力で駆け抜け、ジュヴィスへと斬り込む。
「うおぉっ! 無茶苦茶だな銀水晶……」
すまんムザサ。最短距離の為だ。
「アイツはあぁいう奴だ」
おいこら、聞こえてんぞテュリオス。
「んぁぁあっ!」
ジュヴィスのすぐ傍へと辿り着いた俺は、とにかく斬る。斬り刻む。めった斬りだ。
瞬く間にジュヴィスのHPは七割を切った。
「クゥォォォオァッ!」
「舐ぁぁめんじゃねぇっ!」
すぐさま火炎属性の直剣を両手に錬成し、俺の周囲に召喚された四体のハイディング・シェイドを斬り飛ばしていく。
一度両手の直剣はブチ折れたが、ハイディング・シェイドからダメージを貰いながらも、再度火炎属性の直剣を両手へと錬成し、強引に蹴散らす。
出し惜しみなんてしちゃあいられない。
ハイディング・シェイドとやり合っている間、ジュヴィスからも魔法弾の攻撃を浴びせられはしたものの、アトラリアの法衣と機械神使の首飾りに付与されている、装備限定スキルのHP回復効果だけを頼りに、俺はジュヴィスの懐へと突撃していく。
「……っはは。こういう戦いも悪くねぇ。悪くねぇなぁっ!」
オウミが戦闘へと復帰する、ほんの一分かそこいらの間、ただひたすらに俺はジュヴィスと殴り合っていた。




